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鯵、鯖などに寄生するアニサキスを殺虫する「世界初」の技術開発で日本の生食文化を守る

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Trend&News   ■株式会社ジャパンシーフーズ

日本人は、刺身をはじめ寿司やお茶漬け、丼ぶりなどで生魚を美味しく食べる知恵を積み上げてきた。一方で、生魚を食べるということは、菌や寄生虫などとの戦いも強いられる。鯵、鯖の生食加工を手掛けるリーディングカンパニー、㈱ジャパンシーフーズ(福岡市)はこのほど、熊本大学の研究チームなどと共同で、品質を保ちながら強力な電気エネルギーでアニサキスを殺虫する世界初の技術を開発した。アニサキス問題に苦しんできた水産業界にとって一条の光となるだろう。新技術開発までの経緯を井上陽一社長に聞いた。

井上 陽一 社長

品質を損なわずにアニサキスを殺虫

―アニサキスを電気で殺虫する世界初の技術を開発し業界内外から注目を集めていますが、これはどのようなものですか。
井上 
アニサキスはアジやサバなどの魚に寄生する寄生虫で、これが人の胃の中に入ると激しい腹痛や吐き気といった食中毒を引き起こす原因となります。対策として有効なのは、加熱または冷凍による殺虫ですが、加熱すると刺身としては提供できませんし、冷凍は解凍の際に水分やうまみ成分が出てしまい、品質低下の原因となります。
開発した殺虫方法は、パルスパワー技術を使い瞬間的に大きな電流を流すことで、魚の身をほとんど劣化させることなく、表面はもちろん、筋肉や身に入り込んだアニサキスを殺虫できます。見た目や触感、味も生の身とほとんど変わりません。今回の開発は、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授たちの研究グループはじめ民間企業や行政の機関とも共同で行った産学官連携事業です。

―今回の開発は、日本の生食文化を守りながら魚の安全性を担保するという意味で、非常に画期的なものだと思います。
井上
新聞、テレビといったマスコミに加えネットニュースなどでも紹介され、大きな反響がありました。特に業界関係者からお褒めの言葉を多くいただきました。アニサキス対策は、業界にとって大きな課題でもありましたから、当社でも創業者である先代社長の時代からX線による透過画像検証などの研究に取り組んできました。そのなかで、アニサキスのたんぱく質が紫外線に反応して光るという原理を応用して、暗室でブラックライトをあててアニサキスを見つけ出す検品方法を確立しました。
ただ、切り身を暗室に運んで検査すると、かなりの時間と労力を要します。鯖では成果を上げることができましたが、鯵は取り扱う量が膨大だったので、鯵の検査方法としては現実的ではありませんでした。

そこで、鯵の効率的な検査方法継続して模索しました。アニサキスは魚の内臓に寄生していますから、魚から内臓を早くきれいに取り除くためにバキューム装置を設置したり、アニサキスを含めた異物を吹き飛ばそうとコンベア上でエアシャワーを吹き付けたりと、様々な方法を試しました。

そのようななか、5年ほど前にアニサキス中毒に対する過熱報道があり、食中毒を出した店などに対する規制が厳格化され行政処分を受けることにもなりました。それで、アニサキスが寄生する生の鯵や鯖の取り扱いの停止や冷凍品に切り替えるところもあり、その影響は当社にとっても大きいものでした。
これを機に、当社はさらに検査方法の確立に注力することになります。アニサキスは肉眼で見つけることは難しいため、Ⅹ線やテラヘルツ線、近赤外線などを試しましたが、成果は上がりませんでした。
そこで、鯖で行っているブラックライトの検査方法を鯵に応用できるよう、暗室ではなく鯵フィーレの製造ラインでも使えるブラックライト装置を開発しました。アニサキスの目視検査に特化した世界初の高出力LED装置として新聞などでも大きく報じられました。こうして検出の精度を高めたことで、アニサキス中毒数は減少しました。

「水産業界の発展のために」

―業界にとっても大きな光ですね。
井上 
しかし、アニサキスが筋肉や身の中にもぐってしまうと、目視できなくなります。ですから、オリジナルのLEDライトをつくりながら他の方法も模索していたところ、以前相談した研究機関から「熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授ならアニサキスを殺せるかもしれない」という連絡をいただきました。それで、浪平准教授が研究されていた、瞬間的に大きな電気エネルギーを流すパルスパワー方式による殺虫の実験をお願いしたところ、期待した成果を得ることができました。そこからパルスパワーによる研究が進み、約四年を経て今回の完成に至ったというわけです。

―アニサキス問題の解決に向け大きく前進したわけですが、今後は製品化という課題がありますね。
井上 
今回は、ものづくり技術の高度化などを国が支援する「サポイン(戦略的基盤技術高度化支援事業)」を受けてプロトタイプ機までを開発することを目指し、目標通りの成果を上げることができました。
プロトタイプ機は、機械に切り身を入れて蓋をし、電流を流した後に切り身を取り出すという作業を1回の工程で行うため、1度に大量の処理ができません。今後は、コンベア式での大量生産に対応できる連続式装置の開発を進めることになります。コンベア式は蓋のない状態で動きますからリスクが増えます。どうやって安全性を担保するのかということと、コストをいかに抑えることができるかが課題だと認識しています。

ただ、当社は機械の販売には携わりません。製品化は大手のプラントメーカーが参画し、そこが製造と販売を手掛けることになると思います。業界のためにも、そして、プロジェクトに参画してくれた他のメンバーのためにもパルス式機械が広がって欲しいですね。

パルス技術を使い魚の品質を保持しながらアニサキスを
殺虫するプロトタイプ機

―開発プロジェクトには主導する立場で関わったのですから、機械の販売に携わっても良いのではありませんか。
井上 
当社としては、日本の生食文化を守り水産業界の発展に貢献したいという思いで研究を続けてきたものですから、技術を1社で独占するのではなく、必要とする方々に使っていただきたいと考えています。

アニサキス問題の解決は、水産業界全体の願いでもありますし、消費者も美味しい生の魚を安心して食べることができるようになるということは、良いことです。世の中の役に立ち、喜ばれるということは、社員にとっても大きな誇りになります。「食の安全性を確保するために努力している企業」ということを広く知ってもらえたということが、現時点では大きな収穫だと考えています。

<会社概要>
社  名  株式会社ジャパンシーフーズ
住  所  福岡市南区井尻5-20-29
設  立  1987年(昭和62)7月
資本金   1億円
事業内容  鯵、鯖の加工販売
営業所   福岡、関東、名古屋、大阪、仙台、広島
工  場  福岡(箱崎)、対馬
URL    http://www.jp-seafoods.jp/

Trend&News  Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.122(2021年8月号)

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