
エッセー 神社訪ねある記 ■箱嶌 成風
大王の 諱哀しき 春時雨

3月15日、冷たい春の雨に濡れながら香椎宮の駐車場に集合した。福岡地方史研究会主宰石瀧豊美先生を中心に20名ほどの会員さんに交じって私と宇野さんは香椎宮探訪の企画に参加させてもらった。ぬかるむ春泥の水溜まりを避けながら参道を進みご本殿の前に繁る巨大なご神木、綾杉を仰ぎ見た。びっしり実を付けて茶色くなっている。

左手の階段を登ってご本殿でお祓いを受けることになった。布を張った床机に座し頭を垂れ「かしこみ、かしこみ」、神職様の祝詞(のりと)を聞き急な太鼓の連打で身が引き締まった。祓い串にさっさっと頭上の邪気を祓い、奥の院から持ち出された鈴の木のガラガラ音で低頭した頭上によい気を呼び込んで頂いた。祝詞はいつも「かけまくもかしこき・・・」から始まる。声に出して言うのも畏れ多い神の御名という意味らしい。「立て座れ祝詞かしこめ頭(ず)を下げよ」と何度か言われ、石瀧先生が代表で神前に榊を手向けられた。全員で柏手(かしわで)を打った。



香椎宮はその昔、ヤマト王権の仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)と神功皇后(じんぐうこうごう)が九州の熊襲征伐に南下されたときに大本営として使われ、ご夫婦の仮の宮でもあった。天皇は筑紫の土蜘蛛、土着民のゲリラのボス、羽白熊鷲(はじろぐまわし)と闘って敗れている。そのさなか神功皇后が神がかりして朝鮮半島の国々を撃って銀(しろがね)、鉄(くろがね)のレアメタルを手に入れよ、その方が儲かる。とトランプ大統領が言うような海外事情に詳しい住吉海神族の御宣託があったのかも知れない。天皇はこれを疑われて神の怒りに触れ急死された。代わって皇后が身重(応神天皇を宿されていた)ながらも男装して三韓制圧に向かわれた。仲哀天皇の亡骸の入った棺を樫の木に吊しておられたところ、皇后が凱旋されたとき棺がよい香りを放っていたので香椎の宮と名づけられたとお聞きした。記紀によると仲哀天皇は52歳で身罷(みまか)られた。この頃では老年である。
「九州を制する方が急務だ。それも半ばで外征とは朕もくたびれたぞ。少し休ませてくれ」と宣(のたま)ったのではなかろうか、過労死と思われるが、熊鷲の毒矢に当ったとか暗殺に遭われたとかミステリーじみている。旧暦2月のこんな寒い日ではなかったろうか。
神社が創建されたのは神亀元年(724)。ご本殿は入母屋平入りの香椎造という華やかな唐様の神社である。それも天正14年(1586)の薩摩の島津勢による立花城攻めのとき全焼した。ご本殿前の神功皇后お手植えのご神木、綾杉もその時灰燼に帰した。しかし、焦土から発芽し隆々と生い茂っている。幹をくねらせ龍に化したのである。権禰宜(ごんのねぎ)の鍬原智武氏が「ここは龍穴(りゅうけつ)、パワースポットです」と説明された。風水エネルギー、龍脈(りゅうみゃく)が地上に吹き出る場所である。龍穴で念ずると願望達成力が増幅される。

「これから仲哀天皇を葬った古宮に参り、不老水まで行きましょう」
そぼ降る冷たい春の雨の中、水干姿の鍬原氏は寒そうであるが、大きな声で快活にユーモアを交えながらお話しいただいた。本殿までは何度も来たがその奥は初めてである。青苔(あおごけ)の香りのする原生林の中を通る古道、真っ赤な落ち椿が顔を向けていくつも転がっていた。木の柵の中に「仲哀天皇大本営御旧蹟」と刻まれた石柱があった。皇軍の作戦本部跡である。その先に古宮跡がある。仲哀天皇が祀られていた。天皇の亡骸を納めた棺を吊った椎の木があり香椎宮の由来をなした場所でもある。
300才まで生きたと言われる武内宿禰の屋敷跡の脇道を150メートルほど歩くと不老水の社にたどり着く。岩の窪みに貯まっている澄んだ石清水の不老水を柄杓で掬って飲んだ。近年湧水量が減って「一人コップ一杯」の制限付きである。とろりとした長寿の味だった。
香椎宮には天照大御神は祀られていない。仲哀天皇と神功皇后ご夫妻が主神である。ご夫君の死後、神功皇后も愛する夫のそばにいたいと願われ香椎宮に祀られ、愛をつなぐ神社とも言われる。何とも知れぬ人の温かさを感ずるのもそのせいだろうか。神社の休憩所で暖めた甘酒を吹きくぼめながら飲んだ。身も心もほっかりしてきた。


■香椎宮
住 所 福岡市東区香椎4-16-1
創 建 神亀元年(724)
御祭神 仲哀天皇ちゅうあいてんのう
神功皇后じんぐうこうごう
応神天皇おうじんてんのう
住吉大神すみよしおおかみ
URL https://kashiigu.com/
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.167(2025年5月号)
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著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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