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「第10回日展」の第5科部門で入選

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Trend&News 有限会社スタイルフィット 株式会社アトリエ香 代表・浦岡香さん

書の道は人としての生き方、企業経営にも通じる

企業向けマナー研修など研修事業を30年間手掛ける有限会社style fit(スタイルフィット)と書道教室を運営する株式会社アトリエ香の代表を務める浦岡香さんが、昨年開催された「第10回日展」の第5科部門で入選を果たした。今回の日展入選の経緯や書の世界の教えを聞くと、何かを学ぼうとする者の心の在り方から人との関わり方など、事業成功の鍵も見えてきた。

日展「第五科部門」で入選

書道教室を運営する株式会社アトリエ香の代表で書家の浦岡香(雅号:香之)さんが、昨年秋に開催された「第10回日展(日本美術展覧会)」(令和5年度)の第5科部門で入選を果たし話題を呼んだ。入選を記念して今年1月には祝賀会が開催され、書道関係者はじめ地元経済界からも浦岡さんと親交のある経営者など70人がお祝いに駆け付けた。

「日展」といえば国内最大の総合美術展覧会であり、入選することは芸術を志す人にとって非常に栄誉なこととされる。それほど権威のある日展とはどのようなものなのか。国内では毎年、様々な展覧会が開催されるが、日展は国内で最初に開催された政府主催の展覧会の流れを汲み、その歴史は明治にまで遡る。時代が江戸から明治に変わると、新政府は西欧列強に対抗する国力を蓄えるため鎖国時代に後れを取った産業の育成に力を入れる。また、対等な外交には文化レベルの高さを示すことも重要であると考え、海外で開催される万国博覧会などに参加した。国内では、さらなる文化振興を図るため展覧会を重視しする。

そうして1907(明治40)年、明治政府は日本画、洋画、彫刻の3部門を対象に日本初の官展「第1回文部省美術展覧会(文展)」を盛大に開催した。その後、1919(大正8)年には文部大臣の管理下に新設された帝国美術院が主催する「帝国美術院展(帝展)」、1937(昭和12)年からは、文部省が主催する「新文展」と名称が変わる。戦時下では開催できないこともあったが、終戦翌年の1946(昭和21)年に「日本美術展覧会(日展)」として再開、1948(昭和23)年から書が加わった。現在は、公益社団法人日展として毎年秋に日本画、洋画、彫刻、美術工芸、書の五部門を対象に開催し、選ばれた作品は国立新美術館(東京都港区)で展示される。日展は第1回文展の開催以来、110年余の歴史の中で日本を代表する芸術家を多数輩出し、常に日本の美術界をリードし続けてきた特別な存在である。

しかし、入選した当の本人は、祝賀会でも「運が良かっただけ。今回の日展入選は師匠とみなさんのおかげ」と関係者への感謝を述べる程度で控えめな様子だった。今回の日展に出品する予定はなく、篆刻で師事する師匠との会話の中で、思いがけず「出展してはどうか」と声をかけられたのがきっかけだという。締め切りまで時間がないなか作品を彫り、入選を果たしたというわけである。まさに、意図しなかった展開だったのであろう。

求道者の姿勢

浦岡さんは、今回の入選について、「運が良かっただけ」と強調する。運の良さを偶然の産物だと考える向きもある。極論になるかもしれないが、幸運、不運は多くの場合、人が連れてくるものである。運を連れてくる人といかに付き合える技量や人間力を身に付けるか。併せて、運が目の前に現れた時、迎え入れる備えができているか。こうした普段の努力が出来ている人は運に恵まれるのだろう。

浦岡さんは、それをどうやって身に付けたのであろうか。「書く修練を積めば、ある程度の実力は付きます。しかし、さらに高みを目指そうと思うのであれば、筋を通せるようになること」「例えば、師匠から直接教えを受けることだけでなく、声をかけていただくことも全てが学び。どうしても動けない病気などは別ですが、お目に掛かるだけでも何気ない会話をするだけでも自分の学びになります。ですから、師匠から出品を打診された際には、できなくても、いそがしくても、どんな状態でも『はい、よろこんで』と答えるのが筋だと考えました」という。展覧会に出品するためには、多くの作品を書くことになるから、自然と力もつく。「師匠は、そういうところも考えて、声をかけてくださっていると思います。自分の弟子でも、展覧会に出し続けている人は、驚くほど腕が上がっていますから」と、自分と弟子の関係に置き換えて師匠の思いを推し量る。

何かで実力を高めたければ、実力のある人に教えてもらうことが最善の道だといえる。その人は、そこまでの道のりを知っているのだから。だから、「考えます」「実力がありません」という態度では目の前のチャンスを逃すことになる。一所懸命に学ぼうとする弟子を引き上げたいと思うのは当然である。

筋を通すためには、心構え以外に実力も必要。加えて、経済的な面や時間の確保、精神的なゆとり、材料の確保など、いつでも対応できるように日頃から万全を期しておく備えの大切さを書の世界で学んだようだ。この考え方は、企業経営にも通じる。経営でも余裕のある時に次の備えをすることが大切である。新規事業でも、本業が傾き始めてからそれを補うために新しい事業を模索しても、場当たり的な動きになってしまい上手くいかない。平素から次のことを考えて準備し手を打つことの大切さは、様々なビジネス書でも説いている。しかし、なかなかできるものではない。

