当世ビジネス芯話 ■編集人 宇野 秀史
過去と他人は変えられない?
「過去と他人は変えられない」という表現を自己啓発の本などでよく目にする。確かに起きてしまったことを変えることはできない。タイムマシンで時間を遡ることができれば別だが、今のところ現実的ではない。
しかし、過去に対する記憶というか、捉え方を変えることはできるはずである。小さい頃から両親や大人たちから褒められたことがない。だから、大人になった今でも自己肯定感が低く、自分に自信が持てないと悩んでいる人もいる。自己肯定感にかぎらず様々な面において、上手くいかないこと、上手くできないことと過去の出来事を結び付けて、現在の状況について否定的に語られることが案外多いことに気づく。
フロイト心理学では、過去に受けた心理的な傷がその後の考えや行動に影響を与えるという。それも否定はできない。しかし、過去の出来事に対する捉え方を自分のために書き換えることはできるはずである。例えば、「小さい頃、両親が躾や教育に厳しく、怒られてばかりいた。時には、叩かれたこともあった。両親からの愛情を感じることができず、両親に対しては今も苦手意識があり、どうしても疎遠になっている」という人がいるかもしれない。両親の教育が厳しかったのは、本人にとっての事実であろう。しかし、本人が考える事実を引きずっていて物事が好転するとも思えない。
人間関係も上書きすれば好転する
大切なことは、事実をどう受け止めるか。そして、それをこれからの人生にどう生かすことができるかではなかろうか。
両親の躾が厳しかったことが負の感情として残っているのであれば、それを違う見方で書き換えることをおススメしたい。先ほどの例であれば、「両親に厳しく育ててもらったおかげで、社会人となった今、どのような場面であっても気後れすることなく振る舞うことができる。人生の先輩たちからも『若いのにしっかりしている』と認められるようになった。両親は自分の将来を想って厳しく躾をしてくれたのだろう。感謝したい」というように、上書きすることはできるはずである。
それは、人間関係でも同じ。誰しも苦手意識を持つ人がいるが、そういう相手というのは、過去の些細なことがきっかけとなって苦手意識を持つようになったのかもしれない。そのきっかけとなったことを振り返り、自分の成長や幸せの為に上書きすることで、人間関係が好転するという事例はいくらでもある。
人の幸不幸に結び付くきっかけとなるのは、何かの出来事に遭遇した際、それをどう受け止め、どう反応するかで大きく変わってくる。この出来事に対する対処法は別の機会に譲るとするが、受け止め方を変えるだけで人生の幸福やビジネスでの成功を引き寄せることができる。
当世ビジネス芯話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.152(2024年2月号)
プロフィール
宇野 秀史(うの ひでふみ) ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴り、経営者の知恵を後継者に伝える活動を行う。
近年は、田中家をテーマに研究を行い「田中家研究家」を自任。
著書
『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)、
『田中の田中による田中のための本 第1巻 『田中の田中による田中のための本 第2巻』(梓書院)
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