■講演録 一般財団法人ほめ育財団代表理事 原邦雄氏
国連でのスピーチが、世界を駆け巡る
日本の若者は、先進諸国の中で自己肯定感が非常に低いと聞く。精神的な不安を抱え、将来に希望が持てない、或いは、幸福感を抱けない若者が多いという現実が、それを物語っている。自己肯定感を高める有効な方法に、ほめるという行為がある。一般財団法人ほめ育財団(原邦雄代表理事)は、ほめて育てるプログラム「ほめ育」の普及に努めている。今年九月、原氏は国連から招待され「ほめ育」についてスピーチを行うと、その理念と活動を世界の国々が称賛している。(2023年11月13日に福岡市で開催した経営者の集いでの卓話の内容を編集したものです)
原点は、ラーメン店の洗い場
一般財団法人ほめ育財団代表理事の原邦雄さんは、コンサルタントとしての力を付けるため、飲食店の洗い場で修業を始める。苛酷な現場は、経験のない原さんにとって肉体的にも精神的にも厳しい場だった。
私は大学を卒業後、船井総研に入社しました。コンサルタントとして、飲食や食品関係の経営者を支援する仕事に携わっていました。コンサルティングの効果を高めるためには、コミュニケーションが欠かせません。当時の私は、経営者とのコミュニケーションを取ることはできましたが、その会社で働く現場スタッフとのコミュニケーションがなかなか取れずに行き詰まりを感じていました。
会社の上司からも「博多に行って屋台を引いたらどうだ」とアドバイスをもらったこともあり、ラーメンチェーン店のオーナーにお願いして、住み込みでいちから現場を経験させてもらうことにしました。
まずは、洗い場の皿洗いから始めました。洗い場では、船井総研の看板は通用しません。ひとまわり下のアルバイトの女の子に仕事を教えてもらうわけですが、それまで包丁を握ったこともありません。アルバイトの女の子からは、「原さん、仕事の考え方が甘いですね」「何もできないですね」「あなたが動くと店が回らなくなるから、日曜日は動かないでください」と、厳しい現場の洗礼を受けました。その店は、約50席を有する大型店で、土日は800人、平日でも500人ぐらい来店する超繁盛店。その店の洗い場を1人でまわすとなると、大変です。今まで、いろんな仕事をしてきましたが、この仕事が一番難しいと感じました。今となっては、この時の経験が貴重な財産となっています。
洗い場を半年経験し、その後、チャーハンや焼きめし、餃子などもつくれるようになり、最後は店長として働きました。そうやって、4年間勤めました。その中で生まれたのが「ほめ育」です。
現場で始めたほめる会議
世界に広がる「ほめ育」は、原さんがコンサルタントの修業を目的に勤めたラーメン店の店長時代、止まらない離職に悩んだ末に始めた「ほめる会議」にその原型がある。
お恥ずかしい話ですが、店長を務めはじめた頃の私は、スタッフを叱り飛ばしていました。当然、スタッフはどんどん辞めていきます。25人いないと回らない店舗なのに、残ったスタッフは四人ということもありました。店長としてのマネジメントの敗北です。
当時、松下幸之助さんの本を読んでいて、「主体変容」という言葉に出会い、自分が変わらないといけないと学びました。どう変わるべきか考えていると、自分が幼少期から両親にほめられて育ったことを思い出し、これからは、良いところを見ていこうと決めました。
それで、月に1回、ほめる会議を始めました。パート、アルバイトさん20名程に集まってもらい、1人ひとりほめていきました。ほめると言っても、髪型が良いというような個人的なことをほめるのではありません。店長の役割は、繁盛店を作ることですから、繁盛店につながるような行動をみんなの前でほめました。
次第に、皆がほめることを真似するようになりました。すると、どんどん売上が上がり、日曜日の売上が160%にも達しました。忙しくなってもスタッフは辞めない。私が追求した店を作ることができたと手ごたえを感じて、コンサル業界に帰ることにしました。
国連で「ほめ育」についてスピーチ
