経営者の知恵を後継者に残すことで100年企業の基礎を築きませんか

上兵は謀を伐つ

当世ビジネス芯話

当世ビジネス芯話  ■編集人 宇野 秀史

今の社会を例える際、情報社会という言葉がよく使われる。情報を伝達する通信機器や技術が発達したことで、様々な情報の入手がインターネットなどを通じて可能になった。あるいは、個人がかなり自由に情報を発信できるようになった。情報技術の発達や情報量の増加が顕著になっていることを情報社会と呼んでいる面もあるのだろう。情報社会と言われるからといって、今の世だけが特に情報を重視しているということではない。今までも情報は重視されてきた。企業間の競争や戦闘などにおいては、情報力の差が勝ち負けに大きく影響を与えるからだ。

孫子や山鹿流兵法を著した江戸時代の儒学者であり軍学者だった山鹿素行は、「百戦百勝は善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」と説いている。どんなに強い軍団でも、100回も戦えば死傷する者が増え、勝ち続けたとしても自前の組織もダメージを受けてしまう。戦は、人的損害が大きく金もかかるから、戦ばかりしていると国土は荒れ国の経済は疲弊してしまう。勝ち続けているはずなのに、国力が衰えてしまうことにもなる。

戦うということは、本来の政治的な目的を達成するための手段でしかない。最も有効な戦いは、戦う前に勝利を得ることである。孫氏は、戦い方について「上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む。城を攻むるの法は、やむを得ざるがためなり」と記した。最もよい戦い方は、敵が意図するところ「謀(はかりごと)」を見抜いてそれを封じること。次が、敵の同盟関係や組織を分断する。その次は合戦。一番評価が低いのが守りの堅い城を攻める事だという。つまり、「謀を伐つ」「交を伐つ」ためには、相手の戦略、戦術についての正確な情報が不可欠である。

だから、戦国の武将たちは情報を非常に重視した。今日でも、国家間で様々な諜報活動が行われているが、国家の安全や利益を守るためには当たり前のことだとされる。諜報活動というと、非合法的な情報収集というイメージを持つ人もいるが、情報の多くは公にされているものだ。企業でも、経営判断を間違わないためには多面的に正確な情報を集め、分析する力がなければならない。さらに、ネットやマスコミといった公情報からは得られない、情報を如何に集めることができるかも生き残るために必須である。

戦国最強と評される武田信玄は、武士だけでなく商品や農民、旅人など様々な人を館に招き、その人の経験談を聞いていたいという。信玄はそうして聞いた人たちの話をメモに残した。そこには、諸国の状況が書かれていた。信玄は彼らから、生きた情報を得ていたのだ。そして、その情報は、信玄の作戦の基になった。戦国最強軍団を支えていたのは、こうした日々の情報収集活動にあったのかもしれない。

価格競争で消耗戦とならないよう、経営者は情報収集力を高める努力が必要になるだろう。公の情報はネットで集めることができるが、「ここだけの話」を得るのは経営者の仕事でもある。

当世ビジネス芯話  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.112(2020年10月号)

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プロフィール

宇野 秀史(うの ひでふみ)  ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴る。また、経営者の知恵を後継者に伝える、知恵の伝承にも取り組む。

著書:『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)

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