愚公移山 愚公移山「ある経営者の話」 【場を整える①】―掃除―
本コーナーは、日々繰り返される日常の中にこそ経営や生き方のヒント、知恵があると考え、それを「ある経営者」の考え方や在り方を通して紹介することを目的に綴っていく。第一弾として、これから数回にわたって「場を整える」をテーマに日常についての心構えや所作について触れることにする。初回は場を整えるために最も大事な「掃除」を取り上げたい。
穢れを掃き清める
場を整えることは、どんな場面においても重要な行為である。経営の神様と称えられる松下幸之助氏は、場を整えるとは、「場をきれいに整え空気を落ち着けることであり、整った場には自然と運やチャンスが訪れる」とも語っている。
場を整える一つの行為が掃除である。掃除の歴史は古く、日本最古の歴史書である『古事記』にも記述があるほどだ。下照比売(したてるひめ)という女性の神が、夫である天若日子(あまわかひこ)を亡くした。この時、下照比売は掃き掃除をしたという話である。これは、死者の霊が再び戻ってこないために掃き清めるという儀式であった。
奈良時代になると、掃除に使う箒(ほうき)を「ははき」と呼び、神聖なものと位置付けた。お産の際に箒を逆さまに立てると安産になるという言い伝えもあり、箒神なる神様は出産の神として崇められている。
では、掃除を修業の一環として位置付けた宗派もある。禅宗 平安時代には、貴族の屋敷で使用人が掃除をする道具として、棒の先がT字型になったものに布をつけて床を掃除している。疫病などを予防するために、家の中を掃除する習慣が広がったものだと考えられている。鎌倉時代では『一掃除 二座禅 三看経(かんきん)』として、修行において掃除を最も重要視した。
■掃除は発展の原動力
このように歴史を遡ると、掃除は穢れを祓う宗教的な意味合いを持つものから始まり、江戸時代に入って今のような掃除が一般大衆に広がる。
では、現代の日常における掃除はどのような位置づけであろうか。通常、掃除といえば「目につくゴミを取り除いたりすること」だと考えるものだが、掃除の意味と効果はそれだけにとどまらないようだ。例えば、どの程度掃除が行き届いているかは、企業や家庭の発展、衰退を知るバロメーターともなる。部屋やテーブル、椅子、調度品など細部にまで掃除の行き届いた会社は、丁寧な仕事ぶりと配慮が感じられる。仕事の効率もよく生産性も高い。そのような会社と取引したくなるのは当然であろう。
反対に、玄関やトイレが汚れている会社に対して、投資家は投資を控えるという。家の玄関や庭、ベランダがものであふれ、ごみが散乱している「整っていない家」は、栄えないという話は何度も聞いた。これまで様々な企業を訪問したが、長く発展している企業は社内に清潔感がある。
先日、福岡市のある不動産を手掛ける会社を訪ねた。社長は半世紀近く事業を続ける会社の創業者で、会社は堅実に成長を続けている。応接室や会議室に通されると、細部にまで掃除が行き届き、凛とした空気が満ちている。同社発展の要因の一つは、まさに、この徹底した掃除にあるのではないかと思い、「なぜ、ここまで綺麗にするのですか」と社長に尋ねてみた。
すると、「当社は建物の管理などを行っており、お預かりした建物を綺麗な状態に保つことは我々の責務ですが、我々が、自分のオフィスを綺麗にできずにお客様の建物を綺麗に管理することなどできません」と即答。そのため、「会社ではお客様に気持ちよく過ごしていただけるよう、毎朝八時から全員で掃除して場を整えている」という。一日に何組もの客を迎えるが、客が部屋に入る前には必ず、スタッフがテーブルやアクリル板を指紋や汚れが残らないよう、丁寧に殺菌しながら拭き上げる。窓を開け新鮮な空気も取り込む徹底ぶりである。
現代でも社寺の境内を訪れると、掃き清められ「整えられた場」が広がっている。澄んだ空気に見えない力を感じる人も多いはずである。最近では、パワースポットとして紹介されるケースも増えた。掃除は見えるゴミを除くだけでなく、悪い運を掃き出し良い運を迎え入れる儀式なのであろう。そう考えると、毎日の掃除への向き合い方も変わってくるにちがいない。
「愚公移山」(ぐこういさん・ぐこういざん)
Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.173(2025年11月号)
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