エッセー 神社訪ねある記 ■箱嶌 成風

楠若葉 おなかの洞(ほら)に ご灯明
梅雨の晴れ間の真っ青な空の下、佐賀県の武雄神社を訪問することになった。
「これから参る武雄神社には弥生期の楠の巨木がありましてね。ご神木になっています」
「嘉瀬川河畔の與止日女(よどひめ)神社にも大楠がありましたね。佐賀は楠の都ですな」
三ツ瀬トンネルを脱けて新緑の中をしばらく走ると、
「あそこで昼飯にしませんか」と 宇野さんの一言で「三ツ瀬蕎麦(そば)」の暖簾が掛かったお店に車を止めて入った。そば屋では人気の老舗で行列が出来るそうだが、時間が早かったせいで待たずに席に付けた。この辺りは三瀬鶏(みつせどり)と蕎麦が名物らしくお店の看板がずっと並んでいる。その中でも「蕎麦ならここですよ」と宇野さんの一押しのお店だった。姿のいい海老天が2本ついて盛り蕎麦が出された。温かい天ぷらに冷たく腰のある蕎麦がなんともうまかった。蕎麦湯の香りとワサビの味がしばらく口の中に漂った。
佐賀大和ICから長崎高道を走った。高い高速道路から左手に有明海が見える。臥牛の背のように丸く盛り上がった山が見えてきた。
「あれは御船(みふね)山です。中腹に武雄神社があります。あの一帯は武雄の温泉街です」
武雄北方ICで降り、長崎方面に武雄バイパスを走った。旧街道沿いの小高い岡の上に武雄神社はあった。夏鶯の絶唱に誘われ石階段の坂道を登っていくと2本の檜の巨木が根元でつながり枝で抱き合っていた。夫婦檜(めおとひのき)と書いてあった。しかも、小鈴をたくさんつけた太い紐でがっちり結ばれている。縁結びの神木だそうだが夫婦も古びてくるとこれでは動きがとれんなと心中げんなり感を覚えながらも「がんばって下さい」と幹をさすった。

「まず御神木の大楠様にご挨拶しましょう。神社の左手の下り道の先にあります」
真っ青な孟宗竹の林の中を下っていく細い道がある。竹林をゆすって青い風が吹きぬけてゆくと社(やしろ)の森全体が大きく揺らいで見えた。夏木立の果てに巨大な楠の木が若葉を茂らせ足を踏ん張って立っていた。六畳ほどの洞穴を抱えた大楠様である。根元に綱が巻かれて横綱「大の里」ならぬ横綱「大の楠」関だ。樹齢3000年の堂々たる御神木であった。


孟宗林の中を戻って、戦国期の城壁のような石積みの構えに護られたご本殿に上った。社伝によると平安後期に武雄の領主後藤氏が城塞としていたとある。城の雰囲気が残っているのもそのためであろう。神社としては天平年間(735年)に大伴氏の伴行頼(ばんゆきより)が仲哀天皇、神功皇后そして老臣武内宿祢を祀って武雄神社を創建としたとある。お賽銭を投じ、鈴を振って2礼2拍手、深々頭をたれ、商売繁盛を願った。本来は感謝の心が第一だと志賀海神社の阿曇宮司にどやされたことがある。俗物根性はなかなか抜けないものだ。

広い待合室のバンコにかけていると作務衣姿の宮司様が見えた。70代の半ばだそうだが歯切れの良い語り口で社歴をお話しになった。宮司様はどこでも一種の品格を持っておられる。本宮の武雄哲司(たけおてつし)宮司は33代目で千年近く継承されており、どこか、歌舞伎の先々代13代片岡仁左衛門に似た落ち着いた雰囲気をお持ちであった。
「武雄神社のお宝はここに掲げてある古文書類です」
コピーではあったが、重要文化財指定の218通の古文書は圧巻である。平安中期から鎌倉の源頼朝、元寇時の鎮西奉行少弐経資(しようにつねすけ)の命令書、足利尊氏その子の直冬(ただふゆ)の書状など神社の歴史を語るすごいものだと思う。誇らしげに語られた武雄宮司のお顔が印象的だった。
「今度は歴史好きの仲間とぜひまたお訪ねしたいと思います」
ニコニコされている武雄宮司にそう言って失礼した。外気温は33度であった。

武雄神社
住 所 佐賀県武雄市武雄町武雄5335
創 建 天平七年(735年)
御祭神 武内宿禰【たけうちのすくね】
長寿延命・開運招福・厄除守護・家運隆昌・金運・良縁成就
武雄心命【たけおこころのみこと】
土地守護・地域繁栄・心身安泰
仲哀天皇【ちゅうあいてんのう】
勇気授与・安産守護・夫婦和合
神功皇后【じんぐうこうごう】
勝運・子授け・国家安泰・縁結び
応神天皇【おうじんてんのう】
文武両道・学業成就・子孫繁栄・家庭円満
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.170(2025年8月号)
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著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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