
エッセー 神社訪ねある記 ■箱嶌 成風
春寒や こぶし固めて 矢大臣

この日は晴れていたが連日最低気温が1、2度。2月の末にこんなに寒い思いをしたことはない。中央区今川の鳥飼八幡宮を宇野さんとお訪ねした。実は私はこの神社を産土神(うぶすながみ)として育った。いや、育てられたお宮である。2年前に完成したご遷宮の工事で全く新しい神社に建て替えられ令和のご遷宮を目の当たりにしていささか戸惑いを感じていた。
鳥飼八幡宮は北の裏参道は202号線(昔は西鉄チンチン電車の通り道)と南は黒田の城下町を通って西に向かう唐津街道に挟まれている。表参道は南側である。一の鳥居を潜ると石畳の参道が真っ直ぐご本殿に伸びている。巨岩の列柱が左右に並び、楠の巨木が空を覆っていた。200年前、文化年間に立てられた楼門はそのまま残されていた。白く化粧直しを施された左大臣と矢大臣がしっかりとご本殿を守護されている。新しいご本殿は天の岩屋をイメージした巨大な岩の合掌の骨組みを茅葺きの分厚い壁で覆っている。四角にカットされた茅葺きの屋根と壁とは異例な着想である。その奥に神明造りのご本殿があった。山内圭司現宮司の意欲的で斬新な令和のご遷宮にはこれまでの神社のイメージを一変させられた。こんなお社、見たことないと驚かされた。社務所で山内宮司にお話を聞くことになった。「神社とは自然崇拝と祖霊尊崇が根本です。ましてやこの社は地下水の龍脈の上にあります。巨木が根を張り繁茂し成長し続けています。また不老水として地下水が湧き出しています。このパワーを活用させて頂き自然との共生も大切に考えました」
実は10年以上前、宮司とご遷宮のPRのため西日本新聞の川崎社長や自民党の元副総裁山崎拓氏の事務所に同道したことがある。それ以来の面会であるが立派にご遷宮を果たされた壮年期の宮司の自信と迫力に満ちたお言葉には圧倒された。神社の隅々にその思想がみずみずしく反映されている。

鳥飼八幡宮のご創建は1800年前、三韓制圧から凱旋された神功皇后(じんぐうこうごう)がここ鳥飼村の村民に暖かい接待を受け若八幡としてご本殿を作られた歴史がある。竜宮城のお姫様、玉依姫(たまよりひめ)神功皇后、応神天皇そして老臣、武内宿禰(たけのうちのすくね)が祀られている。山内現宮司は武内宿禰の末裔に当たるそうである。鳥飼村の鳥飼氏とは古代に役職で鳥を飼っていた人たちかも知れない。鳥と言っても鶏ではなく鳩、伝書鳩ではないだろうか。無線通信がないころは軍事通信に鳩を使った。つまり鳥飼村の人々は神功皇后軍の通信部隊として情報軍役に就いて活躍したのではなかろうか。その慰労に神功皇后は立ち寄られたと想像してみた。
ご遷宮前の鳥飼八幡宮には楼門の横に鳩舎が設けられ多くの鳩が住みついていた。もう70年も前のことだが、境内にあった振武館という柔道場で中学生の合宿をしていた時、この鳩の寝込みを網で襲って一網打尽に捕まえ鳩メシを作ろうと悪企みをした。夜中に実行に移したのであるがものすごい羽音とともに鳩群に飛び立たれ失敗。飛び出してこられた現宮司のお祖父様に捕まって「鳩は神様のお使いだぞ。それを食うとはバチ当たりも甚だしい。しばらくここで反省しなさい」と格子戸の嵌まった真っ暗なお神楽収蔵殿に閉じ込められ道場の先生がお詫びにくるまで幽閉されていた苦い思い出がある。


境内の北西部に202号線に面して古墳に見えるような祖霊殿が建てられている。神社に納骨堂があり祖霊尊崇のお社は珍しい施設ではなかろうか。また、境内の東北部に龍神池の林泉を建設中であるとお聞きした。龍脈水の流れる龍 穴(りゆうけつ)のパワースポットを都会の癒やしの場にされるご予定である。神社は古代人の集会の場でもあった。そこに自然と交易の場も出来たであろう。衣食のファッション交流の場にして若者達にも開放する鳥飼八幡マルシェは神社の楽しい原点でもある。着飾って色に満ちた赤子を抱いて宮参りのご家族が何組も鈴を鳴らしご本殿に柏手を打っておられた。天保六年建造の狛犬さんをバックに幸せ満杯の笑顔で記念撮影。梅花の甘い香りがかすかに漂ってきた。



鳥飼八幡宮
住 所 福岡市中央区今川2-1-17
御祭神 応神天皇
神功皇后
玉依姫尊
URL https://hachimansama.jp/
神社訪ねある記 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.166(2025年4月号)

著者:箱嶌八郎(成風) 氏
有限会社タオコーポレーション・風水家相タオ設計工房主宰。
福岡市生まれ。当仁小、中学、修猷館高、早大卒。
西日本新聞TNC文化サークル・風水教室講師・もの書き屋・エッセイスト。
・第23回森鴎外記念北九州市自分史 文学賞
・第50回福岡市文学賞
・第3回子母沢寛文学賞「愛猿記賞」 等々大賞受賞。
著作:「されど風水」あり。

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