経営者と税理士と節税 ■井上税理士事務所 所長 井上 伸一
死亡保険金が発生する個人の生命保険契約には、通常、3者が出てきます。3者とは、契約者、被保険者、受取人です。
前回、お話ししたように、契約者・被保険者が本人、受取人がお子さんという契約であれば、問題ありません。みなし相続財産として、受け取った保険金を相続財産として、申告すればいいことになります。
契約者・受取人が本人、被保険者がお子さんの場合は、どうなるでしょうか。お付き合いで加入している保険契約は、このパターンが多いように思えます。被保険者が若いうちに契約をするので、契約が通り易いというのがあるのかもしれません。通常、お子さんより、ご本人(親)の方が先に亡くなるので、相続が発生した後、受取人の変更をして、相続発生時の解約返戻金相当額で「生命保険の権利」として、相続財産に含めます。
このような契約をお持ちの方から「相続財産に入れたくないので、私(親)が元気なうちに契約者と受取人を変更したいのだけど、そんな事できる?」と聞かれることがあります。この場合であれば、契約者を本人(親)から子供へ、受取人を本人から孫へという変更の希望が多くなります。当然ですが、被保険者の変更はできません。
結論から言えば、名義変更は可能です。名義変更により、相続財産に含めないことができます。しかし、相続税は掛かりませんが、他の税金が発生します。贈与税が発生するのです。
この贈与税の発生は、契約者変更時でなく、保険事故発生時、つまり、子が死亡した際に発生します。ですから、受取人(この場合であれば、孫)に贈与税が発生するのは、一般的に契約者変更を行ってから、ずいぶん時間が経過してからのことになります。加えて、注意が必要なのは、保険料相当額に対して贈与税が課税されるのではなく、保険金額に贈与税が課税されます。
契約者と受取人を変更する場合には、長い目で、どのような課税関係が発生することになるかを判断しなければなりません。孫が保険金を受け取った際に「贈与税」が発生するなんて考えもしないでしょうから。しかし、私はこれまで、贈与税を支払ったという話を聞いたことはありません。実務的には、どのような取扱いをしているのか保険会社に確認してみたいものです。
経営者と税理士と節税 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.132(2022年6月号)
プロフィール
井上 伸一(いのうえ しんいち) 【税理士】
井上税理士事務所 所長
昭和46年、福岡県生まれ。長崎青雲高等学校、立命館大学法学部卒業。
平成11年、税理士登録。平成23年、井上税理士事務所開業。
中小企業の経営指導のほか、企業経営者・医師等に向けて各種セミナーを行う。
コメント