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細胞レベルで体を守る新医療「分子栄養学」の普及に挑戦

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Trend&News   ■医療法人ひまわり会 天神ホリスティックビューティークリニック

国は「人生100年時代」を謳い、その実現のための議論を重ねている。元気に100歳まで生きるために、我々は自分の健康をどうやって維持すれば良いのか。医療法人ひまわり会(松尾眞二郎理事長)のグループである天神ホリスティックビューティークリニックは、分子栄養学に基づいた新し医療に取り組んでいる。細胞の栄養状態から様々な体調不良や病気の原因を解明し、改善までサポートするというもので、人生100年時代を支える医療として普及させるべく挑戦している。

医療法人ひまわり会 理事長・松尾眞二郎氏

釈然としない「異常なし」

どうも体の調子が思わしくないため、医療機関で検査を受けてみた。検査後、医師から「特に異常は見つかりません。ストレスでしょうね」の診断を下される。「異常なし」の判定にとりあえず安堵するが、その後も自分の体が訴えかけてくる具合の悪さは続く。医師からは、生活での注意点をアドバイスされ対処薬をもらって帰る。しかし、本人としては「よく分からない」と言われているように感じ、原因が分からないまま不安だけが募り、釈然としない毎日を過ごす。こんな経験を持つ人はけっこう多いのではないだろうか。
検査結果は基準値の範囲内だが、本人には頭痛や腹痛、倦怠感などといった自覚症状がある。こうした状態を病気の手前、いわゆる「未病」というグレーゾーンとして表現されることが多い。 

「分子栄養学」という言葉をご存じだろうか。細胞レベルでの検査や治療を行うもので、「分子整合栄養医学」や「オーソモレキュラー療法」とも呼ばれる。我々の体は約37兆個の細胞で出来ており、細胞を構成するのが栄養素である。体の基になる細胞レベルで栄養素が欠けると体の不調となって現れるという考え方の下、栄養素のバランスを計り、これまでとは違ったアプローチで原因を解明し改善に導こうというものだ。

「異常なし」でも「問題あり」

医療法人ひまわり会(福岡市、松尾眞二郎理事長)グループの天神ホリスティックビューティークリニック(橋本知子院長)は、開設当初より分子栄養学を主要な医療と位置づけ、美容診療や再生医療なども手掛けている。分子栄養学は、検査を通して細胞内にどのような栄養素が不足しているのか、細胞の状態を見極める。ひと口に検査といっても、症状や目的に応じて内容が異なる。

体内の検査で一般的なものは血液検査であろう。一般的な血液検査は臓器の異常や動脈硬化、糖尿病の有無などを見つけることを目的としているのに対し、分子栄養学での血液検査は、細胞の中の状態を見て栄養の過不足や酵素活性、ストレス度合いなどを推定する。橋本氏は、「一般の血液検査で問題がないとされた方でも、分子栄養学的なアプローチでは不足している栄養素が幾つも見つかる場合があります。また、腸内環境の悪化や自立神経のバランスが崩れているといったことも判りますから、そこから体調不良の根本的な原因を探ることができます」と検査の特長を語る。実際に、大きな病院で受けた血液検査では「問題無し」と診断された人でも、栄養学的に問題が見えてくるケースもあるという。

様々な検査で原因を究明

我々が受けている血液検査に比べ、より広く精密な検査を行うことで一般の血液検査では見えてこない原因の究明が可能になる。保険診療では検査項目数が決められているが、分子栄養学は自由診療のため、必要だと思われる項目数に制限がない。例えば、甲状腺の検査や胃の中で働くたんぱく質分解酵素であるペプシノゲンなども標準の検査項目に含まれる。

血液検査以外にも、毛髪からの重金属の排泄状況を調べることで、体内に蓄積されている有害な重金属を計るとともに、ミネラル輸送障害や脱灰、甲状腺機能、副腎疲労なども把握することができる「毛髪ミネラル検査」。腸内細菌のバランスから真菌の状態、消化吸収能力、炎症の有無、免疫状態、短鎖脂肪酸、腸の健康マーカーなどを計る「総合便検査」。アトピーや花粉症、喘息のようなアレルギー、リウマチなどの自己免疫疾患のある人、うつ病やパニック障害など精神面の不調を抱えている人の栄養学的に原因を探ることができる。
食べてから数時間〜数週間後に症状が出る「遅延型フードアレルギー検査」、腸に住んでいる酵母菌の産生物を見ているので「腸を見ることができる尿検査」と言われる「有機酸検査」。肥満関連遺伝子、生活習慣病関連遺伝子、肌老化関連遺伝子を調べる「遺伝子栄養検査」。アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドベータペプチドを計る「ApoE遺伝子検査」など、一般の検診では体験しないような検査が揃っている。この他にも、我々には耳慣れない検査名が並ぶ。

食習慣の改善が基本

検査によって問題となっている原因を突き止めたら、それに対するアドバイスや治療を行う。カウンセラーによるフォローにも力を入れる。クリニックと患者がコミュニケーションを図ることが治療効果を高めることにもつながるため、カウンセラーの存在は大きい。

