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週2日正社員制の実現で労使双方に利益をもたらす新しい仕組み

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Trend&News 一般社団法人中小企業事業推進機構代表理事の平井良明さんら4人

人口減少による人手不足は様々な業界で深刻な影を落としている。人材を確保できずに店を閉めるという決断をした経営者も多い。加えて、急激な物価上昇による賃金の上昇圧力は、中小企業の経営を圧迫し、先行きの不安は増すばかりだ。一方、働き手も子育てや親の介護、健康上の問題など様々な理由で、自由度の高い働き方を求める人も大勢いる。こうした問題を解決することは、日本経済の発展にとって喫緊の課題でもある。中小企業支援を目的に活動する一般社団法人中小企業事業推進機構代表理事の平井良明氏と人事の専門家3人がこのほど、『週2正社員のススメ』を上梓した。週2日の正社員という新しい働き方を提案し、注目を集めている。

平井良明 氏
一般社団法人中小企業事推進機構代表代表理事
株式会社イーハイブ代表取締役
ゆるすこと研究所所長

週2日でも正社員

―「週2正社員」とは興味深い言葉ですが、どういうものですか。
平井
正社員として週に2日だけ働くということです。週2日は正社員として、雇用契約を結んでいる会社で仕事をする。空いた時間は、別の会社の仕事を請け負ったり、勉強したり、育児や介護のための時間にあてたりするなど、様々な時間の使い方が可能になるという考えから本の名前を付けました。
週5日フルタイムで働いている人と同じように、週2日の勤務でも正社員の資格を持つことができる仕組みを私たちが今回の本で、その考え方や自社で導入する方法などについて解説しています。

―週休5日ではないわけですね。
平井
表現の違いですが、週2正社員とした方がインパクトもありますし、週休5日というタイトルだと、他の会社で働くというイメージが薄れると思い、今回のタイトルを採用しました。日本人は働くことが好きな方が多く、休みのために仕事をするという考え方は少ない。ですから、週2勤務の正社員という考えを伝えるには、このタイトルが良いと思っています。週勤四日制度などのタイトルはありますが、週四日では他の会社で働く機会が狭められる。週2日の正社員であれば、他の会社の業務を請け負うなどフリーランスの活動ができると考えます。

『週2正社員のススメ』
(発行元:一般社団法人中小企業事業推進機構、定価:3,349円)。
「週2正社員サポートサイト」で確認できる。
https://www.shu2.jp/

―今回の出版は、平井さんが代表理事を務めている一般社団法人中小企業事業推進機構が発行元になっていますね。
平井
機構の定款には元々、出版も視野に入れていましが、今回が機構として初めての出版となります。機構で、ISBN(国際標準図書番号)も10個まで取得できますから、出版社として発行元になれば今後、関わった人たちの出版もサポートできると考えています。
今回はオンデマンド出版という形で在庫を抱えずに広げていこうとしていますが、皆さんからの反応も良く手ごたえを感じています。

―週2日正社員という働き方を考えた経緯について聞かせてください。
平井 私自身の経験が元になっている部分が多いと思います。経営者として自社の社員の給料を上げるためには、業務量を増やす必要があり、会社の規模を維持するためには、人の募集、採用、教育を繰り返さなければなりません。組織を運営する経営者には、常についてまわる課題です。
この問題に対し、当初は業務委託の外部スタッフを上手く活用できないかと考えました。例えば、業務委託という形で週1回来てもらって、他の会社にも通うということができれば、会社にとってだけでなく働く人にとっても理想的だと思ったわけです。それで、週5日勤務してもらうのではなく、週1日だけ通ってもらえるような仕組みができないものかと考えていました。大手計量器メーカーのタニタでも個人事業主化という働き方が出てきましたから、これからはフルタイムにこだわる必要がなくなると思っていました。企業と従業員との関係、働き方にも多様性が生まれる時代だと。
そこで、当社の社員に「こんな働き方があるからやったやってみないか」と提案してみました。当社に長年勤めてくれるのはとてもありがたいことですが、だからといって、当社で身に付けた技術やノウハウが他所で通用するとは限りません。当社は副業を認めていますから、他の会社の仕事を受けても良いわけです。

