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人づきあいの極意は、とことん尽くす「ギブ&ギブ、ギブ」の精神

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Trend&News ■異業種交流会・VAV倶楽部会長 近藤昌平氏

1966(昭和41)年に洋菓子専門店「ボンボヌール」を開業、日本初となるケーキの会員制宅配事業を始め、ケーキの無店舗販売という新しい市場を切り開いた近藤昌平氏。数々のヒット商品を生み出し、27,000人もの会員組織を作り上げると共に店舗展開も推し進め、500人の従業員を率いる近藤氏は「洋菓子界の革命児」「ケーキクリエーター」と称された。その傍ら、異業種交流会「VAV(バブ)倶楽部」を立ち上げ、参加者同士の縁をつなぐことを40年以上も続けている。仕事や人生で上手くいっている人の多くは、豊かな人間関係の構築に秀でている。VAV倶楽部会長として会を運営する近藤氏の考え方や人との付合い方に、これからのデジタル社会を生き抜くヒントが見える。

始まりは七人の自営業者

わずか7人で立ち上げた異業種交流会「VAV(バブ)倶楽部」は、個人主宰の会としては異例の会員数400人規模にまで拡大、しかも、40年以上も続いている。各界の著名人を講師に迎え、多くの会員が集うVAV倶楽部の魅力とは何か。

―VAV倶楽部が始まったのは、今から40年以上前のことですが、どのよう経緯で発足したのですか。
近藤 VAV倶楽部は、1980年(昭和55)1月にスタートし今年で43年目になります。当時、愛知県で「ボンボヌール」の名称で洋菓子製造、販売を手掛けており、VAV倶楽部を設立したのは、私が単身、東京に出る前年のことです。
最初は、志を持った若手の自営業者七人が集まり、それぞれの近況報告やお互いの夢を語り合う場でした。名前もなく、「近藤さんを囲む会」的な集まりでしたが、しばらくすると、親交のあった方に講師をお願いするようになりました。講師陣が著名な方々ということもあり、会員は30人、50人と増えて短期間で100人規模になりました。すると、「近藤が選挙に立つのではないか」といったうわさが立つようになった。それで、名前を付けて会の形をはっきりさせようということになり、メンバーの方が「VAV倶楽部」という名称を考えてくれました。「VAV」とは、Vitality(バイタリティー)、Action(アクション)、Victory(ヴィクトリー)の頭文字をとった造語です。

その後も会員は増え続け、ピーク時には約400人にまで増えました。会員制にしたのは、皆さんが安心できる空間を作りたかったからです。自分でいうのもなんですが、よくこれだけ良い会員さんが揃ったと思います。

―入会金や参加費などは、どのように設定しているのですか。
近藤 入会金が10万円。月々の会費などは必要ありません。現在、奇数月にVAV倶楽部を開催していますが、出席される際に参加費が必要になるだけです。参加費は、会員が1万5,000円、一般が2万円です。一般の方は2回まではビジターとして参加できます。

各界の著名人が登壇

VAV倶楽部は各界で活躍する経営者や著名人が講師として登壇しており、それが大きな魅力にもなっている。その多くが、近藤氏と親交のある人だという。その顔ぶれの多彩さ、豪華さは近藤氏の人脈の広さとつながりの強さを表している。

―40年以上も続けることができた要因は何だとお考えですか。
近藤 まず、素晴らしい方々を講師にお迎えできているのが大きな魅力だと思います。例えば、企業経営者では京セラ創業者の稲盛和夫さんやニッカウヰスキー会長の竹鶴威(たけし)さん、ワコール会長の塚本幸一さん、三井不動産社長の岩沙弘道さんなどに登壇していただきました。三笠宮殿下や昭和天皇の侍従長を長く務められた入江相政(すけまさ)さん、明治神宮名誉宮司の高澤信一郎さんにもご登壇願いました。福岡からは、力の源カンパニー社長の河原成美さん、宗像大社宮司の葦津敬之さんが来てくださいました。

―著名な方々が名を連ねていらっしゃいますが、多忙な方々がよく講師を引き受けてくれますね。
近藤 講師としてお招きする方の多くは、日頃から親交のある方々ですが、講師のお名前に驚かれる参加者は多いですね。書家・詩人の相田みつをさんも講演されましたが、相田さんとはご縁があって一緒に講演してまわることもありましたし、相田さんのスケジュールが空いていない時は、相田さんの代わりに私が講師を務めるという間柄でした。そうしたご縁から、今でも相田みつを美術館の専任講師を拝命しています。
さまざまな方にご登壇いただきましたが、なかでも、昭和天皇の弟君の三笠宮殿下をお招きした際には、皆さんびっくりされました。最初は、なかなか信用してもらえませんでしたよ。

