Trend&News ■西部頭髪株式会社

情報化社会は、ビジネスの在り方を大きく変えた。小さな企業や個人であっても、メーカーとして商品をつくり市場を開拓することができる時代となった。福岡市早良区の頭髪化粧関連商品メーカー、西部頭髪株式会社は代表の山田健治さんが自ら商品の企画から販売までを手がけヒットを連発している。働き方が問われるこれからの時代、山田さんの仕事のスタイルは、ひとつのモデルケースといえるかもしれない。
古臭いから受けるかもしれない
西部頭髪は、頭髪化粧関連商品をはじめ、調理用スパイスやサウナ用トリートメントなどのオリジナル商品を開発しヒットさせているが、それらの商品は山田さんが考え、生み出したものである。
代表の山田さんが、会社を設立したのは2018年7月。それまで勤めていた美容商材を扱う会社をやめ、1人で会社を興した。以前から、「いずれは自分の商品を作りたい」という思いを持ち続けていたこともあり、会社を設立すると、さっそく自社ブランドとなる整髪料のポマードを商品化した。ポマードは、髪をまとめるスタイリング剤として大正や昭和の時代に広く使われていたものである。近年は、ジェルやワックスなどが整髪料の市場で認知度が高まり、それに比べてポマードは古い整髪料というイメージが広がった。
通常であれば、新商品を開発するのだから、今の時代に沿うジェルやワックスを商品化するところだが、あえて、時代の流れに逆行するかのようにポマードで勝負した。そのことに対して山田さんは、「世の中にない面白いものを作りたかったので、ポマードは古臭くて逆に受けるかもしれないと考え商品化しました」と開発の経緯を振り返る。確かに、同社のサイトでも「40代の中年のおじさんが、西から日本の頂点を目指し立ち上げたメーカーであり、みんなが手に取った瞬間楽しく笑えたりする商品を作る会社でありたい」と謳っている。ポマードはまさに、山田さんの創業の理念に沿ったものであった。
言葉の響きは懐かしく昭和を連想させるが、ダンス&ボーカルグループのエグザイルなどの活躍で男っぽさを打ち出したクラシックなバーバースタイルが流行り、また、メディア等でも取り上げられた。ポマードは若者から中高年まで幅広い層から支持を集めることになる。他社の真似をしたくないといいながら、時代の流れを読む目はしっかりしたものをもっている。ポマードのヒットで、ディップなど商品ラインナップの充実も図り、現在も同社の看板商品として売れ続けている。


アウトドア向けスパイスがヒット
ポマードはヒットしたが、2020年から広がった新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、外出や移動が制限されるようになった。そのため、ポマードの需要も落ち込んだという。この落ち込みを補うため、山田さんは新しい商品の開発を模索した。そこで、新しいブランドとしてアウトドア関連商品を扱う「ヨーデル(YODELL)」を立ち上げ、水の要らないシャンプーとバーム(固形美容オイル)を商品化した。本業のヘアケア関連分野ではあるが、対象はアウトドアを楽しむ人に絞った。そして、ヨーデルブランドで次に投入したのが、ヘアケア分野とは関係がないスパイス「ヨーデルサワークリームスパイス」だった。

通常なら、過去の成功法則を生かしてヘアケアと関連があるものを商品化し、売上をカバーしようとするだろう。脈略のなさそうな商品開発に思えるが、山田さんの中では、スパイスの開発は筋が通っていた。「誰もつくっていない商品を作る」という創業の理念だ。「頭髪化粧品メーカーがスパイスを作ったら面白いのではないか」と考えたのが開発のきっかけだという。
業務用スパイスはコロナ禍で売れない。一般家庭向けは食品スーパーの棚にひしめき合っている。その激戦区の中で後発組が、しかも、資本力の乏しい企業が開発した商品が勝ち残るには障壁が高すぎる。そう考えた山田さんは、競合が少ない隙間に目を向けた。それが、キャンプ関連での需要だった。当時、家族だけでなく一人で楽しむソロキャンプが流行りはじめていた。そこで、キャンプで使ってもらうためのスパイスを作ったのだ。しかも、既存のスパイスには無かったサワークリーム味で勝負した。
すると、雑誌や全国的に影響力のある情報番組などにも取り上げられた。ポマードを売り出したときと同じだ。他社が手を付けない切り口で開発した商品やネーミング、デザインでメディアの関心を引いた。キャンプ用品を扱うアウトドアショップからも引き合いがくるなど、一気に認知度が上がり、またもやヒットした。売れた理由は、山田さんが隙間(ニッチ)、つまり空白地帯を見つけ出し、絞ったネーミングとデザインで訴求したためであろう。誰もやっていないものを作るという理念から、常に隙間を探し続ける山田さんならではの発想だったといえるだろう。
こう書くと、いかにも思い付きで、イメージが先行の商品開発を行っていると思われるかもしれないが、品質についても高い評価を受けている。昨年11月3日に開催された、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が主催する「第一四回調味料選手権」のスパイス部門で「ヨーデルサワークリームスパイス」が最優秀賞を獲得したことがその証といえる。
最初のサワークリームスパイスがヒットしたことで、明太スパイスやレモンスパイス、紫蘇ニンニクスパイスなども商品化しバリエーションを増やした。これらの商品は、主力のスパイスを売るための刺激剤的な位置づけで、主力スパイスが飽きられないようにするための工夫でもある。こうして認知度が高まったスパイスは、アウトドアショップの他に、スパイスに力を入れる食品スーパーや百貨店でも販売されるようになった。また、最近では、焼肉チェーン「焼肉きんぐ」でも取り扱われるなど広がりを見せている。
隙間を見つける能力の高さ

