Trend&News ■すずなり代表 座親ゆかりさん
自然は我々の生活に無くてはならない存在であると同時に、心と身体にいい影響を与えてくれる。近年、森に入りリラックス効果や健康回復などに有効だとされる森林浴が幅広い世代で関心を集めている。企業コンサルや人材育成などを手掛けるすずなり代表の座親ゆかりさんは、森林浴ファシリテーターとして様々な形の森林浴を企画・実施している。組織内コミュニケーションの向上や連帯感の醸成にも有効で、自身の企業コンサルや人材育成との相乗効果も生まれている森林浴は今後、多様な広がりを見せそうだ。

森が荒れている
地球温暖化が叫ばれて久しい。近年の異常気象やそれに伴う干ばつ、農作物の不作、森林の砂漠化などは、間違いなく人類の将来に陰を落としている。私たちは今、そうした厳しい現実に立たされている。
球環境を守る重要な指標の1つは、酸素と水を供給してくれる森の面積と健康状態である。森は二酸化炭素を吸収し酸素を創り出す。オゾン層を保護し温暖化の抑制にも寄与する。菌類や植物を育み虫や動物が生息できる生態系を創り出す土台でもある。雨水を蓄え、浄化しミネラル分を含んだ水を創り出す。海に流れ込む川には森の栄養分が豊富に含まれている。豊かな海を育むのも森であるから、我々、特に日本人の生活にとって森はなくてはならない存在である。
それほど大事な森が今、荒れている。海外から安い木材や建設資材が大量に輸入されたことで、国産の木材が売れなくなった。木で作っていたものが、コンクリートやプラスチックなどの人工物で作られるようになったのも木材市場の縮小を招いた。市場の縮小に伴い、森を管理し守る人材も他の産業に流出している。森に関わる人たちは、一様に森の危機を感じているはずだ。マスコミなどで森が抱える問題を取り上げる機会もあるにはあるが、一般に問題意識が広がっているかといえば必ずしもそうとはいえないようだ。

「人の手が入らずに荒れてしまう森が増えています」と警鐘を鳴らすのは、すずなり代表の座親ゆかりさん(福岡市中央区)。座親さんは、企業を対象に顧客維持や人材育成といったコンサルティング、コーチングなどを手がけながら、森林浴の企画・運営を担う森林浴ファシリテーター(Shinrin-yoku Facilitator®️)としても活動している。森林浴ファシリテーターとは、一般社団法人森と未来が認定する資格で、森林浴を通じて人々に森と触れ合う機会を創出し、森・地域・人が共に健やかに生きる関係を育むことを目指す専門家。環境や地域経済視点から、持続可能なつながりを築くために働きかける役割を担っている。
「森との関わり方や関わる頻度が増えれば、森に対して関心も持つようになり、森の重要性と抱えている問題について自分のこととして捉えてくれる人が増えます。そうなれば、荒れた森が整備され、あるいは再生することもできるようになる」と森と関わる機会の創出が重要であると訴える。
国も森の保護と活用の両立を支援
国も国内の森を守ること、さらに活用方法の開発を支援する動きを始めた。農林水産省の外局として森林の管理等も行う林野庁が「森林サービス産業」という言葉を使って森との多様なかかわり方や活用を後押ししているのだ。森林サービス産業について林野庁のサイトでは、「健康・観光・教育等の様々な分野で森林空間を活用した体験サービス等を提供することで、幅広い人々の健康で心豊かな生活や企業で働く人の活力向上等に貢献し、山村地域に新たな雇用と所得機会を生み出すことを目的としたもの」と謳っている。そのために、「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」に基づき、税収を増やし市町村において間伐等の「森林の整備に関する施策」と人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林の整備の促進に関する施策に予算を充てることとなった。


五感が正常に戻ると自分を認めはじめる
森林浴とはどのようなものなのか。森林浴は、ひと言で表せば森に滞在し散策などを通して爽快感や癒し効果を得るということのようだが、実際に森を知る座親さんは「森に入り寝そべったり、木に触れたりすることで五感が開き心身ともにリラックスした状態になります。寝転んで下から空を見上げると解放感も味わえます。森林浴は2時間~2時間半程度ですが、視覚や聴覚、嗅覚といった機能が正常な状態に戻ることが期待できるのも森林浴の魅力です。森に入る時には感じなかった空気や草木の香、風の音、鳥のさえずりを感じられるようにもなります。心拍数、血圧を落ち着かせる効果があるとも言われています」と自身の体験も交えて森林浴の魅力と効果を語る。
実際に座親さんが主催した森林浴に参加した人に感想を聞くと、リラックスやリフレッシュ効果に加えて「森に入る前にはわからなかった鳥の声がよく聞こえるようになった」「遠くが見えるようになった」「森林浴当日の夜は普段より熟睡できた」という声が多い。森林浴の効果は森を出た後もしばらく続き、その期間は約1ヶ月とも言われている。さらに、「五感が正常に戻ると自分を認め始めるようになり、次は他人も認め許容できるようになるという気づきもありました」という。