分子栄養学が対象としているのは、健康、或いは未病ゾーンの人たちであるから、こうした人たちへのアドバイスは主に生活習慣、食習慣の改善となる。そして、必要であれば、漢方薬やサプリメントを処方することで効果を高める。

分子栄養学カウンセラー・大野真理氏
天神ホリスティックビューティークリニック院長・橋本知子氏

事例を見てみよう。クリニックを訪れた自閉症の子供は、じっとしていることが苦手で成績も奮わなかった。検査によって、摂取を控えた方がいい食材と不足している栄養が判明した。そこで、食生活を変え、併せて不足している栄養素をサプリで補うよう指導すると、治療開始から2週間ほどで子供の態度に落ち着きが見られるようになった。その変化は、周りの人が見てもはっきりとわかるほどだったという。それから2カ月後、子供はテストで100点を取れるまでになったという。カウンセラーの大野真理氏は、「このような結果を目の当たりにしているので、食事の大切さを実感している」とほほ笑む。

アトピー性皮膚炎に苦しむ女性もいた。結婚を機に、それまで使用していたステロイド剤を止め、漢方と分子栄養学による療法を希望した。この女性の場合も検査で亜鉛やケイ素の不足が判明したので、それらを補いながら食事を変えることで少しずつ腸内環境の改善と抗酸化を図った。結果は良好だった。約2年を要したが、肌の炎症もおさまり化粧ができるまでに改善した。海にも入れるようになったそうだ。そして、薬も必要がなくなった。

人生100歳時代を支える新しい医療として

分子栄養学の考え方や事例などを通して、その有効性は理解できる。橋本氏や大野氏は、実際に様々な症状を訴える患者を看て、改善へのサポートを行い、その有効性に手ごたえを感じている。しかし、一方で分子栄養学に対する認知度は決して高いとはいえない。
認知度が上がらない要因の1つは、分子栄養学は自由診療の範ちゅうであるということが言える。自由診療は、保険診療と違って全額負担となるため割高になる。病気になれば保険を使って診察・治療を受けることができるのに、病気と判断される前に保険適用外の診療を受けることに抵抗感を感じる人もいるだろう。

それでも、日本人の寿命を100歳まで引き延ばす政府の方針が実現するためには、定年後も長く働かなければ生活を維持することはできなくなる。働くためには、健康である方が良い。生活習慣病などで体が悲鳴を上げてしまうと、それを元に戻すためには、健康を維持する以上に費用や時間がかかる。精神的な負担も大きい。病気によっては可逆性の場合もあるため、日頃の生活における健康維持がもっと重要になるのは間違いない。

だからこそ、栄養学的な考え方を広め、健康の維持と未病段階での改善が重要になるはずだ。橋本氏は、「病気になってしまえば治療になりますが、病気になる前なら、生活を変えなくても症状を改善する栄養学的なアプローチもあります。まずは、ご自分の細胞の健康状態を知っていただきたい」と訴える。

良いものが必ず認められるとは限らない。ましてや、新しいものを受け入れてもらうためには、地道な啓蒙活動も続けなければならないだろう。ひまわり会は、全国に30余の医療施設を有する法人である。あえて新しいことに取り組む必要もないように思うのだが、松尾理事長は、「健康寿命を150歳まで引き延ばすためには、再生医療など別次元の医療も必要になると感じています。分子栄養学のような新しい分野の医療は、もっと大きな医療機関が取り組むべきものかもしれませんが、健康で長生きできる社会づくりに貢献したいという思いから、当クリニックでもいち早く取り組みました。また、免疫細胞療法による癌治療を手がけておられる東京キャンサークリニックとの提携も実現に向けた模索をはじめました。常に新たな医療への挑戦を続けていきたいと考えています」と力を込める。

分子栄養学は、事業として見た場合、まだ単体で採算が合う段階ではない。同クリニックでも他の診療科目との併設という形で運営しているが、松尾氏は分子栄養学がもたらす社会的な意義と可能性の大きさを認識しているし、それを広めることも医療人としての使命であると位置づけているようだ。

分子栄養学は、まだまだこれからの分野かもしれないが、我々の健康を守る新しい分野の医療として、大きなうねりになる可能性を秘めている。新しい時代を切り開くのは、こうした情熱と挑戦する姿勢を持ち続ける人たちなのだろう。今後の展開に期待したい。

会社概要

名  称  医療法人ひまわり会天神ホリスティックビューティークリニック
住  所  福岡市中央区大名1-15-30天神ミーズビル501号
設  立  平成12年2月29日
事業内容  有床病院、訪問診療、訪問看護、皮膚科、眼科、小規模多機能型居宅介護、グループホーム、保育園、放課後等デイ
拠点   37ケ所
URL   https://tenjin-hbc.jp/
    (天神ホリスティックビューティクリニック)

Books  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.133(2022年7月号)

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