エッセー 神社訪ねある記 ■箱嶌 成風

七五三晴れ着の鷲には羽ばたかれ

福岡市のど真ん中の岡の上に光雲神社(てるもじんじゃ)はある。一の鳥居をくぐってなだらかな坂を登ると52段の長い石の階段が見上げるようにそそり立つ。黒田家の石高、52万3000石にちなんで築いた階段数だそうである。足弱の老人には天敵だ。落葉が積もる脇道を11月末、Bis Navi社の宇野さんの車で登った。
二の鳥居の前の広場から坂を振り返ると福岡市の南部一帯と大濠公園が見下ろせる。高層建築が林立する以前には公園の水面の輝きや気象台の白い塔が眺められた。

七五三参りの子供たちが晴れ着の彩かな色に包まれ、手に手に千歳飴の長い袋を引きずりながら若い両親に連れられてご本殿に登っていく。私にもそんな楽しい時期があったなあとあたたかい気持ちになってすれ違いふりかえった。
一礼して二の鳥居をくぐり境内に入るとすぐ右脇に長政公の水牛の兜が噴水の手水台の上に据えられている。その先に名槍日本号と大盃を持った黒田二五騎のひとり母里太兵衛友信(もりたべえとものぶ)が「酒は呑めのめ呑むならば日の本一のこの槍を呑み取るほどに呑んでみろ・・」とうそぶきながら高い台座から見下ろしてござった。その足下に「目薬の木」と書かれた胸の高さほどの木が植えられていた。如水公の祖父重隆がこの木を煎じ家伝の目薬を作り黒田家の蓄財の礎になったと言う。人生何がチャンスになるかわからない。

一株の芭蕉の木が背丈ほど茂る木陰の裏に社務所があり、窓際に家内安全、商売繁盛、学業達成等々のお守りが並べられていた。作務衣姿の町田知音宮司がお仕事から戻られた玄関前で出会った。私は町田様とは実は顔見知りであった。境内をお借りして黒田藩伝の柳生新影流居合(やぎゅうしんかげりゅういあい)を毎日曜日に練習をさせてもらっており、参加者としてご挨拶していたからである。母里太兵衛の末裔、故母里市兵衛忠一先生と高岡賢範、現会長が立ち上げた荒津会で老若男女多くの会員が練習に汗を流している。最近は子供たちの入会者が増えた。巻き絞めた畳表を真剣でスパッと斬り落とす斬試(ざんし)も行い爽快な気分を味わっている。


社務所に上がって御名刺を頂いたのは初めてである。
「大陸にも近い荒津山は古来から信仰の山でした。航海の無事をここで祈ったのでしょう。黒田藩2代藩主忠之公が徳川家康を祀る東照宮を建立されたそうです。明治42年に黒田如水、長政公のお社をお城からこの地に移され、お二人の戒名をとって光雲神社として祀られたという由来があります。昭和20年福岡大空襲で全焼、昭和41年に再建され現神社になった歴史がございます」と丁寧なご説明があった。
「昭和3年、昭和天皇の大嘗祭(だいじようさい)に早良郡の脇山村がその地に選ばれ、私の妻の父、石津新一郎が大田主(おおたぬし)の重責を果たしました。その跡を私が継いで現在に至っております」
「とおっしゃるといまおいくつでいらっしゃいますか。ええ、八八才。びっくりしました。私の3年先輩ですね。本殿のあの建築基準法違反のような急な階段を供物を捧げて楽々と登られ、朗々と祝詞をあげていらっしゃる。恐れ入りました」


あとで知ったことだが、ご子息の町田光弘神主ともども慶応ボーイだそうで、大手の商社マンとして20年ほど海外生活をなさっていたとお聞きしてさらに驚いた。誰でもが話しやすいやわらかな雰囲気をお持ちなのはそのせいなのかもしれない。いつまでもご健在でいて頂きたいと念じながら社務所を出た。いま、お山は紅葉と落葉のとき、春になると1200本もの桜が満開となり全山ピンク色に包まれ市民の絶好のお花見の名所になる。

光雲神社(てるもじんじゃ)
住所 福岡市中央区西公園13-1
御祭神 黒田官兵衛孝高(如水)公
黒田長政公
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.175(2026年1月号)
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著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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