Trend&News ■アネーラ税理士法人
福岡を核に東京、横浜、佐賀、北九州の税理士・公認会計士・社会保険労務士などとグループを作り税理士30人、会計士10人、社会保険労務士10人などの有資格者をはじめグループ190人もの専門化集団を形成するアネーラ税理士法人グループ(福岡市中央区)。その中核である福岡事務所がこのほど、「ザ・リッツカールトン福岡」も進出し話題を集めた「福岡大名ガーデンシティ」に移転した。大半の組織では、移転は経営状態や人員数などの状況に応じて行うものだと考えるが、代表の藤本周二さんは、「時代の先端を走るための脱皮のようなもの」だと位置づける。
5年に1回の移転
「天神ビッグバンプロジェクト」によって天神地区の再開発が進むなか、九州の商都・天神が確実に様変わりしている。高層ビルの建設が同時に進行している様子を見ても、天神地区の変化を実感する。そうした変化、発展を続ける天神地区の象徴的な存在が昨年六月にオープンした「福岡大名ガーデンシティ」であろう。旧大名小学校跡地の再開発として、官民が力を合わせて開発を推し進めてきたものだ。マリオット・インターナショナルグループで、世界的なホテルチェーン「ザ・リッツ・カールトン福岡」が進出したことでも大きな話題を呼んだ。
アネーラ税理士法人(藤本周二代表)の中核である福岡事務所が、天神一丁目のアクロス福岡から福岡大名ガーデンシティに移転し注目を集めたのは今年(2024年)6月のことである。
同法人は、代表の藤本周二さんが1998(平成10)年12月に藤本公認会計士事務所として開業したのが始まりである。2年後には、福岡市中央区大名に移転、五年後に同区天神の天神ツインビル、さらに五年後には天神のアクロス福岡へ移転する。藤本さんはその間、エスペランサ税理士法人を設立し業務を移行した。
アクロス福岡に移ってからは、3年後に事務所を拡張、さらにその3年後には同施設の別の階に移転する。その間も、「九州M&Aサポート」や「九州有限責任監査法人」を立ち上げるなど、クライアントの多様化する要望に応えてきた。そして、2019(令和1)年11月、税理士法人かさい会計(中央区天神、笠井良一代表社員)との経営統合を機にエスペランサ税理士法人から「アネーラ税理士法人」に改称した。現在は、福岡を核に東京、横浜、佐賀、北九州の税理士・公認会計士・社会保険労務士などとグループを形成しており、税理士30人、会計士10人、社会保険労務士10人などの有資格者をはじめグループ190人を有する専門家集団である。
組織の成長に伴い移転も必要になるだろうが、今回で移転は5回目となる。決して少ない回数ではない。福岡事務所では、約60人のスタッフが働いているので移転のための費用もかなりの負担となる。登記申請や印刷物の変更、関係者への通知など手間も増える。そのため、引越しは必要に迫られてから考えるという経営者も多いのではなかろうか。しかし、藤本さんの発想はまったく違った。「創業当時から5年に1回の移転、あるいは、拡張を事務所運営の前提とし貫いてきました。ですから、今回の事務所の移転はずっと前から決めていたことです」と意外な答えが返ってきた。
時代を先取りする会計事務所であるために
藤本さんは「会社を経営していると5年もすれば従業員も増え手狭になり、拡張や移転しなければならなくなります。逆に考えると、5年で手狭にならないのであれば、私のやり方に何か問題があると考えてきました」と独自の経営哲学を語る。 確かに、創業から今日まで、5年に1度、あるいは、それよりも早いペースで移転や拡張を繰り返している。事務所移転は組織員の増減によって行うものではなく、事務所の進化を加速するために古い殻を脱ぎ捨て、新しく生まれ変わるための機会だと捉えている。「私たちの仕事は、世の中の進歩についていくだけでなく、世の中の変化を先取りできなければいけません。そのために、事務所の引越しや拡張は不可欠なもの」と攻めの経営戦略として位置付けているようだ。
では、今回はどのような進化を追求したのか。それは、フリーアドレスの導入によって生まれる進化である。藤本さんが、東京はじめ進んでいると思われる事務所を訪れると、その多くがフリーアドレスを導入していた。それでフリーアドレスの導入を決めた。フリーアドレスは、スペースの有効活用が期待できる。これまでの事務所は、スタッフ一人につき一台のデスクを割り当てた。そのため、事務所外に出て席が空いていても、他の人が勝手に使う事はできない。フリーアドレスであれば、席が固定されていないので空いている席は誰でも使用できる。
75%で十分
