弁理士よもやま話 ■加藤合同国際特許事務所 会長 加藤 久
この原稿を書いている時点では、まだ少し早いのですが、いよいよ紅葉の季節です。
きちんと手入れがされた神社仏閣の紅葉も、自然なままの山の紅葉も、人に見られるために赤く染まっているわけではありませんが、理屈抜きで、大変美しく、見る人の心を和ませてくれます。
紅葉というと、日本人である私は、神社仏閣を代表とした「和」的なものを感じますが、当然のことながら、海外にも有名な紅葉の見どころがたくさんあるようです。
カナダのナイアガラ地域からケベックシティへと続く「メープル街道」、同じくカナダのモントリオールから車で一時間程度の場所に位置する「ローレンシャン高原」、ドイツデュッセルドルフの「ケーニヒスアレー」、オーストラリアにある「カエデの谷」とも呼ばれている「アーホルンボーデン」、中国の「九寨溝(きゅうさいこう)」等など数多くあります。
いずれも大変美しいのですが、写真で見る限り、やはり日本の紅葉とはまた違った趣があります。
春から夏にかけて緑色だった植物が、なぜ冬が近くなると紅葉するのでしょうか。
植物の葉は、日中には、二酸化炭素と水、光を使って養分と酸素を作っています。このとき、光を効率良く吸収するために働くのが葉緑素という色素で、葉緑素によって植物は緑に見えるのです。そして紅葉のしくみのひとつが、この葉緑素の変化にあるのです。
秋になると、樹木は冬支度をはじめます。気温が低くなると光合成などの反応速度が遅くなり、また昼の時間が短く、太陽の光も弱まるので、生産できる養分が減ります。使えるエネルギー量も減り、消費エネルギーの少ない状態とするために、葉のはたらきを徐々に止めていくのです。この変化を「葉の老化」と呼ぶ場合もあります。紅葉は植物の老化なのですね。
モミジなど赤くなる植物では、葉緑体の分解が始まる前にアントシアニンという物質がつくられ、アントシアニンが多くなると葉は赤く色づいて見えます。人に見てもらうために色づくのではないのですが、なんという自然の偉大な営みでしょうか。
ところで、紅葉のメカニズムはそれはそれとして、赤く色づいた紅葉を、われわれ人間はなぜ美しいと感じるのでしょうか。そこにもやはり「命をつなぐ自然のメカニズム」が存在しているのでしょうか。
自分で移動できない植物は昆虫の力を借りて花粉を運び、命をつないでいることはよく知られています。多くの植物は、昆虫の注意をひき、花粉を運んでもらうための、人知を超えるほどの素晴らしい独自のメカニズムを、進化の過程で作ってきました。
これは私の想像なのですが、人間が、紅葉を美しいと感じるメカニズムにも、そのような命をつなぐメカニズムがなにか隠されているのではないかと思います。頼まれもしないのに、多くの人が紅葉を見に遠くまで出かけます。
今私は、お客様が開発された商品や技術を広める(売る)ことをライフワークとしてやっています。やっとそのネットワークも出来上がりつつありますが、一番のポイントはその商品や技術をどのようして多くの人に知ってもらうかです。そして、そのヒントを紅葉のメカニズムに見た思いがしました。 紅葉は人に見に来てちょうだいと頼んだことなど一度もありません。でも、多くの人が紅葉を見に集まるのです。この頼まれもしないのに人が集まる「自然のメカニズム」をつかみ、今後のビジネスに活用したいと考えています。
弁理士よもやま話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.138(2022年12月号)
プロフィール
加藤 久(かとう ひさし)
加藤合同国際特許事務所 会長
1954年福岡県生まれ。佐賀大学理工学部卒業後、福岡市役所に勤務。87年弁理士試験合格、
94年加藤特許事務所(現:加藤合同国際特許事務所)設立。2014年「知財功労賞 特許庁長官表彰」受賞、20年会長就任。
得意な技術分野:電気、機械、情報通信、ソフトウェア、農業資材、土木建設、無機材料、日用品など。
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