このほど、スパイスの次の商品としてサウナ好きの人向けにトリートメントも開発、販売をはじめた。商品名は、「ヨーデルサウナトリートメント」。サウナの熱から髪を守り栄養を与え、サウナの熱で乾燥した頭皮や髪を保湿する成分を配合するなど、サウナをより楽しんでもらえる商品として開発した。サウナに入る前や旅行先での需要に応えられるものとして、既存のトリートメントとの差別化を図っている。
近年、サウナブームで幅広い層でサウナを利用する人はかなりの勢いで増えている。メディアで取り上げられる機会も多い。フィンランドなど北欧はじめ海外では、サウナは日常の中にあり健康のためだけでなくコミュニケーションの場としても位置付けられている。ビジネスでもコミュニケーションを図るために利用されるという。日本でも今、健康志向の高まりもあってサウナ人口が増えているのに伴い、サウナ関連の市場は拡大するものと期待されているため、今後、トリートメントの反響や売上の推移を見ながら、サウナ向けのポマードの開発も視野に入れているという。
山田さんは、事業の柱であるヘアケア分野に固執することなく、アウトドア関連分野を開拓した。異なる分野の商品を開発し市場を開拓するためには、既存のルート以外に新しい販路と流通も開拓しなければならず、その分、時間や労力、資金も必要になる。しかし、異分野に挑む理由は、そうした新しい販路や流通の開拓を進めることで新たな人脈が広がり、それまで想像もしなかったアイディアやチャンスが生まれるといったプラスの効果も期待できる。山田さんは、それが将来の財産になることを理解し実践しているのだろう。何より、自身がそれを楽しんでいるようにもみえる。
昨年開催したフェスもその延長線上にあるといえる。山田さんは、昨年9月2日から2日間、糸島市内の海を臨む「おはなキャンプ場」で、アウトドアフェス「OUTDOOR WAVE ITOSHIMA」を開催した。場内には、ガレージブランドやアウトドアショップ、キッチンカーなど二八店が出店。1000人以上が参加して、キャンプをしながらsup(スタンドアップパドルボード)体験、モルック大会、フェザーステック大会、綱引き、お絵描き、夜は読み聞かせLIVEや肝試し、花火などを楽しんだ。イベントを主催した理由について「特定のスポンサーから依頼されて企画するのではなく、お客さんが喜んでくれて、自分たちも楽しいと思えるイベントを企画したかった」と楽しそうに当時を振り返る。次回の開催については、「キャンプしながら夏まつりの要素を取り入れたイベントやマルシェなど、地域や環境に合わせたイベントも企画していきたい」と構想を練り始めている。


1人でも勝負できる時代
ポマードやスパイスなどのヒット商品を送り出してきたが、売れる商品を作るのは容易ではない。思うように売れない商品の方が多いのかもしれない。山田さんは、商品の企画から販売まで、そのほとんどを一人でこなす。「普通の美容トリートメントだけを売ればもっと楽なのかもしれませんが、多少きつくても新しいことをやるのが好きなんでしょうね。思いついたら、とりあえず形にして市場に出してみる」ことを繰り返してきた。
このモデルを可能にしているのが、SNSの存在だといえる。SNSやクラウドファンディングなどが普及したことで、メーカーが消費者と直接つながる手段を得た。アイディアや試作品の情報を発信して、それに対する消費者の反応を見て改良や販売の意思決定ができるようにもなったのだ。問屋もそうした消費者の反応を見ながら、取り扱う商品を決めることでリスクを回避するような動きも出てきているという。テレビや雑誌、新聞などのメディアに取り上げられるきっかけにもなる。山田さんも「以前と違って、今は、お客さんを動かさないと問屋は動かない。SNSの普及は、新しい流れをつくり出した」と感じている。
つまり、アイディアと発信能力があれば、資本の小さな企業や個人であってもオリジナル商品を開発し、市場を開拓することができると証明してくれているのだ。山田さんは、他社と違うものを作りだす過程で、デザイナーや製造を引き受けてくれる工場、メディアなど必要な協力者を引き寄せてきた。また、異分野への参入もふくめて、新しいことへの挑戦を繰り返しながら知見を積み上げてきた。その先には、独自の成功法則が見えてくるはずである。
今、働き方が大きく変化しようとしている。企業に勤めながら副業が認められ、週末起業家なる人たちも現れてきた。裏を返せば、業種によっては、以前のように企業が社員の生活に責任を持つ時代から、自分の生活は自分で守る時代が到来したように思えてならない。政府が推し進めてきた働き方改革は、働く人たちを守る制度なのだろうが、働く人たちの自律を促す制度のようにも映る。
そうした時代を生きていくためには、各人が、自分の価値を外に対して示すことができる実力を養うことが問われる時代になるということではなかろうか。自分で考えた物を作り、市場を開拓する山田さんの考え方は、これからの1つのモデルケースであるようにも思える。
会社概要
名 称 西部頭髪株式会社
住所 福岡市早良区東入部8-2-16
設立 2018年7月
代表 山田 健治
事業内容 ヘアケア関連商品の製造、販売。食品製造販売など。
URL https://www.seibutohatsu.com/
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.155(2024年5月号)
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