関係者の協力があったればこその入選

書道家として成長するには、師から学ぶ心得と備えに加えて、師範として弟子を育て上げる力を付けることも必要である。弟子を育てるには、弟子にとって一番いい状態を作り、その時に必要な題材を提供し適正確実に指導できる人であるべきだと教えられた。企業にあてはめれば、自分の実績を上げることはもちろん、部下の能力を引き出し、育て上げることが経営者や組織のリーダーに求められる資質ということであろう。

日展入選は、関係者の協力も大きいという。例えば、篆刻は額装した状態での審査となるため、額装も評価の対象になる。日頃から協力関係にある取引先とどれだけ関係を築いているかということも影響するのだろう。取引先の画材店が「作品のイメージにあったきれいな色のマットを付けてくださったおかげで、作品が引き立ちました」と目を細める。

こうした師匠と先輩、弟子といった書と直接関係がある人達以外に、取引先など周りの関係者に恵まれないと自分の実力以上のものは出せないという。「与えられたチャンスや施された恩に感謝して、それに報いていけるように一歩一歩の地道な努力を繰り返していれば、努力したことが報われる時もきますね。『報恩謝徳』の心が大事だと実感しています」と微笑む。

120人の生徒を抱える教室に成長

浦岡さんが代表を務めるアトリエ香では現在、運営する書道教室で約120人の生徒を指導している。教室を始めたのは、2008(平成20)年。当初は、医療法人の理事を務めながらの運営が3、4年続いたものの、その後は本格的に書道教室の経営に集中する。教室運営は、まさに経営。生徒が集まらなければ、成り立たない。経営者が最も苦労するところである。浦岡さんは、書道教室の認知度を高めるため、「学IWATAYA」の書道教室で講座を持ち、他県に教室を作って出張するなど積極的に外へ出た。香港に拠点を構え、アジアでも活動した。そうした活動が成果を上げ、生徒数も120人規模にまで拡大した。

コロナを機に福岡本校と唐津教室、「学IWATAYA」に絞るが、変わらず120名規模の生徒数を維持している。弟子も増え、その内一四人は師範の免許を取得した。通常、生徒を100人抱えることは難しいといわれるなか、時代の流れを読み生徒のニーズに対応することで120人規模を維持することができているのだろう。以前は、イベントなどに来場した人が興味を持ち教室に通うという流れが主流だった。しかし、ネットでの集客を意識したサイト運営や動画配信を行い、大半の申し込みや見学にネットで対応できるよう仕組みを作ったことが奏功した。

また、以前のように師範を目指す人が減り、書や教室に楽しさ、癒しを求めてくる人の割合が増えてきたことを感じとり、そうした生徒向けのプログラムも用意した。

30年の実績をもつ研修事業

書の世界で学んだことは、他の分野にも生かされている。書での実績の大きさから書家のイメージが前に出がちだが、浦岡さんは30年前にスタイルフィットを設立し、経営者としての経験を積んできた。医療機関の経営に携わっていた頃から現場スタッフの教育を担っていた経験を生かし、研修事業を立ち上げアパレルや食品メーカー、飲食関係など企業向けの研修を手がけた。管理栄養士の資格も生かし、九州全域に様々な飲食店を展開する企業では、店長はじめ現場スタッフの研修だけでなくコンサルティングも手掛け実績を上げている。今後はコンサルティング事業にも力を入れる。

日展入選を果たし対外的な評価はこれまで以上に高まったわけだが、「日展入選は分不相応。だから、師匠のところで開催される勉強会に通って、書道を一から学び直します」と現状に甘んじることなく成長を追い求める。研修事業も自分で資格を取得して、事業として今のモデルが出来上がるまでに10年を要したから、書でも10年後に再び日展に入ることができるよう、今から学び直して備えるという考えだ。

スタイルフィットを設立して30年。既に、事業承継を見据え備えを始めようとしている。事業の継続を考えた場合、書の分野は属人的な要素に依存するところが大きい。となれば、スタイルフィットを事業主体とし、その中の事業部として書を展開する組織の方が次の代に引き継げるのではないかと考えている。
書道や武道という「道」を追求してきた芸術や武術、匠の技を受け継ぐ職人の世界には、自分の成長と、それを次代に引き継ぐための理論や仕組みが構築されており、その中に100年、1000年続く秘訣があるのではないかと思われる。だから、書の世界に身を置き修練を重ねることで、生き様や備えに対する考え方と所作、行動が身についてくるのかもしれない。

今回は、書道の奥深さを感じるとともに、書道と企業経営との共通点を理解することができた貴重な話を聞くことができた。書の道で身にまとった力を社員のマナー研修や組織づくり、後継者育成など企業の様々な分野の困りごとの解決に生かしてもらいたい。

会社概要

名 称   有限会社style fit(スタイルフィット)
      株式会社アトリエ香
住所    福岡市中央区大濠2-11-29
代表    浦岡 香
事業内容  研修事業、書道教室運営
URL    https://stylefitjp.com/
      https://atelier-kou.net/

Trend&News  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.156(2024年6月号)

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