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「共育」の風土づくりで、自分で考え仕事を進める人材を育成てる

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Trend&News 日本ビルケア株式会社

山田秀樹社長

大型施設やビル外壁の健康診断から改修、外壁クリーニングなど建物の資産価値を守る日本ビルケア株式会社(福岡市博多区、山田秀樹社長)は今期、過去最高益を更新する見込みだ。コロナが収束したことで需要が増える時期ではあるが、技術力と対応力が高く評価されているからでもある。同社の成長を支えるのは、人材を育てる「自分で考え仕事を進める」力を養うシステムとお互いに教え合う「共育」、それを育てる風土づくりが実を結んだといえるだろう。

過去最高の受注

「今期は引き合い受注共に過去最高となりそうです」と語るのは、日本ビルケア株式会社社長の山田秀樹さん。建物の外壁の老朽化に伴う美観や機能面の問題を診断し、改修を手がけるビルのドクター的な存在として福岡市を中心に北九州や久留米など福岡県の都市部で事業を展開している。創業以来、福岡の大型施設やビルを数多く手掛けている。
同社は8月から新しい期に入る。取材した2024年11月初旬の段階で既に、今期の受注目標を達成しているという。福岡市は天神ビッグバンはじめ、博多駅周辺でも開発が進むなど全体として工事案件が多いという印象を受けていたが、新しい期がはじまってわずか3カ月で年間目標をクリアしているのだから、大変なものだ。

とはいえ、コロナ禍での業績は大きく落ち込んだという。2020年の春から国や地方自治体の指導で新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に外出や移動、人が集まるイベントの開催などが制限された。そのため、企業は在宅勤務やオンライン会議を導入した働き方を取り入れなんとか事業を継続した。それでも、多くの企業が活動を自粛せざるを得なかった。廃業するケースも散見された。
その頃の状況について山田さんは、「コロナ禍の当初は、心配するほどの影響はなかったので、わりと楽観的に構えていたのですが、半年ほど経って人流制限が厳しくなると私たちの業界にもかなり影響が出るようになりました。外壁改修は建物の外なのでビルは関係ないと思っていたら、とんでもなかった。外壁の改修工事を請けたビルの中に入らないで欲しいといわれ、工事ができなくなったこともあります」と環境の急激な変わりように戸惑う場面もあった。計画の見直しや中止、立ち消えになった案件も多々あった。目に見えないウイルスとの戦いという未曽有の事態に企業単位での営業努力といった問題ではなく、自分たちではコントロールの及ばないところからの影響に苦慮した。

次第に仕事量、引き合い共に減少する。2021年に入るとさらに影響が大きくなり、2022年から翌2023年の春まではかなり深刻化、2022年は大幅な減収減益となった。翌2023年の五月に「2類相当」から「5類」に移行し、徐々に受注が増え、コロナ前の水準まで回復した。そして、今期は、それまでの落ち込みをカバーするように一気に受注を獲得したというわけである。

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売上が半減、さらに3割減

コロナで相当な打撃を受けたはずだが、山田さんは「リーマンショック後の状況に比べると、コロナ禍では政府が用意したセーフティーネットを利用して持ちこたえることができた。しかし、リーマンショックによって受けた影響はそんなレベルではなかった」という。
リーマンショックとは、2008(平成20)年、アメリカで当時四位の巨大投資銀行リーマン・ブラザーズが六四兆円もの負債を抱え経営破綻したことに端を発して起きた世界的な金融危機である。

リーマンショックは、日本経済にも深刻なダメージを与えた。山田さんも「いきなり仕事が激減し、一時は倒産の文字も頭をよぎった」というほどである。緊急対策として企業に融資するセーフティーネットのようなものはあったが、要件は厳しく額も小さかった。そのため、当時は多くの中小企業が自己資金で持ちこたえるしかなかった。リーマンショックの影響は三年程も続いた。

その間、2009年10月には日経平均が一時6000円台にまで落ち込んだ。大手企業をはじめ実に多くの企業が破綻する事態となった。日本ビルケアは金融機関や生損保会社が所有するビルの改修工事を多く受けていたので、リーマンショックの影響で好調だった業績はいきなり右肩下がりとなった。その年は売上が半減、翌年はさらに3割減と落ち込んだ。倒産の文字が山田さんの頭をよぎったのも無理はない。それでも、同社はこの逆境を乗り越えたのである。コロナ禍で業績が落ち込んでも何とかなると動じない強さは、この苦境を耐え抜いた経験によって培われたものであろう。

建設業界は景気の変動だけでなく、地震や洪水など天災にも影響を受ける。リーマンショックからやっと業績が回復しはじめた2011年、今度は東日本大震災が起き、未曾有の被害をもたらした。当然、公共工事等の予算が優先的に被災地復興に向けられる。そうなると、それ以外の地域の工事はどうしても後回しにならざるを得ず売上への影響は避けられない。

