Trend&News ■トータルケア・システム株式会社/ケア・ルートサービス株式会社
トータルケア・システム株式会社(福岡市博多区、長武志社長)は2004(平成16)年7月、大牟田エコタウン内(福岡県大牟田市)に紙おむつのリサイクル専用工場「ラブフォレスト大牟田」を建設、翌2005年(平成17)4月から本格的な操業を開始した。長社長が開発した紙おむつのリサイクルシステムは、「ゴミ」として焼却していた紙おむつを水処理で分解し、素材別に再資源化する日本初、世界初の仕組みとして大きな話題を呼んだ。現在は、年間約5,000トンの使用済紙おむつを受け入れる地域のリサイクルプラントとして稼働している。

トータルケア・システム(株)社長、ケア・ルートサービス(株)会長
「布おむつ」から「紙おむつ」へ
高齢社会を迎え、日本では大人用紙おむつの需要が年々増加している。日本衛生材料工業連合会では、大人用紙おむつの使用枚数を2030年には年間八四億枚、2040年には年間95億枚と見込んでいる。紙おむつは、それまでの布おむつに比べて機能性、利便性の高さから需要が増加した。一方で焼却処分されることで環境への負荷を懸念する声も上がっているが、大人用おむつの変遷を見ると、紙おむつは利用者や医療・介護の現場スタッフの声に応えようと開発してきた歴史であった。
―近年、資源保護や二酸化炭素排出による温暖化が地球規模で問題視されるようになり、環境関連事業に注目が集まっています。長社長は2004年(平成16)、日本、そして世界初の「紙おむつリサイクルシステム」を開発されました。まずは、同システム開発の経緯を聞かせてください。
長
当社は、病院や高齢者施設向けに紙おむつや介護用品の販売、レンタルを行ってきました。紙おむつのリサイクルシステムに取り組む直接的なきっかけとなったのは、2000年頃のある国務大臣の記者会見でした。
当時、布おむつに替わって紙おむつが普及し使用する患者さんや医療、介護の現場スタッフは、その使い勝手の良さに喜んでいました。一方で布おむつの時には発生しなかった新たなゴミが発生するようになりました。
そんななか、とある地域の焼却場からダイオキシンが発生したというニュースが流れました。それに対して時の国務大臣が釈明する映像を目にしました。それを見て、紙おむつを使用している人たちの事が頭に浮かんだのです。そうした人たちが悪者になるような社会にしてはいけない。「焼却して問題が出るのであれば・・・」
とっさに、中継を見ていた社員に水の入ったバケツを用意してもらい、その中に紙おむつを入れかき混ぜました。その場にいた社員は「社長は突然、何を始めたのか」と驚いてみていましたが、しばらくするとパルプとポリマーが浮力の違いから水の中で分離し始めました。それを見せて「焼却が問題なら、水で処理すればいい。水処理をしよう」と言ったのが、紙おむつリサイクルに取り組むきっかけとなりました。水を使って分解し、パルプやポリマーなどの素材別に取り出せば資源として再利用できると考えたのです。
―今でこそ、おむつといえば紙が主流ですが、少し前までは布おむつの時代が長かったわけですね。
長
紙おむつが登場する前、おむつといえば布おむつを指しました。布おむつを使用する場合、初めの頃は、患者さんの家族が下着などと一緒に布おむつを病院や施設に届けなければならなかった。そして、使用済みのものを病院に引き取りに行って家に持ち帰る。それを洗って、また病院に届ける。この繰り返しですから、家族の負担は今よりもずっと大きかったと思います。
そのうち、布おむつのレンタルを手掛ける事業者が出てきました。当社もその中の1社です。リース契約を結べば、事業者が洗濯物の引き取りから洗濯したものを病院に届けてもらえるようになり、家族の負担がかなり軽減されました。一方、おむつや汚れたシーツなどを取り換える看護師さんたちは、尿漏れなどを抑えるために布を重ねて厚手にしますが、それでも尿漏れを防げないため現場スタッフの負担は軽減できていなかったのです。
私は仕事で病院関係を回るため、さまざまな現場を見てきました。患者さんの気持ちもわかるし、看護師さんたち現場の人の苦労もわかる。例えば、夜中におむつを替えようとすると、大人のおむつ交換は1人ではできない。それほど大変ですから、忙しい時は看護師さんも患者さんについ厳しく接してしまうことがありました。そうなると、患者さんは、ますます引け目を感じ申し訳なく思うようになる。だから、布おむつから紙おむつに替わったときには、現場も含めみんな喜んだものです。