―VAV倶楽部で出される料理はかなり評判がいいようで、これも魅力の一つですね。
近藤 設立当初から、料理は非常に重視していました。おかげさまで、喜んでいただいています。最近は、銀座シックスのフレンチレストランで開催しています。

原点は、母の生き方

人付き合いの手本としているのは、母の生き方。人に与えることを喜びとする母の生き方は近藤氏に引き継がれ、「ギブ&ギブ、ギブ」の言葉が生まれた。与え尽くすという考え方は、VAV倶楽部の運営の根幹である。

―豪華な料理にお土産までつけるそうですね。採算が合わないのではありませんか。
近藤 なんとか赤字にならないように努めますが、用意するお土産によっては足が出ることもあります。それでも、お土産を付けるのは私の主義なのですよ。
お土産をもらって怒る人はいません。皆さん、「ありがとう」と笑顔で受け取ってくださいます。私は、人から何かしてもらったら、お礼を申し上げるのはもちろん、その言葉に品物を添えて気持ちを伝えることが大事だと考えています。VAV倶楽部に来てくださる方にも感謝の気持ちを伝えたいと思い、毎回お土産を付けています。

この考え方は、母の生き方から学んだものです。母は、いつも人に何かを与え、それを喜びとしていました。お世話になった御恩を忘れず大事にし続ける人でもありました。私がある方にお世話になったりすると、私の知らないところで、「息子が大変お世話になりました」といって品物を届けるわけです。自分のための出費を抑えてでも、お礼を形にすることを続けていました。私のお手本は両親です。父が早く亡くなったため、母からたくさんのことを学びました。

母からはよく、「ひと様に可愛がられる人になりなさい」と教えられました。ですから、私の人との付き合い方は「ギブ&テイク」ではなく、「ギブ&ギブ、ギブ」という言葉に尽きます。与えて与えて、与え尽くすということです。交流会にお土産を付けるのもこの考え方からです。

近藤氏はこれまで、多くの本を上梓しているが、最近は、『成功する人は、必ずお母さんを大切にしていた』という、様々な人からの母への感謝状を取りまとめたシリーズを企画・プロデュースしている。

恩人に送り続ける誕生日プレゼント

恩人には、一生かけて感謝の気持ちを伝え続けるのが近藤氏の流儀である。いうのは簡単だが、やり続けるのは容易ではない。このくらいで良いだろうという考えはない。とことんやり抜く近藤氏の姿勢が、大勢の人を惹きつけている。

―そこまで相手のことを思い行動するからこそ、お付き合いの輪が広がり、各界の著名な方々が講師を引き受けてくださるわけですね。ご自身の著書でも、人に喜ばれることを大事にし、関わった方にプレゼントをされているのが印象的でした。
近藤 いつ頃から始めたのかは定かではありませんが、例えば誰かにお世話になったとします。その人のおかげでご縁を頂いたり、目的を達することが出来たり、いろんなケースがありますが、その方は私にとって恩人です。私が事業で銀行借り入れが必要な時、保証人になってくださった方もいらっしゃいます。そうした恩人には、誕生日にプレゼントを贈ります。それも、その方が亡くなるまで続けます。
そのため、お世話になった人の事を忘れないように、365日のノートを買って、元旦から皆さんの誕生日を書き込み、毎月、そのノートを開いて「あの人には何を持っていこうか」と考え、それを続けています。

―かなりの数の誕生日が書かれているのでしょうね。
近藤 ノートにはたくさんの方の誕生日を書いています。かなり多くの方が亡くなられましたが、「君は忘れずに誕生日に持ってくるね」とか「義理堅いね」といって喜んでくださいます。
―どのようなものを贈るのですか。
近藤 明太子やフルーツなど毎年変えています。スイカ丸ごと持っていくこともありました。何も言わずにスイカを一個持っていったら、「何事ですか」と驚かれる。それで、「誕生日でしたね」というとすごく喜んでくれるんです。実際にやってみるとわかりますよ。ある時などは、魚一匹もっていったこともあります。やってみて、相手の方がどう反応するかを見るのも非常に勉強になります。

また、誕生日をノートに記録することを続けていると、初対面の方でも誕生日を聞けば、その人のおおよその性格が分かるようになります。最初は分からなくても、誕生日とその人の人間性や人格を自分なりに分析していると、不思議とわかるようになりますよ。こればかりは、自分でやらないと分かりません。かなりの確率で当たるようになりますからおススメです。

人を褒めることの大切さ

何事もメールやSNSで済ませる時代に敢えて手紙を書き続ける。手紙は相手に響く。人付き合いとは本来、簡単にできるものではなく手間や時間、金がかかるということ。そして、そうした非合理的とも思えることが重要であるということを、近藤氏の手紙を書く姿勢に再認識させられる。