原さんは、アメリカで起業する。独自メソッド「ほめ育」は、アメリカでも成果を上げ、日本はもとより多くの国で取り組まれるほど広がりを見せている。原さんは、国連に招かれ「ほめ育」についてスピーチする。それが、世界を駆け巡り「ほめ育」の考え方は、大きなうねりを生み出そうとしている。
コンサルタントとして再スタートする時、「日本一になろう」と決意しました。その際、日本では駄目だと思いアメリカで起業します。アメリカである程度結果を出せたら、日本でも認められるのではないかと思ったからです。
「ほめて育てる」という私たちが独自に開発した教育メソッド「ほめ育」は、多くの方々に支援していただき、成果を上げていきました。すると、アメリカのメディアに取り上げられるようになり、その様子が、日本の報道番組やNHKでも紹介されました。そうやって、日本でも認知度が上がり、本も出版しました。今まで出版した本は30冊程になります。
「ほめ育」は、国内外で導入が進み、約500社(施設)の導入事例があります。福岡では、ピエトロドレッシングさんや自動販売機の会社、熊本では医療法人や介護施設などで導入されています。また、「ほめ育」の教育メソッドは、国内だけでなく世界20数か国にも広がっています。
今年の9月11日には、国連のユニオン・リーグ・クラブ・ニューヨークにて「ほめ育」についてスピーチをする機会をいただきました。当日は、SDGsの制定に大きな役割を果たし、現在は「持続可能な開発のためのグローバル・アクション・センター(CGASD)の副会長を務めるグローリア・スター・キングさんをはじめ国連関係者、教育者、経営者など150人が世界中から集まっていました。私は、そこで、「全ての人は、ほめられるために生まれてきて、ほめ合うために存在する」というテーマでお話しました。
そのなかで、「ほめるに値する行動をした人には、ほめ言葉を伝えましょう。これは、子供や労働者だけに限ったことではなく、誰もが必要としています。私には、ほめることで世界中の人々の生活を明るくしたいというビジョンがあり、世界の指導者たちがお互いをほめ合う未来を描いています。そして、それは生産性向上につながります」と思いを伝えました。
生まれたばかりの赤ちゃんに、改善点を指摘する人はいません。初めてハイハイしたときに、その仕方が悪いという人はいないと思います。何かと比べる汚点凝視ではなく、美点凝視の考えでお互いに美しいところを見る。それが、私たち人間の生まれて来た意味だと考えます。私たちが生まれてくる確率は、宝くじ1等が7回連続で当たるぐらいの奇跡的な確率だそうです。だから、私はいつまでもお互いの良いところを認め、ほめ合う存在でありたいと思っています。
その見本を子供に示すのは、大人です。まずは、自分の視点をいかにプラスにしていくかということが大事ではないか、ということもお話しました。その上で、「地球人の行動指針の1つとして、『すべての人はほめられる為に生まれてきて、ほめ合うために存在する』という言葉を入れて欲しい」と提言しました。この言葉を伝えることは、自分のアイデンティティでありミッションです。人生をかけてこれを続けます。
米経済紙『フォーブス』での連載も開始
原さんは、コンサルティングや講演のほかに、執筆活動も行っている。ほめ育関連の書籍は、30冊に及ぶ。最近は、アメリカの経済紙『フォーブス』でも連載を始めた。こうした活動は、「ほめ育」を普及、浸透させるためだが、原さんの存在は大きくなるばかりだ。
国連でのスピーチは大きな反響を呼びました。幾つもの国から講演依頼をいただき、「ほめ育」について話をしています。また、アメリカの経済雑誌『フォーブス』で連載も始めました。フォーブスの記事もそうですが、私は自分の職業を「ガイドスピーカー」と表現するようになりました。ガイドスピーカーという言葉は、国連でのスピーチの後、グローリスさんと話をしている時に生まれました。
私のスピーチを聞いたグローリアさんは、「貴方のスピーチは素晴らしかった。あなたは重要な人物」だとほめてもらったあと、「少しアドバイスするとすれば、一方通行のスピーチではなく、聞いている人を導くようなスピーカーになることを期待している」とおっしゃいました。それに対して私は「これからガイドになるね」と答え、以来、自分の仕事や役割を表現する言葉として「ガイドスピーカー」を使うようになりました。
