神社訪ねある記 ■箱嶌 八郎
五月雨や まん丸目玉の なまず絵馬
賀茂神社(福岡市早良区)
地下鉄賀茂駅近くの早良区の賀茂神社を訪ねた。宅地開発の進む町並みの中に1、2枚の植田が遠慮がちにさ緑色の風の中にあった。やがては消えて行く風景だろうか。
県道を潜って流れる金屑川に真っ赤な橋が架かっていた。「かもはし」と書いてあった。梅雨の濁り水が集まって小さな淵をなしていた。なまず神社とも言われる賀茂神社の氏子さんたちがなまずを放流し錦鯉も飼育されている。足音にカラフルに群れ寄ってくる。
橋を渡って賀茂神社の石の鳥居を潜る。元禄十六年の年紀が彫ってあった。ここ早良郡の賀茂地区は旧名、「免(めん)」とも呼ばれていた。
神社の入り口に元福岡市長、進藤一馬氏の筆で「免の里」と彫った石碑がある。免とは租税免除のことらしい。稲束三千束免などの古書がある。免除された稲を神社に奉納したようだ。橋の上のなまず広場に賀茂神社の由来となまず伝説の案内書きがあった。この神社の歴史は相当古く1200年前の免の荘園時代から社があった。おそらくここらの人々の鎮守の杜、集会所だったのであろう。
都の大きな神社の保護下にあった方が立場が守られると考えたのだろうか、免の収穫物を京都の賀茂神社に奉納したことから玉依姫(たまよりひめ)と別雷命と天児屋根命の3神の分霊を授けられ、賀茂神社の分社となったと記載にある。玉依姫とは竜宮城の乙姫様であり、神武天皇のお母さんでもある。糸島からこの辺一帯には神武天皇の出生に関する伝説が多く残っていると聞いたことがある。なにか隠された歴史があるにちがいない。
なまず伝説の起こりは、享保17年、18年(1732~1733)西日本一帯で11万人もの餓死者を出す大飢饉があった。村人は賀茂神社に祈ったら「なまずを尊べ。神の使いである」というお告げがあった。治山治水に励めば飢えることはないの神意と受け止め、以来、金屑川をきれいにしてなまず様に住みついて貰うようにつとめた。と言う伝説である。この辺の人々はそれ以来なまずを食べないそうである。
神社はクスノキ、イヌマキ、イチョウの古木に守られている。中でも大きな藤棚には驚かされた。「見事だなあ」と見上げていたら「五月の連休ごろ、紫色の花房が空を覆っていい香りが漂いますよ」と神社清掃中のご婦人に言われた。また九月には氏子さんたちがお皿の油に火を点す千灯明(せんとうみょう)の行事がある。お社が千の祈りの灯に囲まれ圧巻だそうだ。なまず様と言い藤棚と言い千灯明と言い、人は神を祀り、神は人を守って良い循環型精神安定社会が残っている。日本の原風景を保っている「免の里」、うらやましき哉と思った。
「この環境を復活し整えたお方に会いに行きませんか。元福岡県議会議長の横田進太先生ですよ。大の鯰研究家ですよ」。横田先生なら前にもお会いしている。同行の宇野さんと近くの先生の事務所に上がった。
先生は長年県政に携わっておられ議会の運営に手腕を発揮された政治家であるが地元、早良区の賀茂神社の整備にも力を尽くされた。あるお方との出会いから神社と鯰の伝説の研究に興味を持たれ『神様と鯰の物語』を著されるほどの鯰研究の大家でもある。というのは、平成八年、鯰殿下とも言われる秋篠宮殿下が福岡県にお見えになり時の麻生渡県知事と午餐会で殿下の鯰談義を聞かれ、「うちの校区にも鯰神社があります」と横田先生が発言されたのを殿下が聞かれ、「資料を持って説明に来られたし」と言われて以来、鯰研究に没頭されたそうである。賀茂神社の埋もれた資料を掘り起こし、鯰伝説の研究を前出の本にまとめて、麻生渡知事と歴史家の半田隆夫先生と鯰殿下の御侍講に上がったそうである。殿下もその研究内容に感心されたそうであった。鯰様が御皇嗣の秋篠宮殿下と早良区の方々を結びつけた、あり得ないような話であった。鯰はやはり神様のお使いのようである。
横田先生の事務所を辞して走り梅雨の中を戻った。
「以前、日田で鯰の蒲焼きを食ったことがあります。味はウナギ並ですよ。でも、バチが当たりそうでもう食えませんな」こっそり宇野さんに告白した。
■賀茂神社
創 建 不明
住 所 福岡市早良区賀茂1-29-14
御祭神 別雷神(わけいかづちのみこと)
玉依姫命(たまよりひめのみこと)
天児屋根命(あめのこやねのみこと)
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.158(2024年8月号)
著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。
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