当世ビジネス芯話 ■編集人 宇野 秀史
人は、自分の事こそ一番の関心事
人は、自分のことに最も関心を抱いているし、自分のことを一番大切に思っている。言葉には出さないが、ほとんどの人は、「自分の話を聞いて欲しい」「自分を認めて欲しい」「自分の話に共感し、感動して欲しい」「できれば褒めて欲しい」と思っている。だから、自分の事ばかり話す人、自分の自慢話ばかりする人は敬遠される。失敗談は、相手との距離を縮める効果があるが、成功談は度が過ぎると良いことはない。
人との関係を築きたいのであれば、自分のことよりも相手のことに関心を持つことだ。その第一歩が、相手のフルネームを覚えることであろう。以前、異業種交流会を主宰する方に、ご自身の事について話をしてもらいたいと講演をお願いしたことがある。打合せの後、さっそく、講師の紹介と講師が主催する講演会と過去の講演者の一覧を30名程入れた案内書を作成し、メールで確認をお願いした。
すると、すぐにお電話をいただき、過去の講演者の名前の1字が間違っていることを指摘され驚いたことがある。その方は、自分が主宰する交流会に招いた講師のフルネームを記憶していたのだ。相手に関心を持ち、相手を大事にする気持ちがあるからこそ、人の名前を記憶しているのだろう。様々な業界に幅広い人脈をお持ちである理由が、容易に理解できた。
相手の話に没入する
次に重要なのは、話を聞くことである。できれば、聞き上手な方が良い。聞き上手になるための本は巷に溢れているので、数冊を読めば話の聞き方については理解できるだろう。
話を聞くという行為は、相手との良好な関係を築くだけではない。時には、相手を動かすことすらできる。話を聞くという行為には、それほど大きな力がある。そのことを象徴するのが、アメリカの小説家ジャック・ウッドフォードの言葉である。デール・カーネギーの名著『人を動かす』の中でも紹介されているが、聞く効果の大きさを非常にうまく表現している。それは、
「どんな誉め言葉にも惑わされない人間でも、自分の話に心を奪われた聞き手には惑わされるものである」
という短い言葉である。
決して難しいことは言っていないが、聞き手の心構えと態度が重要である。中途半端な態度で聞いていても、相手の心を動かすことはできない。しかし、自分の話に心から感動したり共鳴している相手に対しては、心を許し、相手のために何かをしようという気持ちを起こさせる力がある。
このレベルになると、聞き方や相槌の打ち方というテクニックを通り越して、全身で相手の話を聞き、受け止めるということに尽きるであろう。ここにはテクニックなどは必要ないのかもしれない。自分の都合を横に置いて、相手の話に没入すると新しい関係が見えてくるに違いない。
当世ビジネス芯話 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.155(2024年5月号)
プロフィール
宇野 秀史(うの ひでふみ) ビス・ナビ編集人
昭和40年5月生まれ、熊本県出身。熊本県立第二高校、京都産業大学経営学部卒。出版社勤務を経て、独立。2017年7月、月刊ビジネス情報誌「Bis・Navi(ビス・ナビ)」を創刊。株式会社ビジネス・コミュニケーション代表取締役。歴史の知恵、偉人や経営者が残した知恵を綴り、経営者の知恵を後継者に伝える活動を行う。
近年は、田中家をテーマに研究を行い「田中家研究家」を自任。
URL https://www.chie-up.com
著書
『トップの資質』(梓書院、共著)、『田中吉政』(梓書院、解説)、
『田中の田中による田中のための本 第1巻』
『田中の田中による田中のための本 第2巻』(梓書院)
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