工場として年間5,000トンの紙おむつをリサイクルする。
紙おむつの弱点を補うおむつカバーを開発
紙おむつは、患者と医療・介護現場から歓迎された。しかし、発売当初は尿漏れの問題が解消できていなかった。現在のような吸水性に優れた紙おむつが開発されるまでには時間を要した。長社長は、紙おむつの弱点を補う使い捨てのおむつカバーを開発し、患者と現場スタッフの肉体的、精神的な負担の軽減に努めた。
―紙おむつが歓迎されたのはどのような理由からですか。
長
やはり、布に比べて軽くて使い勝手がいいということです。ただ、当時の紙おむつは現在のものと比べると課題も多かった。
―具体的には。
長
軽くて見てくれもいいということで、みな紙おむつに飛びつきました。ところが、使ってみると現在の紙おむつと違って吸水性が低い。パルプしか入っていなかったので当然ですが。現在の吸水性の高いポリマーが開発されるのは、しばらく後のことです。現場では吸水力の弱さが問題視され不平不満が出ました。吸水性が低いということは、尿漏れを意味します。そのため、現場では、何枚も紙おむつを重ねて漏れないようにするのですが、患者さんは身動きできずに寝返りも打てない。
そこで、尿漏れ対策ができて、使う人の立場で軽くて使いやすい下着に近いようなものが必要だと考え、1998年(平成10)に使い捨ておむつカバーをつくりました。薄手の不織布を採用して尿漏れを防ぐとともに蒸れないおむつカバーで、カラフルなプリントをあしらい「おしゃれカバー」の名称で商品化しました。価格は決して安くはなかったのですが、かなりの反響をいただきました。
しばらくすると、現在のような吸収性に優れた軽い紙おむつが開発され、紙おむつはますます普及しました。
―しかし、紙おむつの使用量が年々増加すると、それに伴って焼却処分する量も増え、排出される二酸化炭素の増加が問題になりました。
長
紙おむつは、病院などから出る事業系廃棄物と一般家庭から出る家庭系廃棄物に分けて収集され、ゴミ処理場で焼却処分されます。そういう仕組みが整備されたことで、たくさんの人が紙おむつを使えるようになりました。しかし、それが当たり前になると、今度は焼却が問題視され大臣の釈明となったのです。

思わず口をついて出た「焼却がだめなら水で」
1つのことを追求し極めると、その先に新しい可能性や展開のチャンスが訪れるものである。長社長は、長年、布おむつに関わっていた。布おむつは、洗濯することで複数回使用できる。その後は、別の用途に再利用されるという仕組みが出来上がっていた。この布おむつ事業での経験の積み重ねが、紙おむつを燃やすことなく、しかも、再利用できる資源を作り出す発想につながったようだ。
―大臣の会見を見て「焼却がだめなら水で処理すればいい」と言われ、そこから燃やさない水処理によるリサイクルシステムが誕生したわけですが、当時、どのくらいの構想を持っていたのですか。
長
具体的な案など持ち合わせていませんでした。思わず口をついて出たものだったという表現が合っているでしょう。1つ言えることは、当社は長年、布おむつにかかわってきたから発想の下地はできていたと思います。それが、とっさに水処理という言葉になったのかもしれません。業として関わり始めたのが紙おむつだったら、水を使うということと、リサイクルするという考えは出てこなかったかもしれません。
布おむつという手作業が必要な商品からスタートして、紙おむつの誕生で手作業が要らない商品に変わった。一方で、それまで廃棄物でなかったものが焼却の対象となったことで、ゴミという位置づけになりました。紙おむつは焼却が当たり前ですが、布おむつは再利用する資源として扱っていたのです。
―使用済みの布おむつはゴミとして処分されたのではありませんか。
長
布おむつは洗濯して繰り返し使われました。素材が痛んだりしておむつとして使えなくなっても、雑巾などに加工し、ガソリンスタンドや工場で使用され役に立っていました。そうやって、布おむつをリサイクルしてきた下地があるから、おむつが布から紙に変わっても、ゴミとして焼却することなくリサイクルしようという発想に結びついたのでしょうね。
産学官連携で作り上げたリサイクルシステム
「業界初」という言葉は人を惹きつける魅力がある。長社長が打ち出した「焼却に頼らない、日本初となる使用済み紙おむつのリサイクルシステム」開発構想は、大学や行政、企業を惹きつけたようだ。そして、2004年、大牟田市内に日本初の紙おむつ専用のリサイクルプラントが完成する。
―紙おむつのリサイクルシステムの開発は大学や企業の協力も得ていました。
長
水処理でリサイクルするという方向性は示しましたが、それを実現する具体的な解決策や技術を自社で持っていたわけではありません。ただ、様々な技術を有する企業との関わりはありましたから、皆さんに協力いただいてプロジェクトを立ち上げました。そして、母校でもある福岡大学に相談したところ、興味を持ってくださり基礎研究が始まったのです。
そうやって、多くの人の協力を得てリサイクルシステムを開発したのです。研究を進めてくれた学生の1人が現在、ラブフォレスト大牟田の山田工場長です。彼が教授から出される様々な課題に取り組んで研究してくれたおかげで、基礎的な研究が進んだわけですから、彼の功績は非常に大きいと思います。