―近藤会長はかなり筆まめですね。
近藤 手紙は毎日書きますね。人にお会いしたら、その日のうちに書くよう心掛けていますので、いつでも手紙を書けるようカバンには便箋と封筒、切手を入れています。多い時は一日に50通、60通書くこともあります。

今は、何でもメールでやり取りできる時代です。そんな時代に、私がやっていることは時代に逆行しているかもしれませんが、手紙は送って嫌がられることがありません。嫌われないことは大事です。電話は相手の時間に突然割り込む。SNSなどもそうです。一方、手紙は受け取った方が自分の好きな時間に読むことができる。手紙は相手の事を思い浮かべながら書きますから、文字に気持ちが乗ると思っています。
お世話になった方へのお礼の品や手紙以外でも、人との友好な関係を築くために欠かせないのは、人を褒めることだと考えます。褒められて怒る人はいません。良いところを見つけて褒める、美点凝視の精神が良好な人間関係を築きます。

とことん尽くす「ギブ&ギブ、ギブ」

つのことを極めれば、多様性が生まれる。仕事や人間関係においても、相手にとことん尽くせば、思いがけない大きな運やチャンス、縁に恵まれる。近藤氏の生き方は、経営者やリーダーがこれからの時代を生き抜く知恵になるだろう。

―近藤会長といえば、洋菓子製造・販売の「ボンボヌール」を経営されていた頃は、伝説のケーキとなった「ファンシー」をはじめ数々のヒット商品を生み出し、ケーキの宅配という新しい市場を創造されました。加えて、企業の記念事業や社長交代などの引菓子を企画され、幾つものユニークな企画で話題も呼びました。こうしたアイディアはどこから生まれてくるのですか。
近藤 いろんな商品を作りましたね。その基本となる考えは、人が喜ぶものを作るということです。例えば、日本経済新聞社の森田康さんが社長になった時に、社長就任パーティーを東京、名古屋、大阪、北海道、九州と全国で開催する際の記念品を探しておられた。私は、人を介して日本経済新聞社に提案しました。新聞社の記念品だから新聞記事でケーキを入れる箱を包むというものですが、金で箔押しをするという手の込んだものでした。この案が面白いということで採用していただきました。

―高松宮家御用邸の竣工記念の引き菓子も作られました。
近藤 高松宮妃が貝のコレクターでいらっしゃったので、いろいろな貝殻のクッキーを焼きました。貝もいろいろな種類がありますから、型を作るだけでも大変でした。しかも、注文を受けて納品まで2週間しか時間がなかった。
命懸けでやろうと覚悟を決めて、納期が間に合わないという型屋さんなど関係者を口説いて、なんとか納期に間に合わせました。妃殿下のためにこっちも命懸けでしたが、妃殿下はじめ皆さまが大変喜んでくださったのが何よりも嬉しかったのを覚えています。

―オリジナルの記念品となると、かなりの費用がかかるのではありませんか。
近藤 日本経済新聞社の記念品でも箔押し代はかなり費用がかさみましたし、三笠宮家の貝殻の型代もかかりました。しかし、私自身は喜んでもらえれば良いと思って提案していましたから、その時はコスト度外視でもやろうと考え取り組みました。とことん尽くす「ギブ&ギブ、ギブ」の精神です。

結果として、記念品を受け取った経営者や資産家の方から「同じようなものが欲しい」とか「うちの企画を考えて欲しい」という注文や相談が相次ぎ、どんどん仕事が増えました。損得抜きに尽くすことが、後になって思いがけないご縁やチャンスに恵まれたわけです。
「指圧の心は母心」で有名な浪越徳次郎さんから、喜寿の祝い菓子を依頼された時に企画したものも印象深いですね。依頼を受けた私は、あの有名な「指圧の心は母心。押せば命の泉わく」のフレーズと豪快な笑い声を浪越さんご本人にお願いして録音しました。そして、箱に壷を付けて「この壷を押してください」と書いたのです。
箱を開けた人がその壷を押すと、浪越さんのあのフレーズと豪快な笑い声が再生される仕掛けにしました。箱の中には当然、菓子が入っています。これも話題になって、新聞などマスコミで大きく取り上げられました。

―アイディアを生む秘訣は。
近藤 相手が何をすれば喜んでいただけるかということを、考えて形にすることです。発想を得るためには、いろんなことに興味、関心を持つ。その積み重ねがアイディアを生む力になります。相手に喜ばれるアイディアを生むのに特別な力は必要ありません。相手のことを思い関心を持ち続ければ、アイディアも生まれてきますよ。

団体概要

名 称  VAV(バブ)倶楽部
住 所  東京都中央区銀座8-11-13-2F
     TEL03-3572-5555
設 立  1980(昭和55)年1月
会 長  近藤 昌平

Books  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.142(2023年4月号)

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