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成功社長の習慣に学ぶ

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ITに振り回されないために

ビジネスで成功するためには、何が必要か。成功社長はどのようなことを考え、どのような行動、習慣を身に付けているのか。まずは、それを真似し身に付ける。同時に、背景を理解する。そうして成功社長に学び、行動を繰り返すことで、成功に近づく方法もあるはずである。今回は、これまで取材で出会った多くの成功社長に共通する事例を幾つか挙げてみる。

世の中の経営者がまだ、余裕を持っていた時代。例えば、自分の経験を伝え、若き経営者をサポートするシニア経営者が多いように記憶している。しかし、近年は、そうした経営者が少なくなった。若者も先達の話を聞かなくなったように感じる。 ビジネスで成功し長く事業を続けるためには、時代の流れを読む力が必要である。今、中小企業に押し寄せている大波はデジタルの波だ。デジタルは確実に我々の生活やビジネスに多大な影響を与える。AIの発達は、人が考え、選択し、決断する力を凌駕するようになるかもしれない。この波をいかに乗りこなすことができるか。デジタルへの対応力がこれからの経営者には求められる時代だ。

ITの発達により、従来のビジネスモデルそのものが通用しなくなったり、様々な変化のスピードが格段に上がったことで、先達の考え方や知恵が通用しなくなったという偏った空気が広がったことも要因といえる。そして、その傾向は、コロナ感染の拡大によって、いっそう強くなった。

だからといって、アナログ力を強化する必要がないというわけではない。むしろ、逆だと考える。人間の脳の大きさは一万年前とさほど変わってはいない。今は、ITという新しい道具に振り回されているが、人間関係や経営の本質は変わっていない。だから、あえて、今回は成功している経営者がどのような考え方を持ち、どのような判断、行動をしているのかについていくつか事例を紹介したい。

決断と行動が早い

これまで多くの社長の考えを聞いた。いわゆる成功した社長たちは、失敗や成功を繰り返しながら成功法則を見つけ、それを習慣化しているようだ。成功社長の一番の特徴は、決断と行動の早さだ。例えば、ある有料の勉強会に誘われる。経営者はこうした勉強会やパーティーに誘いを受けることが多い。この時、締切期限が近くなってから、あるいは、出欠の催促を受けてから返事をする社長がけっこう多い。勉強会よりも利益になる用事などが入るかもしれないから、ぎりぎりまで返事を待とうと考えているのかもしれない。
一方、成功社長の場合、少しでも興味があれば案内を受けたらすぐにスケジュールを確認し、出欠を判断する。他のものと天秤にかけたり、机の隅に積み上げた書類と一緒にして判断を先延ばしにすることはない。どちらの社長が人から信用を得ることができるだろうか。

もうひとつ。知人から相談を受けた社長。ある人を紹介して欲しいと頼まれ、社長は引き受けた。しかし、いつまでたっても知人には連絡が来ない。しびれを切らせた知人が問い合わせると、いろいろと言い訳をして、さらに数日後にやっと連絡が来る始末。
成功社長はどうするか。相談を持ち掛けられたその場で、相手に連絡をとる。そのため、紹介の可否がその場でわかる。相談事を後回しにしない。結果が思わしくなくても、すぐに動いてくれたことに知人は感謝するだろう。

悩みをためない

これは、問題や悩みを抱えた際の対処方にもあらわれる。問題を抱えたまま、悩み続ける人が多いように思う。解決の仕方がわからないという場合には、特に、時間だけが過ぎて問題が大きくなってしまう。
しかし、成功社長はすぐに動く。失敗しても、そこから何かを学び、成功に近づいていく。最初から完璧を求めない。普通は、最初から完璧を求める。そのために、熟慮を重ねる。しかし、熟慮を重ねても、それは想像の域を出ない場合が多い。実際にやってみないとわからないわけだから、行動した方が解決するまでの時間は短くてすむという考えだ。「早く成功するためには、早く失敗すること」だということを知っているのだろう。

経営をしていると、日々、様々な経営判断を迫られる。解決のための行動を後回しにすれば、考えなければならない問題が頭のなかにたまっていく。すると、頭のなかは悩みでいっぱいになり、余裕がなくなる。回転数も落ちる。当然、創造的な発想などできない。
成功社長は、常に、決断を下し行動するため、頭のなかには余裕があり、クリエイティブな発想ができる環境が整っているというわけだ。

信用を大事にする

成功社長は信用を何より大切にする。だから、約束を守る。話した本人も忘れているぐらいに細かいことも覚えていて、それを律儀に守る。約束を守るために、できない約束はしない。できないことをはっきり伝えづらい場合でも、「何も予定がなかったら参加する」「行けたら行く」「検討する」などとあいまいな返事はしない。あいまいな返事は信用を落とすし、相手に迷惑をかける。ノーと言ったからといって、信用を失うことはない。

借金を申し込まれた場合で考えると、あいまいさがいかに信用を落とすかが分かる。同じ業界の経営者仲間から借金を申し込まれた。3日後までに300万円用立てて欲しいと頼まれた。その時、その場を取り繕おうと「考えてみる」「なんとかしてみる」「知り合いに相談してみる」などと曖昧で気を持たせるような返事をすると、相手は多少なりとも期待をする。「何とかしてくれるだろう」と望みを託すのが人情だろう。
ところが、当日になって「いろいろあたってみたが駄目だった」の一言に相手の心は折れる。3日前に「無理だ」と断っていれば、相談者も他の策を考えることができたのだろうが期待を持たせた分、罪は重い。