座親さんはクライアントのスタッフを対象に森林浴を企画することもあるが、参加したスタッフにも、そうしたいい効果が表れるという。1回6人程度のグループを組んで森林浴を実施することが多いが、コミュニケーションを図ることに苦手意識を持ち会社ではあまり話をしないスタッフが、他のメンバーの意外な一面を発見をするなどして積極的に会話をしたり、お互いサポートしあったりしてチームワークが生まれるという。その関係は日常の仕事に戻っても続き、会社の中で自然に会話ができるようになる。会社ではなかなか自分を出せないスタッフが、心を開く光景を何度も目の当たりにした座親さんは、自然が人を癒す力の大きさを感じたという。
コミュニケーションの頻度と質が落ちれば、企業の生産性や内部統制力の低下につながる。慢性的な人手不足に苦しむ企業は、限られた人員で生産性を高めたいと考え様々な工夫をするが、森林浴をスタッフのリフレッシュに加え関係強化などに生かすことも、これからの組織づくりに有効な手法だといえるだろう
実は、座親さんが森林浴ファシリテーターの資格を取得した経緯もこうしたコミュニケーションに関わる問題解決の糸口を探すためであった。
結局は「ひと」に行きつく
座親さんは、サプリメントを製造販売する会社で顧客との関係構築とサポートを受け持つ部署の責任者として、部署の運営とスタッフの教育を手がけた。その後、前職で培った経験を生かし2017年(平成28)にすずなりを立ち上げコンサルタントして活動を始める。さまざまな企業の販促や顧客フォロー、商品開発、組織づくりなど企業によって依頼される内容は違っても、結局は人の成長が会社の業績に結び付くことを企業側も認識するようになり、研修から採用面接、キャリアアップのための査定やフォローなど人に関わる依頼の割合が大きくなった。
クライアントの従業員と面談やアドバイスの頻度を増やすのだが、アドバイスだけの一方的な支援に限界を感じるようになり、4年前にはコーチングの資格を取得した。コーチングの技術を生かすことで、それまで聞くことができなかった相手のニーズや本音を引き出すことができるようになり、一定の効果も上がった。しかし、コーチングによって会話が深くなると、また新しい壁にぶつかった。伸びやなんでいる人、心が弱っている人が会社内で心を開くことが難しいという問題だ。

その頃、座親さんは糸島で木彫りを始める。街中のカルチャーセンターといった商業施設ではなく、月に1、2度の割合で彫刻家のアトリエに通い木彫りの作品を作るのである。通っているうちに、アトリエ内や彫る木の香りで自分自身がすごくリラックスし癒されていることに気づいた。そのことを彫刻家に話すと、「不登校の子供が親に連れられて木を彫っていると元気になる子もいる」と語ってくれた。座親さんはその話を聞き、「悩んでいる人の心を開き元気にする効果が自然の中にある」ことを理解した。
森林浴ファシリテーターのライセンス取得
そこから、森林セラピーや香の効果を勉強するようになり、2023年(令和5)12月に森林浴ファシリテーターのライセンスを取得した。森林浴ファシリテーターには、森についての全体的な知識から森が抱えている問題、天候や安全管理、救急救命など幅広い知識が求められる。そして、実際に森林浴を主催する際は、森に慣れていない人でも安心して森林浴を楽しむことができるよう、企画・運営するのが森林浴ファシリテーターの役割である。ただ、「あくまでも参加者一人ひとりが自然を楽しむことが出来るよう環境を整備し、寄り添う。森と森の所有者(地域)、参加者、それに我々森林浴ファシリテーターの四者にとって良い状態を維持できるよう」心掛けている。そういう意味では、ガイドとは立ち位置が違うといえるだろう。
座親さんが森林浴を企画する森は、太宰府市、大野城市、宇美町にまたがる四王寺山からはじめ、現在は鳥栖、糸島、鴻巣山を加えた四個所に増えた。対象となる森は、歩道が整備され猿や危険な野生動物の出没が少ない環境、手洗い場が設置されているなど、必要な条件を満たす必要があり一気にコースを増やすことは難しい。そのため、徐々に範囲を広げていきたいと考えている。

森林浴の魅力を伝えていきたい
森林浴に参加する人たちの満足度を高めることは当然重要だが、根底にあるのは森の未来を見据えての活動である。ひと言で森林浴ファシリテーターといっても、資格を取得した経緯や将来の目標などによって、森との関わり方は異なる。座親さんのようにコンサルやコーチングとの相乗効果を目指す人もいれば、所有している山を活用するためにイベントを企画する人もいる。ペンションなど宿泊施設を運営しながら宿泊客に山を楽しんでもらいたいと考える人もいる。もちろん、林業従事者もいる。森との関わり方は、今後ますます多様化するだろう。
森と未来は、森林浴ファシリテーターを養成しており、毎年20名程度の資格者が誕生している。九州でも資格者が増えており、座親さんは地域をまとめるエリアコーディネーターとしての役割も担っている。
これからの活動については、「森を守る価値のある活動で、関わる人も喜びを感じることができる。森林浴と森林浴ファシリテーターの魅力を多くの人に伝えていきたいですね」と抱負を語る。
多様な働き方が可能になった今日、選択肢も増え自分の道を切り拓くことができる環境が整ってきた。個人の健康と職場での働きやすい職場環境づくりと併せて森林の保護が求められるなか、社会と自然の役に立つ森林浴ファシリテーターの役割は今後さらに大きくなるだろう。

役割である。
組織概要
名 称 すずなり
住 所 福岡市中央区薬院2-5-20-802
代 表 座親ゆかり
設 立 2017年(平成28)
事業内容 企業コンサルティング、人材育成、森林浴の企画・運営
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.169(2025年7月号)
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