当世ビジネス芯話 ■編集人 宇野 秀史
最近のメディアやネットを見ていると、「これで〇〇円お得!」というようなコマーシャルがやたらと多いような気がします。あるいは、「それでは〇〇円も損をしている!」というように、価格の安さばかりを強調して消費者をあおるものです。誰だって得するのは嬉しい。特に、今のように円安が進み、物価が上がりつづけると支出の増加するスピードに収入が追い付かないという時代ですから、商品の値段が下がって得をするのは有り難いはずです。
しかし、行き過ぎの感は否めません。ポイントサービスも、「お得」感を飾りたててあおっているように思えるものが多い。マイナンバーカードの普及のために、政府が税金を使ってポイント付与するというような愚策に至っては、呆れて言葉も出ません。
商人は、質の向上はもちろん、お客に喜んで買ってもらうために店をきれいにしたり、見栄えを良くしたり、お客が喜ぶ提案をしたりと様々な工夫を凝らします。常連客や特別な時には価格を下げてサービスすることもあるでしょうが、それでも、安易に価格競争に走るのは避けてきたはずです。資金力の乏しい中小零細企業が価格競争に巻き込まれては、いずれじり貧の道を歩むことになるからです。
だから、提供する側は企業理念や商品の特性を理解してもらって、商品の購入やサービスを利用してもらいたいと必死で努力するのです。そうやって、日本のモノづくりは高みを目指し諸外国からジャパンブランドと認めれるようになったのではないでしょうか。それなのに、マイナポイントのように、国までが国民に損得勘定を優先するような考えを押し付けるようになりました。これでは、人々が自分の得を優先し値段ばかりを優先にするようになっても仕方のないことかもしれません。
社会人になりたての頃、値段よりも日頃の付合いなど、人との関係性で通さなければならない「筋」があることを教えてくれた「カッコいい大人」が大勢いました。しかし、最近では、そうした筋を通す大人が減ってしまい、わが身の損得ばかりを優先する「見た目だけカッコつける大人」が幅を利かせているように感じます。経済優先、グローバリズムに偏った考え方の歪みが、今の時代に出てきているのではないかと心配しているのは私だけでしょうか。
経済合理性やグローバリズムへの偏重は、ある面で商品やサービスの特性を削ることにもなりかねません。そうしたことを推し進めてきた結果、日本の商人が追求した「徳」ではなく「得」を優先する風土に変わろうとしているのではないかと感じます。
良い商人を育てるのは消費者の役目でもあります。我々が筋を通し、「徳」を大切にする風土や文化、そして筋を通す「カッコいい大人」づくりを再度求める時期にきているように感じています。皆さんはどう感じていますか。
当世ビジネス芯話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.158(2024年8月号)
プロフィール
宇野 秀史(うの ひでふみ) ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴り、経営者の知恵を後継者に伝える活動を行う。
近年は、田中家をテーマに研究を行い「田中家研究家」を自任。
URL https://www.chie-up.com
著書
『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)、
『田中の田中による田中のための本 第1巻』
『田中の田中による田中のための本 第2巻』(梓書院)
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