成功社長は筋も通す。「元」を大事にする。例えば、世話になっている取引先よりも少しばかり安い価格で提案してきたからといって、簡単に取引先を変えたりしない。また、きっかけを作ってくれた人をいつまでも忘れず大事にする。

「ギフト」を楽しむ

相手が喜ぶことを自分のことのように喜ぶ。悲しい時も同じ。人に寄り添ってくれることを感じさせる。言い換えれば「ギフト」の精神を持ち、人に贈り物をすることを楽しむことができる。成功社長にはそうした人が多いように思う。

例えば、友人から行きつけの居酒屋に連れていかれて、店主を紹介された。多くの場合、友人の顔を立てようと「美味しかった」とか「また来ます」などといって店を出るが、その後、忙しさにかまけて店を訪れることはない。行ったとしても、数カ月も経っていて店主から顔を忘れられている。店に行く用事があれば行ってみようという程度に受け止めているから、たいていの場合、その場の会話だけで関係は深まらない。
成功社長は違う。成功社長は、友人の立場を考える。なぜ、友人はこの店を自分に紹介したのか。良い店を紹介したいと思ったのか。気に入ったら、この店に通って欲しいと思っているのではないか。そのように友人の思いを感じたら、成功社長は帰り際に予約を入れて帰る。あるいは、数日後には、その店を訪れる。それだけでなく、自分の知人や取引先をこの店に連れてくる。

もう1つ。知人が飲食店をオープンしたとの案内を受け取った。気の利いた人なら、義理で店に行く。成功社長は、ボトルをキープしたり、高い料理を頼む。そして、人に紹介する。宣伝して人も連れてくる。1回行ったから義理は果たしたと思うタイプではない。どうしたら店主は喜んでくれるのかを、相手の立場に立って考えることができるから、こうした行動が自然にできる。損得を天秤にかけたり、いやいや付き合ったりしていてはできない。

ギフトは、物を買って贈ることばかりではない。相手のためになる情報を提供したり、相手のために汗を流したり、おせっかいをやいたりと、その気になればできることは幾らでもある。
ギフトの大切さを知る成功社長は、ギフトを受け取った際の反応も違う。例えば、手土産といって高級なお菓子を差し出されると、条件反射のように遠慮したり恐縮する。しかし、成功社長は、相手の気持ちを正面から受け止め、喜びを素直に表現する。遠慮や恐縮することが美徳のように思われることはある。しかし、贈り物をする人は、「喜んでもらいたい」という気持ちをギフトという形にあらわしているわけである。それなのに、遠慮や恐縮の態度を示されると、自分の好意を拒否されたように感じるかもしれない。成功社長は贈り手である相手にも喜んでもらうための気配りをしているのだ。こうしたことが自然にできるのが成功社長の特徴である。

勘が鋭い

成功社長は勘が鋭い。例えば、飲食店を出店する場合、当然、周辺の人口や競合店の分布と売上規模などのデータは重視する。社内や関係者の意見も聞く。こうしたデータや関係者の意見は大事である。特に、合議制を重視する会社では幹部や外部の専門家の意見を尊重し、彼らが反対すれば出店を断念することも多い。

成功社長もデータや関係者の意見を大事にする。しかし、最終的には自分で決断する。そうした際に、「なぜ、この場所に店を出したのか?」と尋ねると、共通して返ってくる言葉が、「勘ですよ」だ。「勘」とは、決していい加減な感覚に頼っているのではない。経営者なりの確信がもとになったものだと理解している。

成功社長たちは、日頃からこの「勘」を研き精度を高めているようだ。話を聞くと、細かいことを突き詰めている人が多い。これは、伝統工芸の職人や芸能の名人といわれる人たちを見るとわかりやすい。名人と呼ばれ、人間国宝として称えらえる人でも、始めたころは、まったくの素人だったはずだ。しかし、同じことを繰り返し訓練しているうちに、感覚が研ぎ澄まされてくる。もちろん、最初から天才的な才能を発揮する人もいるが、多くの場合は、その突き詰める深さや時間によって素人から名人と言われるまでに上達する。

経営も同じではないか。経営を技術と捉えれば、日々の細かいことを突き詰めることが経営者としての勘を養うことになるはずである。
出店に限らず、違和感や不安を感じ取り、リスクを回避する社長は、この「勘」を鍛えているからこそ致命傷を負うことなく、事業を維持することができているのかもしれない。

明るさを忘れない

成功社長は、どんな時でも前向きで明るい。発する言葉も肯定的なものが多い。そして、苦しい時でも笑っている。人は明るい人の周りに集まる。人が集まる所には情報とチャンス、金が集まる。自分が率いる組織に対しても常に明るく振る舞う。組織の構成員はトップの顔と背中を注視している。だから社長が暗い顔をしていては、社員が不安を感じ、委縮し力を発揮できなくなる。すると、組織の勢いが衰える。勢いがない組織では戦いに勝てない。成功社長は、常に明るく笑うことで、組織に勢いを与えているのだ。

成功社長は、我々にはない知恵や見識を身に付けている。そのために、日頃から学び、気づき、行動、習慣化を繰り返している。われわれに真似できることはあるはずだ。

今回は僅かな項目しか紹介できなかったが、少しでも参考にしていただければ幸いである。

Books  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.132(2022年6月号)

プロフィール

宇野 秀史(うの ひでふみ) 
ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴る。また、経営者の知恵を後継者に伝える、知恵の伝承にも取り組む。

著書:『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)

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