承前啓後 アイディア編(8) ■異業種交流会「VAV倶楽部」会長 近藤昌平さん

新しいアイディアは、そう簡単に思い浮かぶものではない。具現化も難しい。具現化には相当のエネルギーを要するし、周りを巻き込まなければならない場面になると、さらにハードルが上がる。
近藤さんは、さまざまな企業、個人の記念や慶事を祝うお菓子とパッケージを企画、制作したのだが、皇族関係の記念菓も手掛けている。高松宮家の依頼で作ったオリジナルの記念菓子とパッケージは、受注から納品までわずか2週間で作り上げるという離れ業だった。お菓子もパッケージも型からおこすため、常識で考えたら出来るはずがなかった。
しかし、近藤さんは納期に間に合わせた。期待に応えたいという近藤さんの思いが、できない理由さえも出来るに力に変えたのだった。
高松宮家の記念菓子とパッケージを企画
ボンボヌール時代は、たくさんの記念菓子とそれを入れるパッケージを作りました。どれもオリジナル作品ですから、私としては強い思い入れがあります。その中でも特に印象に残っているのが、高松宮家の記念のお菓子とパッケージです。
1982(昭和57)年1月5日、和菓子時代からお付き合いのあった高松宮家に新年のご挨拶にうかがうと、妃殿下から「今日、近藤さんの記事を見ましたよ」と声をかけていただきました。その日、東京新聞で「東京新商噂聞書(おえどのあきないうわさのあれこれ)」という私のことが書かれた記事をお読みになられたそうで、御殿でお茶を頂きながら新聞のお話をしていました。
すると、妃殿下が「今度、葉山に御用邸をつくるから、その記念品を探していたところです。近藤さん何か作りませんか」とお話をいただきました。思いがけない有り難いお言葉に「ぜひやらせてください」と二つ返事でお引き受けしました。妃殿下が貝殻のコレクターでいらっしゃるのを存じていましたから、葉山の海岸をイメージしホタテ貝やアワビ、マテ貝などいろんな種類の貝殻をかたどったクッキーを提案しました。
ところが、納期が2週間後です。オリジナルですから、クッキーやパッケージの型屋さんなどに相談しても「間に合わない。絶対無理だ」と相手にしてもらえません。ここで引き下がっては、妃殿下のご期待にそえません。私は「この仕事を成功させたら、凄いことになりますよ。1日は24時間です。1日8時間働いているのを24時間働いたら3倍の仕事ができるじゃないですか」と無理やり説得し引き受けてもらいました。
皆さん、高松宮家に納める仕事ということもあり、本当に思いを合せて頑張ってくださいました。その甲斐あって、絶対無理だと思われた2週間後にはご用命のお品を納めることができました。葉山から眺める富士山を中心に、形の良い松をピンク色の缶に金色でデザインした高松宮家の記念品は大きな反響を呼びました。同じものを作って欲しいというご要望もたくさんいただきました。
実は、そのお菓子を、陛下(昭和天皇)が大変お喜びになられたというお電話を宮内庁からいただいたのには驚きました。ちょうど、昭和天皇陛下ご夫妻のダイヤモンド婚式を控えていらっしゃったので、その記念品をつくって欲しいとご依頼もいただいたのです。
今度は、松茸やまつぼっくり、カエデの葉など山で採れるいろんな型のクッキーを作りました。福島県にある重要文化財の天鏡閣のクッキーです。天皇陛下のお仕事はなかなか出来るものではありませんから嬉しかったですね。この時に作った葉山御用邸クッキーや天鏡閣クッキーのおかげで、次から次へと新しいご注文が入って大変忙しくなりました。 人様から何か頼まれたとき、「やったことがない」とか「無理だ」「時間がない」と出来ない理由を並べていては何も上手く行きません。しかし、「なんとか期待に応えたい」「喜んでもらいたい」と自分の都合より人のために一所懸命に力を尽くしていれば、応援者も現れ道は開けるものだと思います
承前啓後 Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.165(2025年3月号)
プロフィール

近藤 昌平(こんどう しょうへい) 氏
異業種交流会「VAV倶楽部」会長、株式会社銀座・トマト会長。
ケーキの会員制宅配を日本で最初に事業化、2万7,000人の会員を組織したり、アイディア商品を次々にヒットさせ、「アイディアマン」「洋菓子業界の革命児」と呼ばれた。
1980(昭和55)年には異業種交流会「VAV(バブ)倶楽部」を設立。以来、45年にわたって出逢いとビジネスチャンスの機会を創出してきた人脈づくりの達人でもある。
【著書】
『お礼とサービス、やり過ぎるくらいがちょうどいい』(PHP)
『人様に可愛がられる人になりなさい』(ダイヤモンド社)
『人脈を作りたかったら、名刺を捨てなさい』(サンマーク出版)
など
●異業種交流会 「VAV倶楽部」 http://www.vavclub.com/
●株式会社銀座・トマト https://ginza-tomato.co.jp/
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