絵本に学ぶ仕事術 ■有限会社ウーヴル 代表取締役 三宅 美穂子
喜怒哀楽を本能のままに体で表現していた幼かった頃、自分の感情を言語化どころか、分析すらできなかったし、湧き上がる気持ちのコントロールすら未熟だった。
そこから、教育を受け自我について俯瞰してみることができる大人になると、子どもの頃のような傍若無人な怒りを表現することはなくなってきた。はずだ。
自分の感情を思い通りに調整できるようになってきた。はずだ。
今月は、絵本の業界でも絵・文共に評価の高い一冊から学んでみたい。
主人公は、まだ自分の感情の付き合い方がわからない年頃の男の子、アーサー。テレビの西部劇に夢中になりすぎて、おかあさんに「もう遅いから寝なさい」と注意をされるところから物語が始まる。
最後まで観たかったアーサーは怒る。その怒りは、稲妻が光り一瞬で天気を変えるくらいのパワーだ。さらに、その威力はどんどん増してくる。とうとう、町を壊し、地球にひびを入れ、宇宙を震わせ、何もかも、木っ端みじんに砕いてしまった。何もなくなった宇宙空間に漂いながらアーサーはどうしてこんなに怒ったのかを考える。
絵本はそこで、おしまい。
絵は、アーサーのやり場のない不安や怒りを、緻密に計算された線・色・構図の表現で自分事として伝わる。しかも心を刺激しすぎない優しさがあるのがいい。
この絵本は、子どもと一緒に読めば、子どもならではの素直な感性にふれられ、その声に気づきを得ることができるので、子どもたちの意見も聞いてもらいたいところだが、ここでは私たち大人が、どう捉えたらいいのかを考えてみたい。
私は次のように読んだ。
「どれだけ大きな爆発であっても、その中心にいる限り自分は痛まない。だから、その中にいるかぎり他者の影響を慮ることはできない」ってこと。
本能丸出しの態度は、どれだけ周りを傷つけているか、人の心・未来・可能性を巻き込んで壊しているか、気づいたほうがいい。大人なのに、いつまでも子どものままではいけない。
また、静かな怒りであっても同じ。怒りは怒り。自分の感情は他者にどんな影響を与えているか、絵本を読んでみて気づいたほうがいい。
ここで、茂木のりこさんの詩、『自分の感受性くらい』が浮かんできた。
そうだ、自分を自由にコントロールできることが大人の美学だ!と思い出せる1冊だ。
『ぼくはおこった』
作: ハーウィン・オラム
絵・訳: きたむら さとし
出版社: 評論社
「絵本に学ぶ仕事術®」 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.135(2022年9月号)
プロフィール
三宅 美穂子(みやけ みほこ)
有限会社ウーヴル 代表取締役
2005年2月25日創立、翌06年3月15日同社設立。企業向け研修やキラキラ社員のプログラム(社員によるいい仕事のための自社内研修プログラム)業務改善アドバイスを手掛けている。
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