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地方の中小企業は、在宅での障害者雇用に活路を見いだせる

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Trend&News   ■特定非営利活動法人  在宅就労支援事業団

田中良明理事長

ITの発達と普及は、在宅勤務を可能にした。障害者雇用においても、企業が在宅で仕事をできるよう雇用契約を結ぶ事例が増えており、特に東京大手資本が地方の障害者雇用を加速している。一方、地方では、障害者雇用が上手くいかず採用競争で大手企業に大きく後れを取っている中小企業が目立つ。中小企業が今後、障害者を採用するための考え方や課題について、在宅就労を支援する政府系NPO法人の在宅就労支援事業団を立ち上げ、在宅就労を支援し続けてきた田中良明理事長に話を聞いた。

大手と中小の格差はさらに拡大

―障害者雇用について国は法定雇用率を定め、これを守るよう企業や団体に求めていますが、地方の中小企業では思うように採用が進んでいないようです。なぜ、地方の中小企業では障害者雇用が進まないのでしょうか。
田中
障害者雇用が上手くできていない中小企業の多くは、社内での情報共有や連携が図れていません。企業が障害者採用に取り組むことになると、一般的には総務や人事の方が担当されるのですが、総務、人事の方が他の部署の現状や問題について把握しているケースは少ないため、どの部署にどんな形で採用するのかという具体的な絵を描けずに、苦労しておられるケースが多いですね。
一方、採用担当部署と現場のチームがセットで障害者雇用に取り組もうとするところは案外スムーズにいきます。特に、人材でも余裕のある大手企業は、こういう形での仕組みづくりを進め成果を上げています。

―中小企業が、障害者雇用で上手くいかない主な原因はどこにあると思いますか。
田中 
地方の企業の多くは障害者雇用について、それほど切迫感を持っていないのが現状だと思います。売上と利益を上げることが一番の優先事項であり、障害者雇用はまだ優先順位が低いようです。一方、大手企業は障害者雇用の優先順位が高い。社会的責任が大きく、それを果たさないと新入社員も入ってこないという意識を強く持っていますから。
現在の採用環境を見ると、東京都内では自力で移動できる障害者の大半は企業に雇用されています。それでも人材が足りないため、地方の障害者を在宅で雇用しようと積極的に動いています。

―そうなると、地方の企業が地元で人材を採用したくてもできない時代が来るかもしれませんね。
田中
ICTの発達で、遠隔地の人でも在宅で仕事ができるようになり、障害者雇用も競争の時代に突入したといえます。そのため、障害者の採用市場においても地域格差が顕著になっており、今は東京の一人勝ちです。それでも、在宅で働ける方はまだ大勢いらっしゃいますから、在宅を希望される方と地元の企業を結びつけることが私たちの最大の使命であり、それが地方創生につながると考えています。

自治体の中には、地元企業を側面から支援していこうと動き出したところもあります。企業で障害者が何人足りないのか。どんな仕事で採用しようと思っているのか。そうしたニーズをヒアリングして、企業と障害者を結びつけていこうと自治体が旗振り役をつとめるようになりました。会社に障害者を集めて仕事をしてもらうという雇用形態は10年遅れていると思います。雇用される方が望んでないからです。ですから、どれだけ求人を出しても障害者に響かない。「求人を出しても集まらない」という相談を受けますが、時代が変わったことを企業側が認識しなければ、人を集めることはできなくなると思います。

良かれと思うことが負担をかけている

―企業と障害者の考え方の違いもミスマッチの原因となりますね。
田中
企業側と障害者側で、雇用期間に対しての考え方に違いがあることを知って欲しいですね。企業側は、期間を定めない雇用の方が障害者にとっては良いことだと考えますが、障害を持っている方は、難病も含め症状が進行する人もいます。そういう人は、1年後や2年後に症状が進んでいる可能性もある。「会社に迷惑をかけたくない」と心配する障害者にとっては、1年や半年で更新する有期雇用での採用の方が安心感を持てます。これは、企業にとっては意外に思われる部分だと思います。

在宅でできる仕事は確実に増えている

―どのような仕事をしてもらえばいいのか分からない中小企業も多いと思います。最近、企業はどのような仕事を依頼しているのですか。
田中
主に事務系、IT系、技術系です。事務系では給与計算と伝票入力、技術系ではCAD操作などの仕事が多いようです。また、コロナの影響で営業系の仕事も増えました。例えば、取引先を開拓するために候補先にアポイントをとる仕事を在宅で受けています。メールでアポイントを取る仕事ですから、わざわざ会社に来てもらう必要はありません。

コールセンターでも、多くが在宅に切り替えるという話を聞いています。ウェブデザインも在宅でできます。塾のテストを採点するデジタル採点業務も受けています。在宅で可能な仕事の種類は確実に増えています。

在宅は危機管理にも適しています。熊本は、六年前の地震を経験していますので、危機管理対策でも在宅を導入しようという企業が増えました。震災が起きても業務が途切れないように在宅を推進しています。在宅は、移動しなくて良いため障害者本人の負担軽減にもなります。熊本では、企業が出している在宅の求人件数が2800件を超えています。

―企業と在宅の中間的な機関として、サテライトオフィスも注目されています。
田中
これから人が働く場所は、会社、自宅、一か所に集まるサテライトの3つだと考えています。私どもも本部内にサテライトオフィスをつくります。サテライトを知らない企業や障害者も多いので、実際に見て体感していただくのが一番だと思い開設することにしました。

―稼働はいつですか。
田中 
7月頃には稼働する予定です。3ブース程を用意します。企業側もいきなり在宅となると不安に感じられますから、まずは、うちのサテライトで仕事をしていただけるよう環境を整えます。そこで、私どものスタッフが会社とのコミュニケーションがうまくいくように、あるいは、訓練の効果が上がるようにサポートします。その過程で、企業の仕事を在宅で受けても大丈夫かどうかなどを判定し、大丈夫であれば在宅に移行することもできるようになりますし、週に1度、月に1度といったスパンでの利用もできます。もちろん、ずっとサテライトで仕事をする方が良い方もいらっしゃると思います。そうした柔軟な対応ができるようサテライトを活用してきたいと考えいます。

―企業側も在宅で働く側も不安を減らすことができますし、持続可能な働き方の事例として広まることを期待しています。

会社概要

会社名  特定非営利活動法人 在宅就労支援事業団(内閣府認証 厚生労働大臣登録)
住所   熊本市東区下南部1丁目1番72号
     TEL.096-213-0701
設立   2003年4月
事業内容 就労移行支援事業、就労継続B型事業、生活訓練事業
拠点   全国20ケ所(事業団グループ)
URL   https://jigyodan.or.jp/

Books  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.131(2022年5月号)

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