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保育施設の使用済紙おむつをリサイクルし「ゴミ」から「資源」を生み出す

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Trend&News トータルケア・システム株式会社

紙おむつリサイクルのパイオニア、トータルケア・システム株式会社(福岡市博多区、長武志社長)が、使用済紙おむつのリサイクル事業に日本で初めて取り組んだのが、いまから約20年前。以来、病院や福祉施設、家庭などから出される使用済紙おむつを回収し、素材ごとに分離して資源として再生する道を切り開いてきた。その技術、ノウハウを生かして保育園で発生した使用済紙おむつの回収、リサイクル事業に乗り出し、関係者から大きな支持を得ている。  
使用済紙おむつのリサイクルシステムを開発したパイオニア、トータルケア・システム株式会社が、保育園などを対象に乳幼児の使用済紙おむつのリサイクルを手がけ、保護者や施設で働く保育士から高い支持を集めている。

きっかけは保育園からの相談

事業の仕組みはこうだ。保育園などの施設を専用車両が定期的に巡回し、園児が使用した紙おむつを回収する。回収した使用済紙おむつは、福岡県大牟田市の紙おむつ専用のリサイクルプラント「ラブフォレスト大牟田」で水溶化処理を行い、紙おむつに使用されるパルプ、プラスチック、高吸水性樹脂(吸水ポリマー)といった素材別に分離、回収する。そして、パルプは建物などの外壁や内壁に使用する建築資材に、プラスチックと吸水ポリマーは固形燃料に、し尿類は微生物が分解した後に土壌改良剤などに生まれ変わっている。つまり、この仕組みは、使用済紙おむつを焼却や埋め立てといった従来型のやり方で「ゴミ」として処分するのではなく、新たな素材を生み出すための「資源」として再利用できる仕組みである。

同社が、保育園の使用済紙おむつを回収する事業をはじめるきっかけになったのは、ある保育園の園長からの相談であった。保育園においては、園児が使用した紙おむつは、保護者に持ち帰らせているところもある。目的は、園児の健康状態を家庭と共有するためだといわれる。子供を預けている間、我が子の健康状態について情報がないことを考えれば、親にとっても貴重な情報になると考えるのはもっともな話かもしれない。

しかし、一方で、使用済紙おむつを持ち帰ることについての負担の大きさを指摘する声もあった。保育士など施設のスタッフは、園児の紙おむつを取り替えるだけでなく、その紙おむつを他の園児のものと間違えることなく、確実に園児が持って帰るよう注意しなければならない。紙おむつの交換は、決められた時間ごとに一斉に行うものではなく、個人によってばらつきがある。そのため、忙しいスタッフにのしかかる負担は、肉体的にも精神的に決して小さくはない。特に、コロナ禍においては、「絶対に間違えてはいけない」という意識が強く、かなり神経をすり減らしたであろうことは容易に想像がつく。

一方、家庭でも子供が持ち帰った使用済紙おむつを燃えるゴミの日まで保管し、処分しなければならない。家庭にとっても負担になる。使用済の紙おむつは水分を含み重くなっているため、持ち運びも負担となっているだろう。
そこで、保護者と園のスタッフの負担を減らしたい保育園の園長が、園としての処分を検討し、「どうせ処分するのであれば、いっその事リサイクルに取り組む事ができないか」と考え、紙おむつのリサイクル事業に取り組む同社に連絡をし、使用済紙おむつのリサイクルができないかと相談を持ち掛けたというわけである。

実証実験で保育施設に設置した回収ボックス。

紙おむつリサイクルのパイオニア

相談を受けたトータルケア・システムは、2004年(平成16)7月に大牟田エコタウン内(福岡県大牟田市)に、日本初となる使用済紙おむつのリサイクルプラント「ラブフォレスト大牟田」を建設、翌2005年(平成17)4月から本格的な操業を開始した。同プラントでは、福岡県下の病院や福祉施設をはじめ、大木町やみやま町の家庭から出される使用済紙おむつの回収とリサイクルの仕組みを構築し、社会的に大きな成果を上げてきた。一方、搬入量全体の95%を占める、病院、福祉施設の中で、保育園からの搬入は一切ないという状態であった。

相談を受けた同社は、経済産業省の補助事業「令和3年度地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域デジタル化支援事業)」を活用して、福岡県内四ケ所の保育園を対象とした紙おむつリサイクルの実証実験に取り組んだ。実験では、「デジタルを活用した衛生的な保管と効率の良い回収方法の構築」と「デジタルサイネージ(映像)を通じた参加型リサイクルへ」という二つのテーマを設けた。 TOPPANの協力を受け、回収BOXにデジタルサイネージを設置。使用済紙おむつを投入すると、紙おむつリサイクルが環境にどう関わるかという映像が流れるなど、園児が楽しみながらリサイクルについて学び、参加できるよう工夫した。園内で使用した紙おむつだけではなく、家庭内で発生したものについても持ち込めるようにし、園と家庭両方の負担軽減も図った。

