当世ビジネス芯話 ■編集人 宇野 秀史
指導者やトップには威厳が求められる。様々な価値観や考え方を持つ人たちを束ね、同じ方向に向かって力を集中、発揮させるためには、威厳が欠かせないといえるだろう。
威厳とは、立派で尊敬されること、近寄りがたいほど厳かでいかめしいなどと理解されている。社会的な地位や組織内で影響力を持つ人が、自分よりも弱い立場の人を蔑んだり、自分に都合のよい言動を強要したり、我儘な発言や行動をする人を見て威厳があるなどと思われることもるようだ。しかし、部下や周りに対して不遜な態度を取り、威圧することが威厳だと捉えるのは間違いである。威厳が有るとか無いということは、他人が判断することである。
言葉は時代によって意味や使われ方が変化するものだから、威厳に対する意味も多少は変化してきたといえるかもしれない。しかし、威厳として使われている場合、どうもいかめしさが前面に出てきているように感じてしまう。
トップだけでなく、組織をまとめる人には、自分よりも弱い立場にいる人に対して優しさや情を持って接した方が良い。仕事での厳しさは必要だが、威厳をつけるには、信賞必罰などの判断を公平にすることである。自分の利益や感情、都合を基準にして不公平な判断をすれば、周りから尊敬されることなく、威厳は損なわれる。威厳は祭りの神輿のようなもので、大勢の人が敬い大切に担いでくれるから、有り難さや重みが付いてくる。怖いだけの神輿なら、だれも担ごうとは思わないだろう。
「君は舟、臣は水」という考え方がある。中国から伝わった言葉だと思われる。字の通りで、帝は舟で家臣や民は水である。帝がいくら偉くて力を持っていても、乗っている船を浮かべ、進めるのは家臣や民である。帝は天から選ばれるが、その資格を無くした時、民衆が帝の政が天の意思に背いて間違っていると思えば、船を転覆させることもできる。
これを企業や組織にあてはめれば、トップは従業員や顧客、地域によって支えられているのであって、傲慢な考えや振舞いをしていると、転覆させられ、倒産の憂き目にあうということだ。
これまで、多くの経営者に会ってきた。素晴らしい会社のトップの多くは謙虚である。謙虚でありながら、威厳もある。経営の神様と称される松下幸之助氏は「謙虚な自信」という表現をした。言い得て妙である。謙虚であるがゆえに、尚更、威厳が引き立つのかもしれない。本当の威厳は、尊敬の上に積み上がっていくものかもしれない。ただ、怖がられるだけでは、威厳は付いてこない。
社長やトップは、様々なところでその言動が注視されている。自ら威厳を求めるのではなく、まずは、人から慕われ尊敬される人間になることを目指すべきではないだろうか。
当世ビジネス芯話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.127(2022年1月号)
プロフィール
宇野 秀史(うの ひでふみ) ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴る。また、経営者の知恵を後継者に伝える、知恵の伝承にも取り組む。
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