絵本に学ぶ仕事術 ■有限会社ウーヴル 代表取締役 三宅 未穂子
子どもの頃家にあった柱時計は、ねじをまいて動かすタイプで、振り子のチクタクチクタクや、1時間毎のボーンボーンという時の音を出していた。ねじまきを忘れると時計は止まってしまう。そこで、時折、電話の177番から聞こえる「ピッピッピッピー」のアナウンスを聞いて、長針と短針を動かし時刻を合わせたことを、この絵本を読んで思い出した。ねじまきは父の仕事で、いつも家の時は正確に動く音がしていた。
絵本の主人公ヒギンスさんは、ある日、屋根裏部屋で立派な時計を見つける。時計の時刻が正確かどうか調べるためにどうしたらいいか考えたすえ、もう一つ時計を買ってくる。買ってきた時計は寝室においた。それから彼女は、屋根裏の古い時計と寝室に置いた新しく買った時計の時間を比べてみる。寝室の時計は3時を指し、屋根裏部屋の時計は3時1分を指していた。
さあ、どちらが正しい?
彼女は、すっかり迷ってしまい、結局、2階の台所にも1階の玄関ホールにも買ってしまう。こうして、各階に時計を揃えるが時間は全てが合わない。とうとう時計屋さんに相談するが、どれも正確だという。
ではなぜ正確だとわかったの?
絵本の絵からヒギンスさんの家の情報が読めるので、読者には合わない理由を論理的に説明できる。
時計は狂っていないのに違う時刻を指すのか。ポイントは、描かれたヒギンスさんの家の見取り図。1階は玄関ホール、2階は台所、3階が寝室。そして最上階に屋根裏部屋。この中にヒントがある。
そのなぞかけのような絵本の作者パット・ハッチンスさん。「物語が論理的にきちんとしていること心がけています」(絵本の奥付の作者紹介から引用)の言葉通り、彼女の作品の構成と展開が素晴らしく唸ってしまう。
誰もが「あるある」と、生活や仕事に自分を投影できるのは、絵本は子どものものだからと軽視せず、丁寧に創作する著者の思いが存在しているから。論理と直感の混在する絵本だからこそ、大人はたくさんの気づきを得る。時間とは? 仕事の標準とは?計画とは?絵本を中心にするだけで、チームの対話力を向上させ、いい仕事への共通認識を高めることができるのだ。
この対話の時間に、どんな感想や観察の声が上がったのか、私にも教えてほしいと思わず願ってしまいたくなる。そんな1冊だ。
『ヒギンスさんととけい』
作: パット・ハッチンス
訳: たなかのぶひこ
出版社: ほるぷ出版
発行:2006年
「絵本に学ぶ仕事術®」 Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.154(2024年4月号)
プロフィール
三宅 未穂子(みやけ みほこ)
有限会社ウーヴル 代表取締役
2005年2月25日創立、翌06年3月15日同社設立。企業向け研修やキラキラ社員のプログラム(社員によるいい仕事のための自社内研修プログラム)業務改善アドバイスを手掛けている。
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