当世ビジネス芯話 ■編集人 宇野 秀史
これまで、多くの経営者とお付き合いをさせていただくうちに、組織を率いるトップには、子どものような無邪気さが必要ではないかと思うようになった。
組織が成長するためには、勢いが必要である。戦いに勝つためにも勢いは欠かせない。強い組織をつくり上げるには、1人ひとりの能力を高め、統率が取れた運営をすることも重要である。統率の摂れた組織にするためには、厳しいルールと管理も必要になる。
しかし、厳しいだけの環境では、息が詰まる。短期的には成果を上げても、長続きしない。人間はそれほど、厳格さを好むものではない。正論ばかりを振りかざされると、そのうち敬遠しがちになる。理屈では分かっているが、感情が反発するようになり、コミュニケーションが取れなくなる。
企業の営業でも、厳しい部長がプレッシャーをかけ続ければ短期的には売上は上がる。しかし、長続きはしない。部下が体調を壊したり、辞めたりするケースが増え、生産性は下がってしまうという事例も多いようだ。
だから、利巧すぎて、理屈ばかりを言うトップにも疲れてしまい、ついていけなくなる。周りを楽しませる気配り、羽目をはずす無邪気さを持ち合わせていることもトップには不可欠な資質ではないかと思う。「うちのトップ(リーダー)は、いつもは厳しいけど、可愛げがある」と社員や部下に言わしめる器の大きさも必要ではなかろうか。人を魅了する「人たらし」には、そういう人間くささを持ち合わせているのが共通点のように思う。
人たらしと言われた豊臣秀吉は、まさに子供のような無邪気さを持っていた人物であろう。配下の武将や兵士の気持ちを1つにまとめる時には、酒宴を催し、子供のように無邪気に人を楽しませた。明日、戦に出る兵士にとって、厳しい顔をして延々と作戦会議を続けるトップと、明日は戦で命を落とすかもしれないから、思い切り楽しませてやりたいと部下をもてなすトップでは、どちらに命を預けようと思うだろうか。大半の人は、後者だりと思う。
無邪気さがあれば人の心を掴めるかというと、そう簡単ではない。いくら無邪気さを出しても、日頃の部下に対する言動がきつ過ぎて、部下が委縮していたり、部下の心が離れて白けてしまっているような関係であれば、お互いの関係性が崩れてしまっているわけだから、効果は期待できないだろう。また、無邪気さが相手のことを考えない独りよがりなものであれば、すぐに見透かされる。月末に食事会をして一ヵ月の労をねぎらうのは素晴らしいが、その場がトップの独壇場になったり、説教ばかりで、社員は疲れてしまうような食事会にはならないようにしていただきたい。
そういうことは、立場が強い人間は忘れてしまうものだが、嫌な思いをした立場の弱い人は、覚えているもので、何かの拍子に思わぬ火種になることもある。気を付けていただきたい。
当世ビジネス芯話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.105(2020年3月号)
プロフィール
宇野 秀史(うの ひでふみ) ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴る。また、経営者の知恵を後継者に伝える、知恵の伝承にも取り組む。
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