経営者の知恵を後継者に残すことで100年企業の基礎を築きませんか

人びとの願いや思いを商品に込めるのもヒットの力になる

承前啓後

承前啓後 アイディア編(2)  異業種交流会「VAV倶楽部」会長 近藤昌平さん

1990年初頭にバブル経済が崩壊すると、それ以降の日本は20年とも30年ともいわれる深刻な不景気に見舞われた。大企業の倒産が相次ぎ、世界における日本の信用と地位も大きく揺らいだ。日本全体が自信をなくし、国民の多くが将来に不安を覚えていた時期である。
嗜好品であるケーキも不況の影響を直接受け、閉塞感は菓子業界でも蔓延していたようだ。この状況を打ち破るため、近藤さんは景気回復を願い日本で初めて日本酒(お神酒)を入れた「景氣快福ケーキ」なる商品を考案した。発売すると、生産が追い付かないほどのヒットとなる。「黒いケーキ屋さん」として話題を集めた近藤さんは、不景気の中でも数々のヒット商品を生み出したが、その秘訣の一つは世の中の空気を感じ取る力にあるようだ。

ケーキで「景気回復」
バブル経済が崩壊し、長引く不況に人々から笑顔が消え、世の中がどんどん暗くなっているのを感じていました。お菓子は、平和の象徴であり夢を提供するものだと考えていましたから、なんとか人々が笑顔になるようなお菓子が作れないものかと思案しました。景気という文字には「気」が入っているように、人々の不安や期待といった気持ちが強く反映することがあります。そこで、景気の回復を願って「景氣快福(けいきかいふく)ケーキ」をつくりました。

徳川将軍家の産土神である東京赤坂の日枝神社で、ご祈祷いただいたお神酒をたっぷり入れた「酒ケーキ」です。日本酒を入れた酒ケーキを作ったのは日本初だそうです。色は、ケーキには欠かせない卵の卵黄を使わず卵白だけを使い白い生地に仕上げました。出来上がったケーキは、日本酒の風味が豊かでしっとりとした味わいの、まさに「大人のためのケーキ」。

箱の表には、日枝神社の宮司さんに揮毫いただいた「景氣快福ケーキ」の文字を箔押しし、中にはケーキと一緒に日枝神社のお守りシールと皆さんに笑顔になってもらいたいという願いを込めた、私からのメッセージを入れました。ネーミングは、「景気」と「ケーキ」のごろ合わせでクスッと笑ってもらえるよう工夫したのですが、これがかなり受けたようです。

不景気のなか人々をワクワクさせ大ヒットした「景氣快福」ケーキ。

総理もケーキで験(げん)担ぎ
発売当初から大きな話題を集めましたが1998(平成10)年7月の自民党総裁に選ばれた小渕恵三元総理(第84代内閣総理大臣)が、当日の記者会見で「今日は、景気の良くなるケーキを食べてきたから日本の景気は良くなるよ」と発言されたのです。関係者から届けられた「景氣快福ケーキ」を、小渕さんが記者会見の日に召し上がったそうです。これで、さらに反響が大きくなり、工場では生産が追い付かずに嬉しい悲鳴を上げました。

お菓子は美味しいだけでなく、見た目やネーミングなどすべてで人をワクワクさせられるかということも重要です。経営者は時代の流れや消費者の嗜好の変化といった世の中の空気を読むことを日頃から心がけておきたいものですね。

近藤さんは、「アイディアはどこにでもあります」と、アイディアを見つける目を養う大切さを説く。時代の流れの潮目を見極め、それに対応、あるいは、その先をいく策を講じることが経営者の重要な役割の一つである。人がワクワクする共感を呼ぶことも商品開発のポイントの一つだといえる。


※「承前啓後」:受け継いだものや知恵を大切にし、未来を切り拓くことを意味する

承前啓後 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.158(2024年8月号)

プロフィール

近藤 昌平(こんどう しょうへい) 氏
異業種交流会「VAV倶楽部」会長、株式会社銀座・トマト会長。
ケーキの会員制宅配を日本で最初に事業化、2万7,000人の会員を
組織したり、アイディア商品を次々にヒットさせ、
「アイディアマン」「洋菓子業界の革命児」と呼ばれた。
1980(昭和55)年には異業種交流会「VAV(バブ)倶楽部」を
設立。以来、45年にわたって出逢いとビジネスチャンスの機会を
創出してきた人脈づくりの達人でもある。
【著書】
 『お礼とサービス、やり過ぎるくらいがちょうどいい』(PHP)
 『人様に可愛がられる人になりなさい』(ダイヤモンド社)
 『人脈を作りたかったら、名刺を捨てなさい』(サンマーク出版)
 など

異業種交流会 「VAV倶楽部」 http://www.vavclub.com/
株式会社銀座・トマト https://ginza-tomato.co.jp/

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画像は2024年8月号です

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