経営者の知恵を後継者に残すことで100年企業の基礎を築きませんか

「刻石流水」ができる人でありたい

当世ビジネス芯話

当世ビジネス芯話  ■編集人 宇野 秀史

刻石流水(こくせきりゅうすい)――先日、尊敬する経営者から伺った言葉である。この言葉のような生き方をしたいものである。

言葉の意味は、文字の通り「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す」というようなものである。人間関係を長く続けるために必要な考え方だ。人の心をつかむ天才・田中角栄氏は、故郷・新潟から東京に出る際、母親から「金を貸した人の名を忘れても、借りた人の名を絶対に忘れてはならない」という言葉を贈られたという。角栄氏はその言葉通り、金銭だけなく与えた恩の見返りを求めなかった。だから、多くの政治家や官僚が彼を慕ったのだろう。100以上の法律を通すという実績は、剛腕だけで出来る偉業ではない。周囲の人が、「角さんのためなら」と力を惜しまず働いたからではなかろうか。

とはいえ、「刻石流水」を実行するのはなかなか難しい。人はどうしても、自分が他人に与えた施しをいつまでも忘れずに覚えているものだし、元まで取ろうとする。だから、相手が自分の思い通りに動いたり、反応しなかったりすると「あいつには、●●してやったのに・・・」という言葉がつい出てしまう。

経営者であれば、従業員に対してもこういう言葉がつい出てしまうのではなかろうか。「育ててやったのに、恩知らずだ」とか「あれほど教えてやったのに出来るようにならない」、「何度も高い食事をごちそうしてやったのに」など、大なり小なり思い当たる人は多いだろう。こうした言葉を口にしていると、その言葉は自分自身にも向けられるので、最後は、自分の心もきつくなる。自分にストレスをためないためにも流水に務めたいものである。
また、独り言であれば良いが、誰か他の社員や知人が聞いていたらどう思うだろうか。「自分も同じように言われているのでは」と思うかもしれない。

流水同様、刻石も難しい。人からかけられた情けや恩は、つい疎かにしたり、忘れたりしてしまいがちになる。時間が経つとなおさらである。刻石を実践するためには、謙虚な姿勢と感謝の心、有難いという心を忘れないことかもしれない。人から受ける情けが当たり前だと思っていると、疎かにし忘れてしまうのも当然だ。
受けた情けを忘れてしまうというのは、人として問題があるとお叱りを受けそうだ。しかし、自分に当てはめて思い起こすと、日常的に受けている情けの多さに驚くし、それに対する感謝の気持ちが欠けていることの多さに恥ずかしさを覚える。

経営者には、自分の力を誇示して周りを従えていくタイプと、いつの間にか周りから押し上げられるタイプがあるように思う。どちらが経営者として優れているかという問題は別にして、「刻石流水」ができる経営者は、おそらく周りから押し上げられるタイプではなかろうか。

当世ビジネス芯話  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.111(2020年9月号)

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プロフィール

宇野 秀史(うの ひでふみ) 
ビス・ナビ編集人

昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴る。また、経営者の知恵を後継者に伝える、知恵の伝承にも取り組む。

著書:『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)

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