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『クジラが死んだら』

絵本に学ぶ仕事術

本に学ぶ仕事術  ■有限会社ウーヴル 代表取締役 三宅 未穂子

海洋生態学における重要な発見のひとつにホエールフォール(クジラの死骸落下)と呼ばれる現象がある。一生を終えたクジラは深海に沈む。そして、最長で百年もの間、深海のあらゆる生物の栄養供給減となる。死してなお、海を守るクジラの一生。その分解プロセスを子どもたちにわかりやすいように描かれている絵本を八月の命の絵本としたい。

帯に「クジラの骨に集まる深海生物のドラマ」「いのちのおわりからはじまる ふしぎないのちのつながり」とある。「第16回ようちえん絵本大賞」、「第56回講談社絵本賞」、紀伊国屋書店の「キノベス!キッズ2025年一位」などの受賞歴からも、優れた科学絵本だということがわかることだろう。

そもそも、絵本にはさまざまなジャンルがある。代表されるのは絵本の両輪と言われる物語絵本と科学絵本。このコーナーで多く登場するのは物語絵本で、哲学的要素を含み、メタファを以て「考える」ことができる。
もう一方の科学絵本は、その分野の研究者による、丁寧で緻密な研究を通して得た科学的根拠に基づき、子どもたちの目線で理解できるように創作されているのが特徴だ。大いなる科学への入門書ともいえる働きをしている。この絵本は、潜水調査船「しんかい6500」で4000mの海底に沈んだクジラの骨の周りを観察してできている。

絵本の話にもどろう。クジラがその一生を終え、深海に横たわる。その現象はまるで、太陽の光も届かない真っ暗な深海で生きる生物たちの突然巨大な食べ物の塊が降ってくるようなこと。ホットスポットを呼ばれるこの場所は、瞬時に深海生物が集まるオアシスとなる。そこで、めったにごちそうにありつけない鯨骨生物群集の生物たちの大宴会が始まる。

まず、サメなどの大型動物が食いつき、小型甲殻類や多毛類などが命をつなぐ。そのあと、クジラの骨にしか生きられないバクテリアや微生物が命をつないでいく。真っ暗な世界で行われる壮大な命のバトン。低学年の子どもたちにもわかりやすい文章とデフォルメされた魚たちに、子どもたちはこの絵本を読み何を思うだろう。私たち大人は、未来社会を担う子どもたちにどんなバトンを渡せるのだろう。

『クジラがしんだら』
 著  :江口絵理
 絵  :かわさきしゅんいち
 監 修: 藤原義弘
 出版社:童心社
 発 行:2024年

「絵本に学ぶ仕事術®」   Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.170(2025年8月号)

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プロフィール

三宅 未穂子(みやけ みほこ) 
有限会社ウーヴル 代表取締役
2005年2月25日創立、翌06年3月15日同社設立。企業向け研修やキラキラ社員のプログラム(社員によるいい仕事のための自社内研修プログラム)業務改善アドバイスを手掛けている。

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画像は2024年8月号です

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