エッセー 神社訪ねある記 ■箱嶌 成風

耳に触れ 指すり抜けて さくら飛ぶ



4月11日、早良区高取の紅葉八幡宮をお訪ねした。西新町の修猷館高校の桜満開の校庭を右手に見て防塁前を過ぎると、明治通りに面し丈の高い八幡宮の一の鳥居が建っている。左折して鳥居さんをくぐり300メートルほど坂道を登ると左手の小高い紅葉山の上に紅葉八幡宮はあった。
正面の鳥居からすぐ長い登りの石階段が続いている。数本の巨大な桜の木が頂上まで花の雲を広げていた。今年の春は低気温が続き花の満開期間が長い。花いっぱいの大枝がゆさゆさ風で揺れ絶え間なく降る落花の雪をかぶりながら上を見上げた。老人の足で登るのはちょっと無理かなとあきらめ南側の女坂から車で登ることにした。


宮司様にお会いする前に境内を宇野さんと歩いてみた。両脇に赤い紅葉の木を茂らせ白壁に朱塗り柱の御本殿があった。すぐ脇に竜の口から清水が勢いよく流れ出る手水舎がある。利生(りしよう)の水と書いてあった。絶え間なく桜くずが飛んできて苔むした岩の水鉢の水面に浮いては流れ落ちていく。紅葉八幡さまもこのシーズンは桜八幡宮である。
社務所に上がり平山晶生(ひらやまあきお)宮司にお会いした。眼鏡の奥ににこやかな目が笑みかけておられた。60齢代後半とお見受けした、ユーモアを交え闊達なお話しぶりに引き込まれていった。
室町時代(文明14年、1482)橋本村に柴田蔵人父子によって当八幡宮の社殿を建立された。江戸期に入り黒田藩2代藩主、忠之公が神社に接して別邸を建てられた。たまたま田植えを見に寄よられ、「早乙女が仲間に投げ渡した稲苗の泥水がピチャリと跳ね藩主の着物を汚したらしいです」手まねも交え宮司は昨日の出来事のように語られた。
相当の美女だったようで忠之公はこの娘が気に入り橋本の別邸でデートを重ね、やがて3代藩主光之公が生まれた。幼少時、橋本村で育たれた光之公は八幡神社を産土神社として尊崇され、やがて百道松原に移され黒田家の守護神として祀られてきた歴史がある。「ももちまつばら神社が訛(なま)って紅葉八幡になったのでしょうな」宮司は笑って語られた。
大正2年鉄道がここに敷かれるようになり、百道松原から現在地に遷座されたと言う。「君子南面す」と言い、多くの神社は南あるいは東の陽のほうに向けられて建っているが、紅葉八幡の御本殿は北向きで海に向いている。以前は高台から博多湾が一望のうちであったが今は高層建築物で視界がさえぎられてしまったのは残念である。

750年前、文永、弘安年間に元(モンゴル)の大軍が突然博多を襲った。元寇(げんこう)の役である。百道浜でモンゴル兵と鎌倉武士が激闘、多くの戦死者を出して元軍を撃退した。その戦没者を祀る小社が西南大学の一角にある防塁跡に建っている。当宮司がお祀りされておられ、昨年は元寇750年祭を平山宮司が主催された。
モンゴルからも大勢慰霊に見えたそうである。かって、この祠をお祀りしておられた女性に鎧兜の鎌倉武士が夢幻のように現れ「われらを慰霊せよ」と言って消えた逸話がある。紅葉八幡宮の御本殿が北の博多湾に向いている意味がわかるような気がしてきた。御本殿には 神功皇后、応神天皇、その御子で学業と子供の神様が祀られている。

以前、境内で黒田藩伝柳生新影流居合(やぎゆうしんかげりゆういあい)の試し斬り会に参加したことがある。水に浸した畳表を固く巻いて台に立て、真剣の日本刀でスパッと斬り落とす。肩の力を抜き大根と思って斬り通すのがこつだが少し修業が要る。会場の神楽堂の前庭にアジサイの花が満面に咲いていたから梅雨のころだった。途中、雷が鳴り出して慌てて中止、堂内で雨宿りをした。振り上げた日本刀に雷が落ちたら一巻の終わりである。そんな思い出が頭をかすめた。
10月には例大祭が行われる。西新町をはじめ早良郡在住の氏子衆が着飾り三味や笛を吹いて、鉄の杖を鳴らしながら歩く先達(せんだつ)に従い神輿を引いて町を練り歩く。柳生新影流の侍達も羽織袴に大小を指し行列のガードマンとして参加した。春は桜、夏はツツジとアジサイ、秋は紅葉に彩られる八幡宮は都心の楽園である。いつまでも利正の泉の水音が絶えないことを祈り、御本殿に一礼、桜降る女坂を下った。

紅葉八幡宮
福岡市早良区高取1-26-55
創 建 文明14年(1482)
御祭神 神功皇后(息長帯比売命 オキナガタラシヒメノミコト)
應神天皇(誉田別命 ホンダワケノミコト 八幡大神)
菟道稚郎子命(ウヂノワキノイラツコノミコト)
URL https://momijihachimangu.or.jp/
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.168(2025年6月号)
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著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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