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創業310年、物にこだわる老舗は一子相伝で昔ながらの酢造りに徹する

老舗の知恵

老舗の知恵 ■老舗の知恵 株式会社庄分酢 第14代目・高橋 一精 氏

築260年余の建物は、大川市の指定文化財になっている。

身近な発酵調味料である酢の歴史は古く、人類が作り出した最古の調味料ともいわれている。日本へは4~5世紀頃に中国から酒造技術とともに米酢の醸造技術が伝来したのが始まりとされる。宝永8(1711)年に福岡県大川市で酢造りを始めた老舗の酢蔵元が庄分酢だ。創業以来310年・14代にわたって一子相伝による昔ながらの製法を受け継ぎながら、時代の変化を見据えた本物のおいしさを追求し続けている。

14代目当主 高橋一精(たかはし・かずきよ)氏

米どころで酒造りを始め、酢造りを家業として営む

悠久の流れをたたえる筑後川が豊かな土壌を育んだ筑後国は古来、米どころであり、酒造りの盛んな地域だ。そして、酒を再発酵させた伝統的な調味料である酢造りを今日も受け継ぐ。
1711年(宝永8)創業の「庄分酢」は酢を醸造する蔵元としては日本有数の老舗だ。1624年(寛永1)に高橋家の初代清右衛門は久留米藩の港町としてにぎわっていた大川・榎津に居を構えた。2代四郎兵衛が造り酒屋を営み、1711年(宝永8)に4代清右衛門が酢造りを始めた。以来、14四代・310年にわたり、昔ながらの酢造りを続ける。

1759年(宝暦9)に五代清右衛門が、現在地へ移り住んで現在の店舗と母屋を兼ねた入母屋妻入造(いりもやつまいりづくり)の建物を建てた。太い梁をめぐらした堅牢な造りである築260年余りの建物は、大川市の指定文化財でもある。「変えてはいないところと変えてもいいところの両方を見極めながら取り組んでいる。基本的な造り方は昔から変えていない半面、洋食化や少子化、外食化などの環境変化に合わせた商品開発や容器デザインなどに挑戦している」。第14代の高橋一精・株式会社庄分酢代表は語る。

趣きのある店舗内は甘くまろやかな香りに包まれ、純米酢やくろ酢、フルーツビネガー、飲む酢、すし酢、ドレッシングなどの多彩な酢製品を目にする。

発酵・熟成に時間をかけた丁寧なものづくりを守ってきた

大量生産と速酢法の工業生産と一線を画す

農林水産省の食酢生産実績調査によると、2019年度の生産量は43万1800キロリットルだった。日本人1人あたり換算で3.4リットルとなる。食酢生産では、大手メーカーの製法に代表される、多く・安く・速くを追求した大量生産と短期発酵・熟成の速酢法が主流になった感もある。
これに対して、庄分酢では昔ながらの製法にこだわりながら、酢を造り続ける。

「秘伝代々相続人ヨリ外一切如 何ナル場合ト雖モ見スル事無 用ノ者也
 右子々孫々相守可キ者ナリ」

高橋家において代々受け継がれてきた家伝の巻き物では巻頭において、一子相伝で製法を受け継いでいくことを記す。

庄分酢の代表的な商品である『有機玄米くろ酢』の場合、原料は米、水、麹の3つだけだ。毎年、春と秋の彼岸前後に蒸した有機玄米に麹米を加え、土中に半分埋めた陶器製のかめに仕込んでいく。仕込水を入れたかめ内の下部において麹菌の働きで米を糖化させ、酵母菌の作用で酒を造っていく。そして、液面の酢酸菌が酒を酢に変える。3カ月の静置発酵期間を終えた酢は、その後貯蔵タンクにおいて熟成の時を迎える。
昭和初期に建てられて、本店敷地内で90年余り佇む昭和蔵には、『蔵付き菌』と呼ばれる菌が蔵内に住み着き、その菌が酢独自のまろやかな味や香りを醸し出す。

昔ながらの酢造りに徹して、時代が追い付く 

310年続く老舗の歩みは、幾多の苦難を乗り越えてきた歴史でもある。江戸時代中期に創業した庄分酢は、幕末の揺籃期を経て、明治、大正へ進み、激動の昭和を経験した後、平成、令和の世を迎えている。その間、11代である曽祖父の時代において保証人倒れに遭遇し、蔵元や家屋が一時人手にわたるという事態も発生した。 
12代だった祖父の精記は、債権者から建物を借りて商いを続けていくことで返済していき、今日の規模まで取り戻している。庄分酢にとって〝中興の祖〟ともいえる12代の存在は、老舗の歴史で金字塔となっている。

20世紀末のバブル経済崩壊後は、洋食化や外食化、洋食化、少子化を一気に加速化させ、食酢業界でも大量生産・速醸法が浸透していった。さらに従来、酢を取り扱っていた青果店や食料品店が減少する一方、コンビニエンスストアやスーパーマーケットの台頭で流通構造の変革がもたらされた。その結果、大手メーカーが市場を拡大する半面、地元の酢醸造元は廃業・転業していく事態も相次いだ。

このような状況に際して14代である一精氏が下した決断は、「先祖から受け継いだ蔵、かめ、おけがあるので、昔ながらの酢造りに特化する」ことだった。一見、時代の流れに逆行する感はあったものの、その後に本物志向や健康志向が到来すると、「時代が、本物の酢造りに追い付いたので、大きなターニングポイントだった」と振り返る。

店内には時代のニーズを捉えた様々な酢が並ぶ

伝統と革新の攪拌と発酵が老舗のDNAとなる

昔ながらの酢造りにこだわる庄分酢は、創業時の味を復刻させる試みも実現した。15代となる長男の清太朗氏による『蔵付酢酸菌かすみくろ酢』は、生産技術の発達や保存環境の整備で古来の粗ろ過と最低限の加熱殺菌で衛生基準をクリアした。
簡易なろ過のため、透き通らずにかすんでいるのの、すっきりした香りとまろやかな酸味があり、さらに酢酸菌も取り除かれることなく含まれている。酢酸菌に免疫バランスを整える作用があり、花粉症の症状を抑制するとの研究結果も出て、注目される。

一方、酒蔵開きをヒントに立ち上げた、全国的にも珍しい「酢蔵開き」は昨今のコロナ禍で初のオンライン開催を実現した。また、福岡市に開設した「庄分酢 福岡けやき通り店」では、店舗販売と共にワークショップも開く。
「酢のすばらしさ、本物のおいしさを当社らしいやり方で伝えていくことでお酢の食文化を発展させていきたい」と、一四代の一精氏は思いを馳せる。

昔ながらの製法を一子相伝で受け継ぐ伝統、そして新たに挑戦していく革新という要素を攪拌させてDNAの中で発酵させ続けたことが老舗の老舗たる所以となる源泉ではないだろうか。

<会社概要>  
名  称  株式会社庄分酢
創  業  宝永8(1711)年
代  表  高橋 一精(14代目)
住  所  福岡県大川市榎津548
      TEL0944-88-1535
事業内容  食酢・調味酢・飲用酢など製造・販売、ドレッシング・ソース・漬けもの
      など販売
URL    http://www.shoubun.jp/

老舗の知恵  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.122(2021年8月号)


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