移転を前に、フリーアドレスを導入する場合に必要な席数を計算した。デザイナーに朝、昼、晩の異なる時間帯に事務所に来てもらい、実際にいる人数を調査してもらった。これを数回にわたって行った結果、最も事務所に人がいる場合でも最大で75%しかいないという結果が出た。つまり、全スタッフ数の75%のデスクがあれば良いというわけだ。これだけで、空間の有効活用がかなり進んだことになる。
藤本さんは、他にもフリーアドレスの導入による効果を感じているという。「席を固定すると席が近い人のことは分かりますが、席が遠い部署については目が行き届かず気づかない点も多々ありました。フリーアドレスの導入によって、皆の状況が見えるようになりました。平等感も生まれているようです。私も固定の部屋や席がなく職員の隣で仕事をしていますから、私の私的な事務所ではなく、みんなの事務所であるという空気が強くなったように感じています」と効果の大きさを実感しているようだ。
ペーパーレス化も進んでいる。以前は、2人に1台の割合でプリンターを設置していたので、事務所内だけで20台以上のプリンターが稼働していた。内勤の職員は決算書等の書を印刷するなど使用頻度が高いため、内勤の部署には2台の複合機を設置しているが、そのほかの藤本さんはじめ他のスタッフは、事務所の隅に設置された2台の複合機から出力することにし、他のプリンターは処分した。この分のコスト削減効果も大きい。
視線が合わない配置で集中力をアップ
複合機が遠くなったことで、みな、複合機まで移動する無駄を考えるようになり印刷する機会がかなり減った。アナログ的な手法だが、一気にペーパーレス化が進んだことになる。
会議でも、以前は資料を印刷して配っていたが、資料の印刷も廃止した。会議室は四部屋設けたが、全室に大型のモニターを設置し資料などはモニターに映し出された画像で確認する。一番広い会議室は、プロジェクターの映像を投影できる200インチ相当の画面を有し、部屋の端からでも十分見える。修正もモニターを見ながらデータを書き換えるため、同時に皆が情報を共有することができる。こうして、紙が要らない環境が整ってきたのも大きな効果だといえる。
今回のフリーアドレス導入において藤本さんが特に重視したのは、スタッフが仕事に集中できる環境をいかに作り上げるかだった。事務所のエリアは大きく2つに分かれている。スタッフが仕事をするためのエリアと応接や会議を行うエリアだ。スタッフの仕事エリアは、中央にブーメランデスクが間隔をあけて配置されている。それを取り囲むようにミーティング用のテーブルや作業用の机などが並んでいる。壁や書棚、ロッカーなど視界を遮るものがなく、非常に開放的な空間に感じる。ロッカーも壁側に配置されていて、普段はその存在に気付かないだろう。
これだけでもオープンで進んだ事務所という空間を演出できていて、会計事務所に対するイメージとは異なるものを感じる。しかし、藤本さんは、フリーアドレスに独自の工夫を凝らした。ブーメランデスクは、目の前に人が座らない構図になるため、互いに視線が合わない。 事務所内にはブーメランデスクが複数台配置されていてるのだが、そこに座っている人とも視線が合わない。外側に配置した席は、室内ではなく外を向いて座るように配置している。つまり、デスクに座って作業をしている人が他の人と視線が合わないように計算されているという。その理由を「最新の研究では、視線が合うと集中できなくなる人の比率が高いという結果が報告されています。向かい合って仕事をする昔ながらの日本式の配置ではなく、視線が合わない環境で極力仕事に集中し、打合せなどが必要な場合は席を外して別のミーティング用のスペースで話をするようにした方が良いということだと考えました。そこで、今回の移転では視線が合わない配置を工夫し、打ち合わせ用のスペースを別に幾つも設けました」と解説する。 しかも、この視線が合わないフリーアドレスは、前事務所であるアクロス福岡に移った時から研究していた。今は、五年後の新しい事務所をどうするかを考え始めているというから驚いた。
藤本さんの話を聞いていると、移転は単に事務所という箱が変わるのではなく進化するための必要条件だった。まったく新しい空間をつくることできる移転という選択肢も合理的だと思える。
「三種の神器」で独自路線を快走
事務所を自由に作り変えるのであれば、自社物件を所有するという考えもあるはずだ。しかし、その考えは持ち合わせていない。「今の場所に自社ビルを建てるだけの力があれば建てたいですが、残念ながら、その力はありません。だからといって、中心部から外れたところに事務所を建てると、お客様や職員にとっての利便性が悪くなりますから」と立地にこだわる。その背景には、藤本さんが守りつづける「三種の神器」がある。
