絵本に学ぶ仕事術 ■有限会社ウーヴル 代表取締役 三宅 未穂子
花を愛する皇帝が、世継ぎを探すために国中のすべての子どもたちに出したおふれ。それは、花の種を配り、育てて1年後に見せにくるというものだ。
主人公の少年ピンも花の種を植えた。しかし、何日たっても芽を出さない。それでも毎日水やりを怠らず、植え替えたりして、一生懸命丁寧に育てる。やがて秋になり冬になり、とうとう春になった。他の子どもたちは色とりどりの花を携えている。ピンは花をつけていない。
配られた全ての種は最初から咲かないように一度焼かれたもの。
皇帝はピンを選ぶ。その正直さと勇気こそが、国を治める者としてふさわしいからだ。
マネジメントの父ドラッカー博士は、「後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである」と、著書『マネジメント』の中で書かれている。
1年間、芽の出ない種に一貫した姿勢で向き合った少年ピンには、正直さ誠実さ勇気といった真摯さが身についていた。
ドラッカー博士の著書の多くを日本に翻訳して紹介した上田惇生さんの著書『ドラッカー入門 万人のための帝王学を求めて』には次のような言葉がある。
「昔は国王、領主の治世いかんによって、国民、領民の幸せが左右された。そこで王子教育のために帝王学なるものが生まれた。会社でもつい近頃まで、社長の経営状態で会社の運命、社員の幸せが左右された。リーダーの才覚で成功するか失敗するかが分かれた。そのため、二代目が帝王学を学ぶために他社へ修行に出された。ドラッカーは、これからはそうではないという。組織のメンバー全員が自らを律する帝王学を身に付けなければならない。
全員がトップのように働かなければ、組織の成功、社会の繁栄はないという」
誰もが皇帝のように考えることができたら…。真摯さは、TOPだけに求められる資質のことではない。全ての人に求められる資質だ。
絵本絵からは、美しい色使いと描写で平和な国の未来を。フレーム仕立ての構成は、物語に哲学を含ませた古典のような世界観を想起させる。そう読む間が絵本にたっぷりと備わっている。
その間を通して、人としてどうあるべきか、「わたしは」から「われわれは」を考える帝王学について、組織で考察することができるだろう。
『皇帝にもらった花のたね』
作・絵:デミ
訳 :武本 佳奈絵
出版社:徳間書店
発 行:2009年
「絵本に学ぶ仕事術®」 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.147(2023年9月号)
プロフィール
三宅 未穂子(みやけ みほこ)
有限会社ウーヴル 代表取締役
2005年2月25日創立、翌06年3月15日同社設立。企業向け研修やキラキラ社員のプログラム(社員によるいい仕事のための自社内研修プログラム)業務改善アドバイスを手掛けている。
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