個人事務所を立ち上げフリーランスを実践

しかし、私の提案は受け入れられなかった。通常業務で手一杯な状態ですから、わざわざ仕事を増やすわけがありませんし、受け取り方によっては、リストラの対象として見られているのではないかという思いを抱いたのかもしれません。社員にとっては、不安の方が大きかったのだと思います。
そこで、社員にいうだけではなく自分で実践してみようと考え、一昨年、私の勤務を少し抑えて、個人事務所「ゆるすこと研究所」を立ち上げました。研究所では「私を貸し出しますよ」と広報し、コンサル業務を請け負いましたが、個人事務所で得た報酬分は、元の会社の報酬を減らすということでスタッフにも許可をもらって始めました。

―実際に個人事業を始めてみて、どのような気づきがありましたか。
平井
個人事業を立ち上げて分かったことが幾つかありました。例えば、フリーになれば社会保険や厚生年金といった保障関係は自分で加入しなければならないこと。事業や生活を支えるためには、自分で営業しなければなりません。こうした不安を解消する仕組みを作らなければ、多様な働き方は実現できないと、改めて理解しました。

―社会保障の問題は大きいですね。
平井
社会保険労務士と解決策を模索しました。まず、一般的には週20時間以上働くと社会保険への加入が義務となります。この20時間を繁忙期など時期によって労働時間を調整できる変形労働時間制で考えると、週2日の勤務であっても1日10時間働けば、週2日の勤務で社会保険に加入できるということがわかりました。
また、短時間正社員制度というものがあります。元々は、フルタイムでの勤務が難しい子育てや親の介護等をしている人が、一定期間において労働時間を8時間から5時間に変更して夕方早く帰れるようにするような制度です。この短時間正社員制度では、短時間正社員の人たちも社会保険に加入できると解釈できます。

つまり、最初から短時間正社員制度を使えば、保険に入ることができるというわけです。社会保険事務所や年金事務所に確認すると、通達が出ているという回答でしたが、社会保険労務士や年金事務所の担当者すら知らないといったケースが多々見受けられました。そのため、育休や産休、家庭の事情や健康上の理由で週に2日しか働けない人などが厚生年金や社会保険に入ろうとすると、断られたという経験を持つ人は多いようです。
社会保険労務士や年金事務所から断られたら、彼らは専門家ですから、一般の人や企業担当者は当然、専門家の言うことを疑いません。無理だと思うのは当たり前です。セミナーなどで週2正社員制度の話をすると、「出来るんですか」と驚かれます。

中小企業も優秀な社員を採用できる

―社会保険はどこで入るのですか?
平井 
正社員となる会社の保険に入ることができます。1社に正社員として登録し、あとは業務委託にします。週2日正社員として3社に入ることも可能ですが、その際は3社で案分することになると思います。週2日の勤務なら、福岡など地方では月に10万から15万円程度の報酬となるでしょうから社会保険や厚生年金も安く抑えることができ、企業側にとってもメリットがあります。例えば、急速に普及したSNSの活用も企業として取り組まなければならないと考えても、今いる社員ではなかなかできない。できないところは外注することで補おうとするのですが、外注しても基本的な案は自分たちで考える必要がある。それを、SNSの運用に詳しい人に正社員として週2日来てもらえば、すぐにレベルの高い情報を発信できるようになります。

―優秀な人材を採用したいが、高い給料を払う余裕がない。または、優秀な人材を採用しても、任せたい仕事が毎日あるわけではない。そういう悩みを抱えている経営者にとって魅力的な仕組みのようですね。
平井 
多くの企業が求める社員は、「これをやって」と指示されたことを行うだけでなく、目標達成のための課題の抽出や解決、新しい取り組みなどを一緒に考えてくれる人です。しかし、優秀な人材となるとフルタイムで雇うには金銭的な負担が大きい。フルタイムで来てもらっても、十分に活用できないというケースもある。週2日の勤務ならそういう問題もクリアできるわけです。
例えば、東京や大阪から親の介護の為に地元に戻ってきて仕事をしようと思うと、介護に時間を割かれるためフルタイムで働くことは難しい。しかし、週2日の契約であれば介護のための時間もつくりやすくなります。中小企業にとっても経済的負担が少なくて済むため、両者にとって良いはずです。