日本の少子化問題は1990(平成2)年には始まったと言われており、その傾向は今も変わらない。当然、労働人口は減り、企業が人材採用に苦労するのはかなり前から周知のことであった。藤本さんは、人手不足の時代にあっても、人が集まる事務所であるために何が必要で、どうあるべきかを創業以来、自分に問い続けてきた。その結果出した答えが、「場所、給料、研修」の3項目の充実だった。藤本さんは、これらを会計事務所が特別な採用活動をしなくても、継続してやる気のある人材を採用するための「三種の神器」と呼んでいる。
「三種の神器」に沿えば、移転先は天神や天神に隣接する地区といった交通の便がいい立地、その上で人が働きたいと思う機能を備えた施設を選ぶことになる。「世の中は、5年経つとかなり進歩します。そのスピードは年々早くなっていますから、それだけ変化も大きいわけです。私たちの仕事は、世の中の進歩についていくだけでなく、世の中の変化を先取りできなければいけません。ですから、移転先の設備も最先端のものが必要です」と語りながら、「このビルも、昨年夏に出来たばかりですから最先端の設備や空間を提供していますが、五年後には新しくできる施設よりも古くなります。当然、今よりも最先端の設備が増えますから、5年経ったら移転か拡張が必要になります」と5年先の事務所を思い描いている。
2つ目の給与については、福岡の主だった会計事務所の2割程度高く設定していが、今後はさらに高い給与体系を目指し、大手監査法人並みには引き上げたいと考えている。3つ目の研修だが、「大手監査法人にも負けていないという自負はあります」と胸を張る。あながち、大げさな表現ではないようだ。毎月、第2週の月曜日から金曜日までの1週間、朝9時半から夕方5時半までをフルに研修にあてている。内容は、専門である税務会計に関するものだ。新人は、終日、研修を受ける。新人以外も、藤本さんをはじめおおむね全員が研修に参加する。講師は、各担当者が務めることになっているので、講師役の担当者にとっても学びが多い。このように充実した研修制度によって全体のレベルアップを図っているし、今までの飛躍がそれを証明していると言えるだろう。
そして、この研修制度が自分の成長を願う求職者に対して強くアピールする魅力にもなっている。実際、最も力を入れている新卒の採用に関しては、順調に人材採用ができている。「働きやすい立地と環境を備えた事務所をつくり、クライアントに対して質の高いサービスを提供し続けることで全体の給与を上げる。そして、成長できる研修体制を構築すれば、職員が『うちの事務所は良いよ』と後輩に口コミしてくれます。これが最も強力で効果的な採用活動だと考えます。こういう活動に注力していれば採用コストは、ゼロに近くなるのではないでしょうか」。「当事務所に特別な採用活動をしなくても人が集まる仕組みをどのように構築すればよいか。『三種の神器』は、10年以上前から考え続けて出した私なりの結論です。『三種の神器』に従えば、当事務所は業界の中で一番良い場所に構えるべきですから、この場所と施設を選びました。こういうことを毎日必死に考え、実行することが経営者の仕事だと思います」。これだけのことを実際に考え、実行する経営力があるからこそ、クライアントに対してレベルの高いアドバイスができているのだろう。
「三種の神器」は、福岡事務所のみならず、東京や横浜など他の拠点でも生かされている。東京大手町に置いている東京事務所も次の移転に備えて計画を進めているようだ。
アネーラ税理士法人は来年(2025年)中をめどに、長崎と熊本に事務所を出し、九州で福岡、佐賀、長崎、熊本の四県で基盤の強化をすすめる。その後は、関東圏での拡大を目指す方針である。東京での新規事務所は、東京駅、渋谷駅を中心としたエリア、それから新宿や池袋、品川あたりを考えているという。
経営者の役割は時代の変化を見極め、先手を打つこと。そのために情報を集め戦略を練る。そして、それを誰よりも深く考え、実現させていくことだと、今回の取材で強く感じた。「三種の神器」を作り上げた、アネーラ税理士法人の関東での躍進にも期待したい。
会社概要
名 称 アネーラ税理士法人
住 所 福岡市中央区大名2-6-50福岡大名ガーデンシティ10F
拠 点 福岡事務所、天神事務所、東京事務所、横浜事務所、佐賀事務所、
北九州ひびきの事務所
グループ 社会保険労務士法人アドバンス、九州M&Aサポート株式会社、九州有限責任監査法人、
エスペランサコンサルティング株式会社
URL https://anera.or.jp/
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.158(2024年8月号)
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