Trend&News ■株式会社綱屋 代表取締役会長 萩原正綱氏
福岡市博多区の株式会社綱屋(代表取締役会長 萩原正綱氏)が「焼肉ヌルボン」など焼肉チェーンをJR九州に譲渡したのが、2021年10月。動向に感心が集まるなか、今年7月、同区美野島2丁目の本社跡地に7階建ての無人化した滞在型ホテルを開業。ホテル需要の高まりもあり順調に売上を伸ばす。今回は、異業種への進出を果たした経緯から経営者に求められる直感などについて萩原会長に話を聞いた。

「生活するように泊まる」 滞在型ホテル
―今年(令和7)7月に「慶 HOTEL LIKE RESIDENCE」(以下、慶)をオープンされました。まずは、ホテルの概要から聞かせてください。
萩原
90坪の敷地に7階建ての建物を建てました。客室は1階に1室、2階から7階までがワンフロアに3室、合計19室です。1階はVIPルームで、2階から7階は、各フロアに8人、6人、4人が泊まれる部屋になっており、主に家族や少人数のグループで数日間宿泊される方を対象にしています。1階のVIPルームは、パーティー会場として利用されるケースもあります。
キャッチフレーズは、「ただいまといいたくなるようなホテル」。ここで生活するように泊まっていただきたいという思いで各室内の充実を図りました。「住むように」がコンセプトですから、部屋の大きさによって多少異なりますが、ベッドや家具、アイランドキッチンはかなり上質なものを用意しました。冷蔵庫も簡易なものではなく大型のものを設置していますし、洗濯乾燥機も完備しています。
壁面で博多文化を発信


―建物の壁面に表現された博多織の模様も印象的ですね。
萩原
慶では、外観で博多文化を表現したいと強く願い、博多文化を象徴するデザインとして博多織の柄を選びました。
外壁に貼ったタイルは博多織の代表的な柄ですが、タイル自体は既成のものではなく、それぞれの模様のパーツ毎に釜で焼くところからこだわりました。タイルは岐阜県の窯元で焼いてもらいましたが、パーツの形や大きさ、色などが幾つもあり、全体で数万枚にのぼっていると思います。1つの柄は何枚ものパーツで構成しますから、焼くだけでもかなりの時間と労力をかけていますが、さらに、出来上がったタイルを1枚ずつ職人さんが壁面に貼って完成させるまでを考えると気が遠くなるほどの手間暇がかかっています。
―博多織の柄については、萩原会長のリクエストですか。
萩原
博多文化を表現して欲しいという私の要望に対して、デザイナーさんが提案してくれたものです。提案を受けた時は、模様になったタイルがあって、それを張り付けるのだと思っていましたから、まさか、ここまで細かい仕事をするとは想像もしていませんでした。
皆さんのお力添えで、お客様をお迎えするホテルの顔として、印象に残るものができたと非常に満足しています。
―オープンして3ヶ月が経ちましたが、宿泊状況はいかがですか。
萩原
おかげさまで、オープンから順調に予約が入っており、週末は満室状態が続いています。これから年末年始にかけても、かなり埋まってきています。滞在型を打ち出していることもあり、小人数のグループで2~3泊されるケースが多いようです。中には1週間滞在されるグループもあります。
無人運営のホテルシステムを採用
―福岡はインバウンド需要が高いですから、慶でもインバウンドの比率が高いのではありませんか。
萩原
インバウンド需要はオープン当初から高く、既に全体の六割程度を占めています。そのなかで、アジアからのお客様の割合が九割、残りが欧米からのお客様です。
―フロントが見当たりません。ホテルは無人で運営するシステムですか。
萩原
ホテルは無人で運営しています。予約の受付から決済はもちろん、予約された方が部屋に入り、チェックアウトするまで人を介す必要がありません。
ネットを使った集客から部屋や施設内の清掃などの管理もホテル運営の専門会社に委託していますので、通常、私どもが関与することなくホテル運営ができるシステムになっています。
―萩原会長は長年、食品販売、飲食店経営に携わってこられました。今回のホテル事業は、これまでの経験とは畑違いのもののように思いますが、何がホテルを手がけるきかっけになったのでしょうか。
萩原