東日本大震災から3年経ち業績は回復に転じた。こういう時期は、引き合いや受注が重なるので業績は急によくなるが、自社で受けられる仕事量をオーバーすることになる。しかも大規模な工事になると完成まで1年以上かかることもあるため、次の依頼を受けられないこともある。「一気に受注を受けた後は、下がる傾向があります。良い時と落ち込む時が交互にくる。平準化できないのが受注産業、特に建築系の受注産業が抱える共通した悩み」でもあるのだ。

人材を確保することが受注増につながる

福岡は天神や博多駅周辺の開発などで建設、不動産業界は活発化している。そのため、建設業界はパイが膨らんでいるようだが、一方で、仕事の依頼が増えてもそれを受けることができないという悩みを抱えている経営者は多い。日本ビルケアにとっても人手不足への対応は喫緊の課題である。日本の人口が減り続けるわけだから、大半の業種で人材が不足している。建設業界で人手不足に陥った要因は、リーマンショックや頻発する自然災害だけではないようだ。
2009年、自民党から民主党に政権が移った。当時の民主党は「コンクリートから人へ」を掲げ、公共工事の削減を推し進めた。コンクリートはダムや道路などの公共工事、人は社会保障などを指す言葉である。この政策によって公共工事が減少、ビルの新築、改修の工事件数が落ち込んだ。そのため、建築、土木に関わる人達は仕事がなくなり、仕方なく他の業界へと移った人も多い。この時の人材の流出によって失われた人材は、景気が回復しても元に戻ることはなく、今でも慢性的な人手不足が続いている。

同社は、施工管理を請け負い、現場を管理する立場になる。そのため、現場管理ができる管理者を置かなければならない。下請けで入る場合は、規模にもよるが1人の管理者で複数の現場を管理することができる。一方、元請けになると大型物件の管理には1物件につき、2人の管理者を置く場合も少なくない。いずれにしても、受注を増やすには、それに見合った管理者を自社で抱える必要があるわけだが、人手不足で依頼に応えられないケースがある。

自分で考え、仕事を進める人材を育成

人材獲得が難しくなっているだけでなく、入社後の定着率の低下も企業にとって悩みの種である。企業は、人材の定着率を上げる方法を模索しているが、「この組織で努力すれば自分が成長できる」と実感できる環境をつくることは有効な取組みの1つだと思われる。自分の知識や技術、ノウハウがレベルアップすれば、それだけ社会や会社に貢献できる。自分の評価が上がれば仕事にやり甲斐を感じ組織への愛着も強くなる。そうなれば、定着率は高まるものと、山田さんは創業以来、社員の成長を後押しする機会の創造に心を砕いてきた。様々な勉強会を外部だけに頼ることなく自力で開催してきた。山田さんは、「学ぶだけでなく自ら考え仕事を進める、自律できる力を持つ社員を育てる」ことを目指した。

例えば、昨年から始めた新卒者を対象とした毎月の勉強会「未来塾」はかなり考える力を養っているようだ。「未来塾」はまず、20分間試験を実施、それから前回の研究テーマを与えられた3~4人がテーマについて発表し、最後に質疑応答で意見を交わす。試験は○×や選択式ではなく、大半が記述式で試験の点数も公表する。内容は、絞ったテーマを設ける。例えば、安全管理について、「現場に着いたら有機臭がする。匂いのする方に行くと職人さんが倒れている。その時あなたはどういう手順でどのような対策を取りますか?」や「現場でタイルの補修施工を行った。1週間後に検査をしてみると、補修したピンが飛び出しているのが見られた。考えられる要因は何か?」といった問題が出題される。

現場で発生する問題に対する対応や答えは必ずしも1つとは限らない。こうした問題は、経験が浅い社員には難しい。だから、試験でその問題に正解できなかった社員の中から山田さんが3~5人ほどを指名する。指名された社員は、翌月の勉強会で調べたことを発表しなければならないため、指名された社員は発表までの間、書物で調べたり先輩に聞いたり、自分で経験しながら答えに近づこうと努力する。自分で考え、学ぼうと行動を起こすからで自分の身になる。それが、山田さんが目指す「自律」型の教育である。

お互いの成長を支える「共育」

新卒者に教えるのは上長だけではない。先輩も教える役割を担う。必然的に先輩社員も勉強しレベルアップしておかなければ後輩の役に立てない。自分が学んだことは、後輩や部下に教える。そうした共に教え成長を後押しする「共育」の風土こそが、山田さんが目指す「自律」を支えるものである。「各自が自発的に学ぶ習慣をつけるようになり、質問する内容にも変化が見られます。想像もしないような質問をしてきて驚くこともありますよ。この勉強会は始めてまだ1年ですが、みな目を見張るほど成長しています。自分で仕事を進め成果を出す喜びを味わえるようになって欲しい」と目を細める。

