Books ■株式会社梓書院 取締役 前田 司
『戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー』
「国家というのは基本的に地理によって制約される。地理的制約が国家の性格の基本の部分をつくり、さらには対外国の姿勢の基本部分をつくり、そしてそれらはきわめて厄介なことに、その時代々々の国家がもつ意思以前のことに属する」
本書でも引用されている、司馬遼太郎の『坂の上の雲』の一節だ。アフガニスタンはなぜ戦火にさらされ続けているのか。イギリスはなぜ、当時新興国だった日本と日英同盟を結んだのか。ロシアがウクライナに固執するのはなぜか。沖縄米軍基地の県外移設が実現しないのはなぜか――。そんな疑問に本書は「地政学」という視点から答えてくれる。
終戦から75年以上が経過し、軍事研究や安全保障の議論がタブー視されているような日本人にとっては、国際的な軍事戦略と言われてもピンと来ないかもしれない。しかし、誰もが戦争を望んでいないとはいえ、平和を願い、祈ることと同様に、戦争が起きないためにどうしなければならないかという、国家戦略も極めて重要である。そしてその国家戦略とは、「地政学」に基づき考えるべきであるということを本書は教えてくれる。
もちろん、地政学は戦争のためだけではなく、経済振興においても重要な視点だ。冒頭の引用文の通り、国家は地理的制約から逃れることはできない。グローバル社会と言われて久しい今日。日本はいかに舵を切っていくべきかを考えさせられる1冊。
Books Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.125(2021年11月号)
プロフィール
前田 司(まえだ つかさ)
株式会社梓書院 取締役
福岡市出身、福岡大学人文学部卒。2009年福岡の出版社・株式会社梓書院入社、取締役部長を務める。漫画原作家。踊る編集者としてラテンダンス(カシーノ)の普及にも勤しむ。
コメント