神社訪ねある記 ■箱嶌 八郎
楠若葉 鳥居の果てに 川光る

『田中の田中による田中のための本』を企画された㈱理創の田中社長と著者の宇野さんと大川市の風浪宮に車で向かっていた。鳥栖で長崎道に入り東背振インターで降りた。県道385号線を南下、筑後川を渡って大川市に入る。一面熟れかかった褐色の麦畑の中を走ると楠の大樹に埋もれるように風浪宮はあった。若葉が雲が湧くように茂り、風に揺れてなんともいえぬ新緑の濃い香りが境内に満ちみちていた。水の匂いがする。池をめぐらせ大川公園があった。花宗川に面していた。公園の白い石塔の時計が11時半をさしている。北原白秋の「この道はいつか来た道」の歌詞「ほおら白い時計台だよ」を連想した。緑陰に古賀政男の名曲「影を慕いて」の音譜が記してあった。情緒豊かな2人の国民的詩人を生んだのも筑後川の河口である。水と樹々の葉風の中で才能が育まれたに違いない。
「いらっしゃい」風にバタつく〈創建1820年記念祭〉の立て旗を背に、水干姿ではなく紺のスーツを着こなした阿曇(あずみ)宮司が下駄を突っかけて立っておられた。田中社長がご昵懇のようで気軽くお迎えいただいた。早速、本殿脇の社務所に招かれ、地元では親しみを込めて「おふろうさん」と呼ばれる風浪宮の社歴をスライドでご説明いただいた。「私で67代目になります」と言う阿曇史久宮司のジョークを交えたお話は、当時学生に人気のあったゼミの名物教授から古代史の講義を受けているようで楽しかった。
「西暦201年のご創建ですね。邪馬台国の卑弥呼が248年に死んでいますから、ほぼ同時代の古代史のロマンに満ちたお宮さんですな」
「神功皇后が新羅を制して水軍の総指令官、阿曇磯良丸(あずみいそらまる)と凱旋の帰途、有明海で1羽の白鷺がこの地に誘導し、境内のあの楠にとまったそうです。白鷺は海神、少童命(わだつのみこと)様の化身でしょうね、勅命でここに風浪宮が創建され、以来、約1820年間あの楠は根元が大人五、六人で抱える巨木に成長、まだ、ひこばえが胴から吹き出していますよ。我らがご先祖、阿曇磯良丸様はその根元にお眠りになっていると伝えられています」
実際、磯良丸を埋葬したと言う巨岩の墓所までご案内いただいた。径、4メートルはある傘型の平たい墓石が蓋のように置かれていた。支石墓(ドルメン)と呼ばれ弥生前期の墓で日本一の規模だそうである。奴国や吉野ヶ里と供に朝鮮半島との関係を示すらしい。
「100年ほど前に墓石を持ち上げ、開いたら甕棺が出てきて、人骨が入っていたそうです」
「磯良丸様のご遺骨ですか」ゴツゴツした墓石をさすりながら、わくわくして質問した。
「近々に、中央の学術研究機関から発掘調査しませんかと問い合わせが来ています。検証結果はそれからですね。副葬品など出てくるといいですがね」そう答えられた。
この春訪ねた志賀海神社の阿曇様とこちらの阿曇様は遠い昔、中国の長江の河口から渡来されたご一族と言うことである。川を水行(すいこう)し行き来していたそうだ。尋ねてみたら、「筑後川を遡ると宝満川に繫がっています。宝満川は太宰府に上り、そこから御笠川を使って流れ下れば博多湾に出ることが出来ます。川と川の間は舟を担いで岡を越した」
明快なご説明であった。舟曳(ふなびき)さんとか舟越(ふなこし)さんという名字のお方や地名もある。魏志倭人伝の伊都国より邪馬台国は水行10日と言う放射距離説も川を利用したと思えば説明がつく。阿曇宮司のお言葉でピンときた。宮司には講演のご予定があるそうで失礼することになった。国の重要文化財であるご本殿と白鷺の大楠様に一礼してお宮さんを出た。
帰って地図をネットで広げてみたら九州は木の葉の葉脈のように川で縦横に繫がっている。古代人は山の尾根筋と川を伝って行き来していたに違わない、修験道の天狗さんのように。
実は、風浪宮は柳川市にあるとばかり思っていた。柳川なら〈ウナ丼〉と胃袋の予定があったのだが、大川市だったのでウナギに逃げられ、腹づもりが外れたのは残念でした。


■風浪宮
創建 不明(1800余年前の創建)
御祭神 少童命三座(表津少童命、中津少童命、底津少童命)
住所 福岡県大川市大字酒見726-1
URL https://www.ofurousan.or.jp/
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.156(2024年6月号)

著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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