保育士、保護者から高評価

実証実験を始める前のアンケートでは、保護者からの疑問や不安の声もあった。しかし、実験終了後に実施したアンケートでは、「保育士さんの負担が軽くなるのであれば、是非、実施すべき」、「環境を考えた取り組みだから評価したい」というように、保護者の大半が紙おむつリサイクルを強く支持している。こうした結果を受け、同社は使用済紙おむつの処理に困っている、または、リサイクルの意識が高い施設の要望に応えようと、事業化に踏み切った。

この実証実験に取り組む前年、同社は、TOPPANが受託した『東京都における家庭からの使用済紙おむつ回収の実証実験』にも協力事業者として参加していた。この実験では、家庭から出る紙おむつをいかに効率的に回収するかということを、東京都の町田市と八王子市の2自治体で行った。
実験では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して、道路事情などを考慮しながら効率的な回収ルートを導き出すシステムの開発などを行い、知見を積み上げた。コロナ禍ということもあり、感染対策や臭い対策についても様々な工夫を凝らし、ノウハウを積み上げた。
そうした知見から、一般家庭から出る紙おむつ回収ノウハウを蓄積してきたことが保育施設での回収を可能にする後押しになったと思われる。

実証実験から約2年を経た現在、保育施設の使用済紙おむつリサイクル事業に参加する数が、当初の四施設から21施設に増えた。「施設同士は横のつながりが強く情報が伝わるのも早い。施設関係からの問い合わせはかなり増えました」と語るラブフォレスト大牟田の山田陽三工場長は現場での需要の大きさを実感しているようだ。やはり、多くの施設が同じような悩みを抱えていたのであろう。今後は、さらに参加施設の増加が見込まれる。

保育士と家庭の負担が減る。さらに、リサイクル事業に参加することで、環境保護にも貢献できる。しかし、課題もある。回収した紙おむつは、大牟田のプラントまで運ぶため、大型の車両で回収に回っている。その際、施設までの道路が狭く車両が入れず、施設からの依頼には応えることができないケースもあるという。

紙おむつ専用のリサイクルプラント「ラブフォレスト大牟田」
使用済紙おむつを水溶化処理し、取り出したパルプ。外壁、内壁などの建築資材として利用される。

持続可能な仕組みづくりのために

「使用済紙おむつは、リサイクルできる」という認識が広がれば、福岡県下の保育園や保護者に支持されたように、他の地域でも同じような声が上がるのではなかろうか。使用済紙おむつの処理は、焼却か埋め立ての二者択一があたりまえであった。使用済紙おむつは、70%が水分といわれる。そのため、他のものに比べると燃えづらい。炉の中で焼却するには助燃剤などを加えて炉内の温度を高める必要があるため、炉に大きな負荷がかかる。第一、焼却処分にすることは、地球温暖化を抑制しようとする時代の流れに逆行することでもあるといえる。埋め立て処分は、国土の狭い日本においては、限度がある。焼却、埋め立てという従来型のやり方では、資源を再利用することはできない。

 SDGsの理念にならって、持続可能な仕組みづくりを模索している行政や企業にとって、紙おむつのリサイクルは、「福岡発」「日本発」として世界に向けた発信ができる有効な仕組みだと思われる。ラブフォレスト大牟田のようなリサイクルプラントが日本中にできれば、ごみ問題や地球温暖化問題に対する1つの解決策となるのではなかろうか。

紙おむつリサイクルを国が後押し

政府も使用済紙おむつのリサイクルを後押しするようになった。2020年(令和2)3月、環境省は「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を公表した。環境省のサイトでは、「我が国における大人用紙おむつの消費量は、高齢化に伴い年々増加しており、推計によれば、一般廃棄物に占める割合は、2020年度時点では約五%程度だったところ、2030年度頃には約7%程度となる見込みです。現在、廃棄される使用済紙おむつの多くは市区町村等の廃棄物処理施設において焼却処分されていますが、一方で、紙おむつは、素材としては上質パルプ、フィルム、吸水性樹脂から構成されており、再生利用等によりパルプ等の有効利用が可能です」と紙おむつリサイクルの有効性を認め、紙おむつリサイクルプラントを建設する自治体などを対象に補助金を用意する施策を打ち出した。

これをうけて、自治体の関心がこれまで以上に高まった。大牟田のプラント視察を希望する自治体や企業からの問い合わせが増えているという。同社以外にも使用済紙おむつのリサイクルに乗り出す企業も出始めたが、やはりパイオニアとして20年にわたって積み上げてきた知見とノウハウは、他社を寄せ付けないといっても過言ではないだろう。

地球温暖化への対応は、喫緊の課題であることに疑う余地はない。使用済紙おむつのリサイクルプラントが、全国に広がるようトータルケア・システムの今後の展開に期待したい。

会社概要

会社名    トータルケア・システム株式会社
住所     福岡市博多区井相田1-10-40
       TEL 092-588-3365
設立     平成13年11月14日
代表     長 武志
資本金    1億8500万円
事業内容   使用済紙おむつの水溶化処理、再生パルプ等の販売、
       紙おむつリサイクル事業の総合プロデュース
URL     http://www.totalcare-system.co.jp/

Trend&News  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.152(2024年2月号)

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