神社訪ねある記 ■箱嶌 成風
大いなる 雲の影ある 青田かな


早朝からぐんぐん気温が上がった。今日の最高気温は37度に達すると予報があった。宇野さんの車で国道3号線を南下し、朝倉街道から折れて386号線に入った。秋月街道を走っている。一面薄緑色の植田の中に立つ送電鉄塔に秋月へ秋月へと誘い込まれて行くようであった。左手にこんもりした森が見えてきた。
「着きましたよ。ここです」
足もとの植田の水に白雲が浮かんでいた。蒸し暑さの中に青甘い稲の香を胸いっぱい吸いこむと稲作の弥生の民の遺伝子が反応して快かった。
石造りの一の鳥居の脇に大己貴神社(おおなむちじんじゃ)の立て看板が見えた。「神社は令和8年に1825年の式年を迎えます」と書いてあった。西暦210年の建立と言うことになる。日本最古の神社の中に入るのではないかと半ば驚きながら写真におさめた。一礼して大己貴神社に入った。入り口にヒノキの大木が数本立っているがあとは広葉樹の自然林である。蝉時雨が降りかかってくる。午前中の蝉は命の声を精一杯張り上げている。うるさく感じないのも活力エネルギーを貰っているからだろうか。鳥居を潜ればすぐ短い石橋がかかっている。この橋を渡れば神聖な結界に入ることになる。右手に手水舎があり流水に白百合が活けられ甘い香りを放っていた。稲藁と茅(かや)を編んで作った丸い輪がご本殿の門前にかかげてあった。茅(ち)の輪と言うらしい。この神社の親神様スサノオの命が人類に与えた幸福の輪である。左足から入り8の字を書くように潜るのが作法と書いてあった。6月30日に茅の輪を潜り、厄払いと幸いをいただく夏越(なごし)のお祭りが行われている。神前で2礼2拍手、商売繁盛とこれ以上株価が下がりませんようにと真剣にお願いした。


社務所に上がって普段着の髙(こうの)宮司にお会いした。知性とエネルギーに満ちた中年期の宮司様だった。
「こちら様は2000年近い歴史がおありなんですね」
「ええ、西暦200年、仲哀(ちゅうあい)天皇九年の建立され、私で72代になります」
「素人の質問ですが、大己貴様は大国主の命様で、私たちが大黒様と親しんで呼んでいる出雲の神様と思っていますが、なぜ九州の朝倉にいらっしゃるのでしょうか」
「仲哀天皇が九州の熊襲征伐(くまそせいばつ)にヤマトから親征され、まつろわぬ(服従しない)当地の豪族、羽白熊鷲(はじろぐまわし)を攻めたが逆襲され香椎の宮に退却されそこで52歳で崩御されています。そのお妃である神功皇后が反撃して熊鷲を退治され、今度は新羅に向かわれるため兵と食料を集められようとされた。と伝えられています。しかし、思うように集まらず出雲から大黒様と庶民に親しまれている大己貴様(大国主命)の神霊をお迎えして神社をここに建立されたら、兵も食料も集まったと伝わっています。歴史は勝者の記録ですから、征服された側の言い分もまたあるわけです。歴史の真実も探ってみないと神話だけでは最近の若い方々を納得させるわけにはいきません。日本の古代史も研究しています」


私は驚いた。今まで歴史的事実も探求しようとされた宮司様には初めてだったからである。伝承と歴史の真実を探求されていると明言される髙宮司様に敬意をいだいた。その時、「ニャー」と真っ黒な猫が尻尾を立てて近寄ってきた。今年初めにどこからかやってきた野良猫、ノラのクロさんだそうである。風水で言う大地の気の良いところには猫、犬、へびなどの動物が寄り集まってくる。この神社も風水龍穴(ふうすいりゅうけつ:パワースポット)に違いない。
大己貴様、大国主命様は大黒様として庶民の味方である。収穫、商売繁盛、子孫繁栄、病気平癒の守り神でもある。毎年、2月11日に大黒様の里帰り祭が行われているそうだ。氏子の方々が家に伝わる大黒様のご尊像を持ち寄りお祓いを受け、持ち帰り、また1年間、家のお守りをしていただく。なにかほっかりするお祀り行事である。心が折れそうなとききっとハグしてくれるだろう大己貴神社(おおなむちじんじゃ)に深々頭を垂れ、蝉時雨の社の森を出た。


■大己貴神社
創 建 西暦200年頃
住 所 福岡県朝倉郡筑前町弥永697-3
御祭神 大己貴命(おおなむちのみこと)
天照皇大神(あまてらすおおみかみ)
春日大明神(かすがだいみょうじん)
https://www.oonamuchi-jinja.or.jp
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.159(2024年9月号)

著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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