2021年(令和3)10月、焼肉チェーンの「ヌルボン」はじめ飲食事業をJR九州に譲渡しました。年齢のこともあり、それを機に事業からは引退しようと考えていました。しかし、1週間も仕事をせずに自宅にいると、自分がダメになりそうな気がして、何か仕事をしないといけないという気持ちが起きました。それで、不動産を購入して貸しビル業を始めたわけです。
他にもできる事業はないかと考えている時に、長い付き合いの友人からホテルの話を聞きました。友人もホテルを所有していて、今回の私と同じやり方でホテルを経営しているというので興味を持ちました。
ホテルを建てた場所は以前、本社ビルとして使用していましたが、飲食事業などをJR九州に譲渡したことで事務所としての機能が必要なくなり、土地の有効活用を考えていた時期でした。ですから、友人からホテルの話を聞いた時に、その日にホテル事業をやろうと決断したのです。
詳しく仕組みを聞くと、ホテル経営は運営事業者に任せればノウハウがない私共でも出来るということも分かりました。それで、友人が委託している方を紹介していただき、ホテル事業の運営をその方にお願いすることにしたのです。2023年4月末の事です。7月には建築業者を選定し、それから2年でオープンしました。

いい出逢いの連鎖がいい建物を生み出した
―人材不足で工期が遅れるという話をよく耳にしていましたが、その影響はなかったのですか。
萩原
まったくありませんでした。建築をお願いした照栄建設さん(本社:福岡市南区)のおかげだと思います。今まで、幾つも店舗を作ってきましたが、その中で照栄建設さんが一番良かった。技術だけでなく、会社の姿勢も素晴らしいと感じました。
―具体的には。
萩原
現場は監督が全体を指揮、管理します。工程の進捗や関係者との調整も監督が取り仕切るのですが、今回の監督さんの姿勢が素晴らしかった。例えば、建築が始まってから発注者が修正や変更を依頼すると、「予算が上がる」「工期が遅れる」などの理由で反対されることがよくあります。現場の責任者としては、段取りが狂うことは簡単に受け入れられないでしょうから、要するに変更したくないということです。
ところが、照栄建設の監督さんは「出来ない」と言われない。嫌な顔ひとつせず、「大丈夫です。やりましょう」といって引き受けてくれる。つねにプラス思考ですから、一緒に仕事をしていて気持ちが良かった。
今回の建築で1つ感じたことがあります。「人生は出逢いの旅」といいますが、今回はいい出逢いの連鎖が起きました。ホテル経営の話をしてくれた友人は20年来の付合いです。その人の話を聞いて、管理会社の社長を紹介してもらって、その方が照栄建設さんをご存じで、結果として照栄建設さんにお願いしました。
照栄建設さんの仕事を受ける事業者の皆さんも実にいい。照栄建設さんの素晴らしい企業文化が他の仲間の企業さんに連鎖していることを実感しました。そういう人たちとの仕事ですから、建築期間中は気持ちよく過ごすことが出来ましたし、出来上がったホテルにも非常に満足しています。
さらに、照栄建設さんは、建物のアフターサービスを365日、24時間体制で対応されます。ホテルの運営では、いつどんな設備の不具合やトラブルが起きるか予測がつかないものもありますから、そういう面でも照栄建設さんで良かったと思います。




直感が一番重要
―今後の事業展開は、どのように考えていますか。
萩原
今後、どうするかについては、事業には魅力を感じていますから、今は思案中というかヒラメキが出てくることを待っている状態といっていいかもしれません。手掛けるのであれば飲食店の可能性が高いと思いますが、やる、やらないについては、今はまだ白紙の状態です。充電期間と言えるかもしれません。
―ヒラメキという言葉が出ましたので、最後に、経営者の勘についてうかがいます。企業経営には、瞬時に物事の良し悪しやリスク回避のための「直感力」が不可欠だと思いますが、萩原会長は直感力を磨いてこられた経営者のお1人だと感じています。この経営者の直感力について、どのような考えをお持ちですか。
萩原
私自身、経営者にとって直感は非常に大事なものだと位置づけています。飲食店を経営していた頃、様々な場面における経営判断を正しい方向に導いてくれたのは直感でした。例えば、私が出店を決める際、必ず出店候補地を訪れました。何もない更地の状態でも、そこに立って感じるものがありますから、それで出店するか否かの結論を出していました。それに要する時間は、ほんの2、3分程度です。マーケティングデータは参考にしますが、決断するために最も重視したのは、常に直感でしたね。