―紙おむつリサイクルシステムの開発は福岡県や国からも支援されました。
長
紙おむつのリサイクルシステムを開発した頃は、ちょうどベンチャー支援の機運が高まっていました。行政も積極的にバックアップしようという時代でしたから、タイミングにも恵まれたと思います。いい事業があれば、行政としてバックアップするという姿勢がありました。そのような状況下で、当時の麻生渡福岡県知事に紙おむつのリサイクルシステムの話をしたところ、麻生知事はすぐに賛同して話を進めてくださった。補助金の支給や行政の関係機関との調整など、支援していただきました。前例のないことを福岡の民間企業がやろうとしているわけですから、行政もバックアップしなければならないと思われたのではないでしょうか。
こうして産学官による研究開発が進み2004四年(平成16)、大牟田のエコタウン内に日本初の紙おむつ専用のリサイクル工場「ラブフォレスト大牟田」が完成しました。今では、年間5,000トンの使用済み紙おむつをリサイクルしています。
世の中の仕組みを支えるのは教育
焼却することなく水処理によって紙おむつからパルプやポリマーなどを取り出し、建築資材や燃料などとして再利用できる素材を作り出す紙おむつリサイクルシステムは、「ゴミ」として扱われているものを「資源」に変えたのである。新しい価値と仕組みを作り出した長社長が目指すのは、この仕組みを理解し支える子供への教育である。
―水処理することで、焼却で問題視される二酸化炭素排出などはクリアされますが、新たに生み出す素材はどのようなものですか。
長
パルプは建物などの外壁や内壁に使用する建築資材に、プラスチックと吸水ポリマーは固形燃料に、し尿類は微生物が分解した後に土壌改良剤などに生まれ変わります。直近では、資源化したパルプを混ぜたトイレットペーパーの発売を進めています。
―多くの方からの協力を得られたのは、長社長の考え方と取り組みが、社会の利益を生むものだと理解されたからだと言えるでしょうね。
長
元々、これで一儲けしようなどという発想で仕事をしたことはありません。私の場合、業として儲かるかどうかは2の次。あくまでも患者さんや商品を使う人が真ん中にいて、この人たちが喜ぶことをやるということを一番に考えてきました。
商売は使う人がいるから成り立つのですが、自分が儲かることばかりに意識が向くと自己満足を満たす商品、仕組み作りを重視し考えが偏ります。使う人を置き去りにせず、使った人や必要とする人がありがたいと思うようなものを作れば、結果として評価してもらえると考えています。
最近でこそ、紙おむつのリサイクルに取り組む企業も出てきていますが、少し前まで、おむつで商売ができるとは思われなかったでしょうね。だから、競業する企業も出なかった。収集運搬業を生業にしている企業でも使用済み紙おむつだけを回収するとなると手間がかかりますから、そんな面倒なことに敢えて手を付けようと考える企業は少なかったと思います。
我々は、寝具などを手掛けていた中の商品の1つとしておむつが入ってきましたから、スムーズに取り組めました。そういう下地があったからリサイクルの発想が生まれ、取り組みやすかったのだとも思います。
―紙おむつのリサイクルという新しい概念と仕組みを作ってこられた立場として、さらにこの仕組みが浸透するために必要なことは何だと考えていますか。
長
やはり、教育が大事だと考えています。おむつは生まれた時から、そして高齢になってからの両方でお世話になるものです。家族を支える絆になるものでもあると考えます。世の中は仕組みで動くものですが、それを支えるのは教育です。
ですから、子供の頃から紙おむつの価値やリサイクルの必要性について学ぶ環境と機会を作っていく必要があると考えています。その一環として、子供用に特化した紙おむつのリサイクルシステムの構築も構想しています。町中に紙おむつを処理できる小型のプラントを作り、紙おむつのリサイクルが生活の中にある環境を整えることができればと嬉しいですね。

企業概要
社名 トータルケア・システム株式会社
住所 福岡市博多区井相田1-10-40
設立 2001年(平成13)11月14日
社長 長 武志
事業内容 使用済紙おむつの水溶化処理、再生パルプ等の販売、
紙おむつリサイクル事業のコンサルティング
URL https://www.totalcare-system.co.jp/
社名 ケア・ルートサービス株式会社
住所 福岡市博多区井相田1-10-40
設立 1990年(平成2年)9月19日
社長 長 真志
事業内容 紙おむつのトータルサポート(販売/回収/リサイクル)、福祉機器/介護用品の販売・
メンテナンス、私物衣類洗濯サービス、褥瘡対策商品(エアマット・ポジショニングクッ
ション等)、消毒・殺菌サービスなど。
URL https://www.careroot.co.jp/
Trend&News Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.174(2025年12月号)
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