絵本に学ぶ仕事術 ■有限会社ウーヴル 代表取締役 三宅 美穂子
日本を代表する昔話ももたろうはビジネスのメタファとしても多く用いられている。
例えば、陽転思考を提唱する和田裕美さんは、毎日川で洗濯をする続ける力や、迷わず桃を拾う「決断力行動力」など、成功法則の八つのポイントと伝えているし、人とホスピタリティ研究所の高野登氏は、キビ団子は、バラバラの個性をまとめるビジョンとミッション(理念)の役割があると、その重要性について語る。
今月ご紹介する「ふたりのももたろう」は、誰もが知っている古典のページの裏面に2つ目の物語が隠れている。それは、川上から流れてきた桃は2つという設定で始まる。
おばあさんが気づかなかった桃はやがて海に出て、鬼ヶ島の隣の小さな名もなき島にたどり着く。ここで、心優しい鬼たちの愛情を受けて育つ。大きくなったある日、鏡を見て桃太郎は自分には他の鬼のようにツノがないことに気づく。悲しむ桃太郎に鬼たちは「ちがっていてもいいじゃないか」と慰める。力の強い鬼たちが平和に楽しく暮らすための哲学を、桃太郎は「みんなとちがうところが自分らしさ」と理解し、「みんなが好きな色になれる島」虹ヶ島と名付け、周知活動を始めた。やがて多くの個性が集まる。ある日、鬼征伐に成功したあの桃太郎が、3人のお供と一緒に「悪い鬼はいないかー」とやってくる。
虹ヶ島には悪い鬼はいない。それどころか、自分とそっくりな男の子がいる。ふたりのももたろうは驚いたに違いない。絵本は「さて、どうやったら仲良くなれるのでしょう?」と締めくくられる。
私はこの絵本を、ドラッカー博士の「予期せぬ変化を利用するイノベーション」と重ねて読んだ。「予期せぬもの」「ギャップ」「ニーズ」「産業構造の変化」「人口構造の変化」「認識の変化」「発明発見―知識の結合」。これらが物語に含まれていると思えたからだ。特に見えてくるのが、奥付の2人の紹介にある「口癖」。鬼退治の桃太郎は「必殺!」であり、鬼に育てられた桃太郎は「確かに!」。たったこの違いだけでも、ふたりの桃太郎が持つ知識や個性を結合することでどんなイノベーションが起こるだろう!と、新しい世界にワクワクする。
間違いなくイノベーションの七つの機会に出会える1冊だ。
『ふたりのももたろう』
作 : 木戸 優起
絵 : キタハラケンタ
出版社: ドリームインキュベータ
「絵本に学ぶ仕事術®」 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.137(2022年11月号)
プロフィール
三宅 美穂子(みやけ みほこ)
有限会社ウーヴル 代表取締役
2005年2月25日創立、翌06年3月15日同社設立。企業向け研修やキラキラ社員のプログラム(社員によるいい仕事のための自社内研修プログラム)業務改善アドバイスを手掛けている。

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