―何もない土地で、どのようなものを感じるのですか。
萩原
現場に立った時の空気感や沸き上がって来るイメージです。店の外観や内装、多くのお客様で賑わって幸せそうな絵を思い描くことができる場合があります。そうした絵が描ける場所なら出店を決意しますし、そうやって出店した店は繁盛しました。ですから、私の経験上、直感を信じた方が上手くいきました。
出店しないと判断した場合に、例えば土地のオーナーから家賃の引き下げなどのお話をいただくこともあります。すると、少し迷いが生じます。そういう迷いが出始めたら、止めることにしていました。迷い始めたのは私自身の欲が入ったために判断が狂いそうになったサインです。迷ったにもかかわらず、欲が勝って出店したことがありますが、上手くいきませんでした。やはり、経営判断において、一番頼りになるのは直感ですし、経営者は直感を磨くべきだと思います。
直感は磨くことができる
―萩原会長の「直感力」は、事業を始められた頃から持ち合わせていたのですか。
萩原 精度はわかりませんが、直感は強かった方だと思います。それが、会社を経営するなかで様々な経験を積み磨かれたのではないでしょうか。直感力は、自分なりのやり方で磨いてきましたし、今でもその訓練は続けています。
―どのような訓練ですか。
萩原
例えば、歩行中や車を運転している途中に気になるものがあれば、その店や建物がある場所に戻ります。そして、何が自分の気を引いたのか、その原因を探します。気になったものが新規オープンの店であれば、この店は1年後、5年後にどうなっていくのかという仮説も立てて、その店を通る度に確認します。80%位の確率で、私が立てた仮説は当たっていると思います。
仮説が当たらないこともあります。仮説以上に良かったり、悪かったりすることもある。その時は、仮説が間違った要因は何かということを考えます。時代環境の変化なのか、店主が怠慢したのか、見込み以上に才能があったのか。そういうことを自分なりに確認します。それも非常に勉強になります。私の中ではそうした仮説を数百件持っています。すべてを毎回細かく確認できるわけではありませんが、仮説を立て検証を繰り返すことで疑似体験ができます。自分の店だけの体験にとどまらず、他の店や建物の体験もできます。この経験を通して、勘を磨く訓練ができていたのだと思います。
―店や建物の中にも入りますか。
萩原
可能な限り中にも入りますし、レストランなら食事をします。「ちょっと見せて」といって資料をもらったり、話を聞いたりすることもあります。
―その際、どのようなポイントを重視するのですか。
萩原 まず、玄関を見ます。外から見て一番大事なのは清潔感があること。繁盛している店は、玄関にオーラがあります。豊かな空気感とも言えます。物語をにおわせるようなものがありますね。
直感は、単に思い付きというものではありません。理論立てて説明できるものです。それを口で説明したり、文字で表現するとかなりの時間や量が必要になりますが、勘を磨くための訓練を繰り返すことで見えてくるものがあります。その経験を積み上げることで、瞬間的に判断できるようになる。そうして直感力が高まれば、さまざまな判断が瞬時にできるようになるでしょうし、その判断はデータなどでは見えない真理に近いものに近づくのではないかと考えています。私は、自分の体験からそう信じています。
―示唆に富むお話でした。ありがとうございました。
会社概要
会社名 株式会社綱屋
住 所 福岡市博多区美野島2-5-2
創 業 1979年(昭和54)2月
設 立 1987年(昭和62)8月
代表者 萩原正綱
資本金 1,000万円
事業内容 不動産賃貸、ホテル経営 など
グループ 有限会社ロイヤルフーズ、TSUNAYA VIETNAM、株式会ミーム
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.172(2025年10月号)
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