「自律、共育」の環境を整えるためには、土台となる職場の雰囲気や風土をどのように作っていくかも重要である。山田さんは、「基本になるのは、報告、連絡、相談といったコミュニケーションです。最終的には人と人との信頼関係だから、相手が何を考えているのか、どこに価値観を置いているのかを話し合うなかで知り、共有することが大事」だと強調する。コミュニケーションを図る場として各種勉強会や会議も有効に活用している。2018年にスタートした「みらい検討会」では様々なテーマを設け自由な意見を出し合い、共有している。取り上げるテーマは、「社会から信頼される会社とは」、「学生から望まれ選ばれる会社とは」「会社が求める人材像」といった会社の在り方から「働く意義」、「勤怠管理」など幅広い。

毎回、参加者をランダムにグループ分けしテーマについて話し合う。最後にグループ毎に集約した意見を発表するという流れである。あこれで、同じグループのメンバーの考え方は理解、共有できるが、他の参加者に同じ効果は期待できない。そこで、1週間後に全グループの発表内容を社内に掲示する。それぞれの意見に対して経営者側が受け止め、これまでの意見と共に、却下、検討、完了に分けて評価する。それも皆で共有できるよう掲示する。「すべてに目を通して評価します。すぐに取り組めるものもあるが、内容によっては難しいもの、時間がかかるものもあり、残念ながらすべての要望に応えることはできていません」と社員の意見に真摯に向き合う。

人を育て組織を作り上げることは、一朝一夕できできるものではない。良い会社の定義は幾つもあるだろうが、人が成長し、それぞれがお互いに活発なコミュニケーションを図れる組織づくりができる会社は間違いなく良い会社と言えるはずである。組織は人が構成して出来上がる。もちろん、方向性を示すのはトップの役割ではあるが、1人ひとりの思いや行動が組織風土を作り上げる。今年の教育が101年後に花開くかもしれない。それくらい長いスパンで人を育てていく。それを続けていくことが企業文化を醸成し、企業価値を高めることにもなるのである。

これまで多くの大型施設やビルの外壁改修やクリーニングを手がけてきた。

「超高層の日本ビルケア」ブランドへの挑戦

現在、ゼネコンから仕事を受注するいわゆる下請けとしての売上は、全体の7割。残りの3割が元請けとしてビルオーナーから直接仕事を受注している。山田さんは今後、元請けの件数を伸ばし50対50にまで持っていきたいと考えている。下請けで仕事を受ければ、ある程度の売上が見込めるが金額と工期があらかじめ決まっていて工期を調整できる立場にない。そのため仕事が重なると、管理者不足などで仕事そのものを受けられず機会を逃すことになる。

元請けとして受注する場合は、計画段階から工事の運営に関わることができるため、工期の調整が可能な場合が多い。元請けの受注件数を伸ばすには、営業力が求められるが、これまでの研修や共育への取り組みによって営業レベルも上がり、「以前のように私が直接営業する機会はほとんどなくなりました。お客様からひっきりなしにかかっていた仕事の電話も3年程前からほとんどありません。少し寂しさを感じますが」と口元が緩む。山田さんが目指す「自分で考え、自分で仕事を進める」組織へ着実に近づいているようだ。

競合が多いなか、差別化を図るために技術力の向上や営業力の強化を図って来たが、山田さんは、さらなる飛躍を目指している。それは、「超高層ビルのメンテナンスは日本ビルケア」と言われるブランドイメージを付けることだ。
建物は、高さ60メートル以上を高層、100メートル以上を超高層と呼ぶ。福岡には100メートルを超す超高層ビルは10棟ほどある。平成に入ってから増えているが、今後、さらに増えることが予想される。外壁改修やクリーニング、漏水防止など建物のメンテナンスを行う場合、足場を組むことになるが高層や超高層となると足場が組めない。しかも、強風の危険もある。一般的な高さの建物のメンテナンス以上に高い技術力が要求されることから、対応できるところは限られる。山田さんは、このレベルに挑もうとしている。

技術は猛烈なスピードで進歩し、建物はさらに上に伸びるだろう。「超高層」ビルの外壁メンテナンスができるのはその変化に柔軟に対応できる会社。山田さんが育ててきた「自律と共育」できる組織にとって、「超高層」への挑戦は夢ではなくなっているのかもしれない。

会社概要

名  称 日本ビルケア株式会社
住  所 福岡市博多区神屋町4-5 KS神屋町ビル6階
設  立 2001(平成13)年8月
資 本 金 2,000万円
事業内容 建造物の外壁改修工事、維持保全業務、外壁の老朽化・安全性調査、耐震診断、
     長期修繕計画策定、金属・石材の美観修復・メンテナンス
URL    https://n-builcare.jp/

Trend&News  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.162(2024年12月号)

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