―今回の本は、平井さんの他、3人の専門家との共著ですが、それぞれどのようなことを書かれたのですか。
平井 
著者は、社会保険労務士の津森俊彦氏(津森行政社労士事務所、和歌山県)、キャリアコンサルタントの池元正美氏(ディーリンクス、鹿児島県)、人事コンサルタントの冨浪真樹氏(みんなの人事、徳島県)、そして私の4人です。
お話したように、私は全体的な経営者から見た週2日正社員について書いています。社会保険労務士の津森さんは、企業側がどのように仕組みを作り、どう運営すればよいかについて書いています。週2日正社員の仕組みとスムーズな運営のために非常に重要な部分です。

キャリア開発や人材開発も必要です。良い会社にするためには、会社の方向性と社員の成長が一緒に考えられる社風を作る必要があります。経営者側、従業員側の双方がお互いを理解するためのコミュニケーションをとりながら、全体的なキャリア開発を一緒に取り組んで行けるよう、キャリアコンサルタントの池元氏が書きました。

人事コンサルタントの冨浪氏は、採用について書いています。冨浪氏は、フリーランスの立場で企業の人事戦略から採用などを支援しています。中小企業で人事部を持っている会社は少ない。1社で持てないのなら、それこそ、フリーランスの人事を雇うような感じで活用できれば中小企業の採用や人事がレベルアップするでしょう。

人事コンサルタントの冨浪真樹氏(みんなの人事)
キャリアコンサルタントの池元正美氏(ディーリンクス)
社会保険労務士の津森俊彦氏(津森行政社労士事務所)

「分かってしまったから」

―平井さん以外は、皆さん人事関係の専門家です。平井さんの会社・イーハイブは、ホームページ作成のシステム開発などのIT関係だと認識しています。今回はなぜ、平井さんが専門外の働き方について出版したのですか。
平井 
ひと言でいえば、こうした働き方があることが分かったからです。分かったからには、多くの人に知っていただくことが使命だと感じましたので、今回の活動を始めました。専門外ではありますが、企業経営と働き方など労働環境の改善は切り離せないテーマですから、広く知ってもらいたいと考えています。

―週2正社員の考え方が地方で根付けば、地域の活性化にもつながりますね。
平井 
地方の関係人口を増やそうといっていることと同じように、会社の関係人口を増やすということは自社の業務に関係を持つ人があちこちにいるということです。
例えば、地元で活動している社会人のスポーツチームがあります。このチームが強くなれば地域が盛り上がり、経済的な利益も生まれるようになります。そのため、地元企業は、選手が生活に困らないよう雇用するなどして支援します。しかし、選手をフルタイムで雇用すると、負担も大きい。週2日勤務なら会社としても負担が少ない。こういう企業が複数社集まれば選手を地域で抱えることもできる。選手と関わる企業や人が増える方が、地域でチームを応援する空気も高まる。スポーツに限らず、演芸や芸術関係でも同じようなかかわり方ができます。
こうした社員が働く場としてコワーキングスペースがあってもいい。ここに週2日のコールセンターを作ることも可能です。コワーキングスペースでリスキリング(スキルを付け直す、学び直す)しながらコミュニティもできる。地方創生策の1つとして、このような仕組みを作るべきだと思います。

―週2正社員を普及させるための課題については、どう考えていますか。
平井 
週2正社員が可能であると認識していただくための啓発活動が必要だと考えています。様々な場所でセミナーなどを通じて、理解者を増やす活動を行っています。今回の出版もその一つです。
併せて、実績を増やしていくことも必要ですから、私たちが運営している社団法人のメンバーにも声をかけ、週2正社員の導入事例とそこで上がってくる治験を積み上げていきたいと考えています。

Books  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.141(2023年3月号)

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