株式会社ワイコム・パブリッシングシステムズ社長 田上恭由氏
私たちは今、クリエイティブの価値基準が大きく揺らぐ時代に生きています。三十年前、DTPの登場でデザイナーの仕事は「手作業」から「デジタル」へと移行し、ピンボケした写真や、版ズレした印刷物を見ることが亡くなりました。しかし今、より本質的な変化が起きています。それは「完璧なデザイン」という概念自体への疑問です。
素人LPにプロが勝てない!?
先日、興味深い事例に遭遇しました。あるクライアントは、高いコンバージョン率を記録している素人作成のランディングページを、プロのデザイナーに改善してもらおうと試みました。十社以上のプロフェッショナルに依頼しましたが、誰一人として既存のページを超えることができなかったのです。そのLPは、デザイン的には粗削りで、つぎはぎだらけ。制作者であるクライアント自身も納得していない「不完全」なものでした。しかし、なぜか高いコンバージョンを生み出し続けているのです。
この現象は、現代の理論で固められたクリエイティブの「弱点」を、鋭くえぐり出しています。整然としたレイアウト、美しい配色、セオリー通りの構成―しかし、私たちの心を動かすのは、必ずしもそういった「完璧さ」ではないのです。
むしろ、予測を超えた「ズレ」や「歪み」、理論では説明できない「不完全さ」が、人々の興味を引き、安心感をもたらし、人の心を動かすようになっています。デジタル時代の、綺麗だけど個性のない情報やデザインに疲れ始めているのではないでしょうか。
完璧よりも、不完全さが人を動かす!?
今後五年間で、クリエイターに求められる才能は大きく変化するでしょう。技術的な完成度を追求する時代は終わり、「意図的な不完全さ」や「予測を裏切る驚き」を設計できる感性が必要とされるのです。
例えば、ウェブデザインにおいて、完璧に整理されたグリッドレイアウトよりも、あえてリズムを崩した配置の方が印象に残るかもしれません。文法的に完璧な文章よりも、あえて言い切らない余白を持った表現の方が、想像力を刺激するでしょう。
「なぜそれが効果的なのか説明できない」ことこそ、実は最も人間らしい価値を持っているのではないでしょうか。私たちは「完璧な答え」を追求するあまり、「人間ならではの曖昧さ」や「理論を超えた直感」を感じる「感性」を捨ててしまった気がします。
クリエイターという職業の本質的な役割の変化を示唆している気がします。「技術的な完成度」を競う時代は終わり、「人の心を揺さぶる不完全な何か」をデザインする時代が始まっているのです。

IT時代に乗り遅れるな Bis・Navi(ビス・ナビ)Vol.164(2025年2月号)
プロフィール

田上 恭由(たがみ やすゆき)
株式会社ワイコム・パブリッシングシステムズ 代表取締役
「ふくおか経済」記者・営業、地元中古車情報誌出版社に転職後に編集者、システム開発者を経て、平成九年個人創業、翌年法人成りで現職に。上級ウェブ解析士、採用定着士。中小・小規模事業者のウェブサイト構築実績は七百件以上。保守業務の安定性とスピード、成果向上実績多数で、現在130サイトを管理中。IT導入補助支援事業者、認定支援機関。趣味は旅行、バー巡り。
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