フォーブスは、いろんな経営者が読んでいる雑誌です。その読者の方々のガイド役を担えればと考えています。経済を回しながら、教育環境もつくらなければいけません。例えば、子供同士の喧嘩やイジメを見た大人は「止めなさい」というでしょう。でも、子供たちには「大人は止めてない」と映る。世界中で紛争や暴力が絶えないことを子供たちは知っています。教育はどこまでいっても、見本、信頼、支援だと思います。
わたしは、子供たちの代弁をしなければいけないと思って、日本でも海外でも、いろんなところで見本となれるよう心掛けています。その1つとして、国のトップ同士がほめ合うような見本を見せる日を作りたいと考え、国連でも「ほめ育の日」の制定を提案しました。日本では既に、2016(平成28)年に10月19日が「ほめ育の日」として認定・登録されました。今後は、毎月19日を「ほめ育の日」として親しんでもらえるよう広めていきたいと考えています。
業績につながる行動をほめる
ほめることは、教育現場だけでなく家庭や企業などでも効果を発揮する。「ほめ育」が企業で導入されている最大の理由は、生産性の向上につながるからである。
今日は、経営者の集まりですから、最後に企業での「ほめ育」について少しお話します。「ほめ育」が企業に導入されている大きな理由は、ひと言でいうと生産性が上がるからです。企業活動における行動や取り組みは、金銭的価値に変えていかなければいけません。例えば、離職が減るということは、採用のための費用が抑えられることになります。それから、是非、勘定科目に入れるべきだと思うのは、未戦力賃金と期待成果です。未戦力賃金とは、例えば、新人が1人前になるまでに3年かかるのであれば、その間は未戦力です。それから、六年働いてくれて、さらに7年目から会社に貢献してもらおうと考えている時に、転職してしまう。同じ業界に転職されると、ライバル会社のためにコストをかけて育ててしまったということにもなる。人が辞めたら、また採用するためのコストが発生します。
この未戦力賃金と期待成果もしっかり計算することが、経営の重要な課題の1つだと言えるでしょう。「ほめ育」で離職を止めることによって、企業の業績を安定させる効果が期待できます。研修のために人数を集めるのはハードルが高いという企業向けには、経営者や人事部長、マネージャーが月額1万円や3万円からオンラインで学べるプログラムもあります。そうやって学んでから、自社に導入していくこともできます。
国連でのスピーチの後、イギリスで表彰されインドの新聞では一面で特集を組まれました。来年はサウジアラビアでも講演依頼をいただくなど、様々な国と地域が「ほめ育」に関心を示していますし、広がっています。
「ほめ育」は和の精神です。この精神を世界中に広めていきたいと思っています。先人たちが作り守ってきた、素晴らしい国と精神を引き継ぎたいと思っています。
世界の人格者ほど、日本のことを高く評価しています。世界の方はどんどん日本人に来てほしいと言っています。私は、現代のジョン万次郎になろうと思っています。素晴らしい日本の価値を、世界に広めていくような教育の道を作る人間になりたいと願っています。
ひとりの人間の思いが、社会や国すら動かすことがある。お互いにほめ合うことで、平和を引き寄せる良好な関係性が生まれるだろう。原さんが声を上げた運動は、紛争が耐えない今日こそ必要なものだといえるのではなかろうか。
会社概要
名 称 一般財団法人ほめ育財団
住所 大阪市中央区本町4-8-1SD本町ビル702号
設立 2015年12月11日
代表 原 邦雄
事業内容 教育メソッド「ほめ育」の普及。研修、出版事業など。
URL https://ho-make.com/
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.150(2023年12月号)
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