Books ■株式会社梓書院 取締役 前田 司
『うしろめたさの人類学』
松村圭一郎 著 / ミシマ社 1,700円+税
人類学という学問がある。文化人類学や社会人類学など、さまざまな種類があるが、人文系の学部出身ではない方にとっては、あまり馴染みのない学問かもしれない。本書は、「構築人類学」という視点から、世の中をよりよいものにするための考察が語られている。
人類学はフィールドワークを基本とする。本書のフィールドワーク先はエチオピアだ。フィールドワークを前提とする理由は、異なる文化、社会での人々の営みを比較し、その違いを探すことで、「なぜ異なるのか」「異なることで、どのような差が生まれるのか」を考えることから出発するからである。
本書は「構築人類学入門」というタイトルの連載を書籍化したものだが、単行本化する際に、なかなかタイトルが決まらなかったという。悩みに悩んでとうとう生まれたのが「うしろめたさの人類学」というタイトルであった。この「うしろめたさ」は世界をフェアなものにするための大切な鍵として再三語られている。高度化された社会ほど、感情を切り離して生活することができるし、他人や社会に対して無関心を決め込むことができる。しかし、ひとたび「うしろめたさ」感じると、心と身体は公平さを求めて動き出すこととなる。社会をよりよいものに「再構築」するための鍵は、我々一人ひとりが持っていることを、本書は教えてくれる。
Books Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.132(2022年6月号)
プロフィール
前田 司(まえだ つかさ)
株式会社梓書院 取締役
福岡市出身、福岡大学人文学部卒。2009年福岡の出版社・株式会社梓書院入社、取締役部長を務める。漫画原作家。踊る編集者としてラテンダンス(カシーノ)の普及にも勤しむ。
コメント