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八女茶づくりを200年余、9代にわたって支えてきた茶商

老舗の知恵

老舗の知恵 ■株式会古賀製茶本舗 8代目・古賀祐介 会長

玉露など高級茶の生産地としてのブランドを作り上げた八女茶。八女茶が現在の地位を築くまでには生産者や茶商とよばれる問屋など関係者が、長年、一緒になって品質の向上に努めてきた成果である。茶商として202年の歴史を有する株式会社古賀製茶本舗は、八女で宇治式製茶を始めた功労者を先祖に持つ。

8代目・古賀 祐介 会長

宇治式製茶を八女ではじめる

技術の進歩は新しい商品や価値を生み出す。長い伝統を持つお茶の世界でも、釜炒り製法に加えて蒸し製法が開発されると煎茶など日本独自の茶が生まれた。

八女茶は、今から約600年前の室町時代、1406年(応永13)に明から帰国した帰国した臨済宗の禅師栄林周瑞(えいりんしゅうずい)が、23年(応永30)に現在の八女市黒木町に霊巌寺を建立、お茶の栽培を伝えたことからその歴史が始まった。その後、茶の生産に適した環境ということもあって、生産が盛んになり八女を代表する産業に成長した。 当時の八女では、釜炒り製法によって茶がつくられていたが、1831年(天保2)、八女茶に大きな転機が訪れた。八女郡川崎村の庄屋を務めていた大津簡七と上妻郡山内村 (現在の八女市山内)で茶の生産を行っていた古賀平助が、京都で発達した宇治式製茶と呼ばれる蒸し製法を八女で始めたのだ。宇治式製茶は、茶の製造において革新をもたらした。蒸し製法の誕生によって、炒り茶に加えて煎茶、玉露、抹茶など多くの茶が生まれたからだ。

茶の種類には、茶葉を摘んだ後から進む発酵の度合いによって3種類に分けられる。茶葉の発酵は酵素の働きによって起きるもので、発酵をどの段階で止めるかによって茶の種類が決まる。全発酵茶が紅茶、半発酵茶を烏龍茶、発酵させない不発酵茶は緑茶と分類される。

茶商として202年の歴史を有す

不発酵茶は、茶葉を収穫した後、釜で炒る「釜炒り製法」や蒸す「宇治式製法」のほかにも天日で干すなどの製法があるが、宇治式製茶は蒸す製法で、釜炒り製法に比べると葉に十分な熱を加えることができることから酵素の働きを止める作用が強い。この蒸す製法によって煎茶が生まれ、玉露や抹茶などが開発された。そして、時代とともに宇治式製法は、緑茶製法の主流となっていく。
京都を中心に発達した新しい茶の製造方法を八女に持ち込んだ古賀平助を先祖に持つのが古賀製茶本舗である。創業の地である八女市山内で八女茶の製造・販売を手掛け、202年の歴史を有する茶商である。茶商とは、生産者から荒茶を仕入れ商品に仕上げる製茶問屋だ。1819年(文政2)に、古賀平六が初めて焙烙(ほうろく)製の茶づくりを始めたのが起源とされる。平六がつくった茶は、大阪で販売し高い評価を得た。そして、平助が宇治式製茶を持ち込み、八女茶に変革をもたらしたのだ。

昭和に入ると、6代目平吾が「古賀丸平園」の屋号で商いを広げ、7代目正善がその製茶業を引き継いだ。81年(昭和56)には現地に小売りのための店舗を開設、87年(昭和62)には法人化し、社名も「古賀製茶本舗」に改めた。94年(平成6)には、それまでの功績が認められ、7代目・正善が福岡県の茶匠としては初めて黄綬褒章を受章した。

茶は温度や湿度管理が品質に影響する。同社でも最新の設備を導入しながら、品質の向上に努めてきた。98年(平成10)には工場と冷凍・冷蔵庫を、2013年(平成25)にはティーバック用クリーンルームを新設、17年(平成29)にはHACCP認証も取得している。

新商品の開発にも力を入れており、抹茶入りスイーツの開発など、新しいことにも挑戦している。また、国内の大手小売りチェーンなどの販売先や海外向けルートなど、販路開拓とネット販売にも取り組み茶の需要拡大を図っている。

50年ほど前の本店

「利は元にあり」

老舗の多くは、代々、核となる教えや技術を守り続け、さらに自らが革新を繰り返すことで歴史を積み上げてきた。古賀家で受け継いでいるものとは何か。8代目当主で現在会長を務める古賀祐介氏は、「『利は元にあり』という言葉を先代からよく聞かされていました」と振り返る。仕入れが最も大事だという教えだ。利幅を幾ら確保するかではなく、「仕入れる品質を見極める目や感覚を養うこと」そして「仕入れる先となる生産者を大事にし、信頼関係を高めること」だと祐介氏は語る。

八女茶ブランドは、生産者や茶商など関係者が一緒になって築き上げてきたものである。

茶商は、生産者と消費者の間に立つ。商品に対する消費者の評価と変化する時代のニーズを捉え、生産者にフィードバックする。そうやって、より美味しい茶を作り出すまとめ役としての機能を果たしている。消費者に支持される茶ができれば仕入れ先である元がよくなる。その結果、茶商も潤うことになるのだ。
八女茶は高級茶の産地としての地位を確立したが、高級茶の産地の条件はまず、寒暖の差があって水がきれいなことだとされる。八女は、標高が高く朝露が降りるなど「玉露」といった高級茶づくりの条件を備えている。また、平たんな土地での栽培も盛んなことから、玉露以外にも品質の良いいろんな味わいの茶が採れるのも魅力である。

こうした恵まれた環境ではあるが、八女茶ブランドがここまで大きくなった原動力は、お茶づくりに携わる人々の地域を挙げた努力にあった。玉露は、何十回も品評会で日本一を取っているが、「それを可能にしたのは加工者だけでなく、農家の方が研究しながら技術を磨き続けてきたからでもあります」と八代目は語る。茶づくりに関わる人たちが「美味しいお茶をつくろう」という思いを共有して、伝統の技術を守り、磨き上げながら八女茶は日本一と言われるようになったのだ。

この八女茶ブランドを守っていくために、茶商が果たす役割は大きい。次の世代を担う人材を育てることもこれからの課題といえるだろう。祐介氏は、「茶商は茶の良し悪しを見分ける感性が求められます。これは経験を積むことでしか身に付けることができません。感覚を研ぎ澄ますために、いろんなことを経験し、目に見えない変化を敏感に察知できるようなアンテナを張っていられる人になって欲しい」と次代を担う後継者たちに思いを託す。

八女市山内の本店

<会社概要>
名  称  株式会社古賀製茶本舗
創  業  文政2(1819)年
代  表  会長 古賀 祐介(8代目)
社長 古賀 善信(9代目)
住  所  福岡県八女市山内486
      TEL0943-24-1511
事業内容  八女茶製造・卸売・小売業
URL    https://www.koganoyamecha.co.jp/


老舗の知恵  Navi(ビス・ナビ)Vol.119(2021年5月号)

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