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観光を支える宿泊施設の環境改善に尽力

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Trend&News 株式会社プレジデントハカタ / 福岡市ホテル旅館組合

新型コロナウイルスが「2類相当」から「5類」に移行した2023年5月以降、観光地には国内外から人が押し寄せ観光産業は息を吹き返した。福岡市内でも連日多くの観光客を目にする。しかし、ホテルや旅館といった宿泊施設は、福岡市が制定した「宿泊税」の徴収で現場スタッフが大きなストレスを抱え、徴収にかかるコスト負担などで苦しい立場に立たされている。

株式会社プレジデントハカタ社長、
福岡市ホテル旅館組合組合長を務める
友杉隆志さん

観光業界は昨年から需要が回復

―昨年5月(2024年5月)に新型コロナウイルスが「2類相当」から「5類」に移行しました。それに伴い出張や観光で福岡を訪れる宿泊客も戻ってきているようです。プレジデントホテル博多を核とするホテルグループを福岡市で運営する経営者、また、福岡市ホテル旅館組合の組合長の立場から、宿泊業の現況について聞かせてください。
友杉
新型コロナウイルスが、「2類相当」から「5類」に移行したこともあり宿泊されるお客さまが増えました。それに加えて、円安の進行もあり海外からの観光客も増加しインバウンド需要が高まっているという良い状態が続いています。福岡市内においては、ほとんどの宿泊施設でコロナ前かそれ以上の稼働率を維持しているのではないでしょうか。
当社を例に挙げると、コロナ前は「プレジデントホテル博多」と「ホテル ラ フォレスタ」の2つのホテルで年間の平均稼働率が98%を超え、ほぼ満室状態が続いていました。ところが、新型コロナウイルスの感染が拡大したことで宿泊数が激減し10%台にまで落ち込みました。その状況から2年近くも回復せず厳しい状況が続きました。プレジデントホテル博多は、1カ月間の休館も余儀なくされました。

ただ、この間にプレジデントホテル博多の全室改装工事を行い、それが奏功してコロナが収束すると稼働率が以前の水準に戻りましたし改装によって正規料金もアップしました。また、コロナ期間中にホテル3棟の運営を委託され、客室が200室ほど増え、グループ全体で480室余を運営するような規模の拡大を図りました。新しいホテルも客数が伸び、5つあるホテル全てで95%以上の稼働率を達成しています。グループ全体の業績も伸び、稼働率、客室単価、売上高、利益が過去最高を更新しました。

―インバウンド需要も伸びていますね。
友杉
当ホテルでは、コロナ前までは主に日本人宿泊客を対象としていましたので、インバウンドの比率は7~8%程度にとどまっていましたが、今は30%程度に増えています。多い月には40%近くまで増えたこともありました。
―アジアからの観光客が多いようですね。
友杉
韓国からのお客様が圧倒的に多く、次いで台湾、タイ、香港からの方々です。中国からの観光客は大型客船で来られる方が多いので、ホテル宿泊より船内泊が多いですね。

「前泊後泊」客の「荷物預り」が悩みの種

―訪日客について、近年の観光スタイルに変化は見られますか。
友杉
飛行機や船で到着した初日に福岡で1泊し、翌日から大分や鹿児島、長崎など九州を巡って帰国する前日にまた福岡で1泊する福岡での「前泊後泊」が増えています。

―コロナ後、海外からの観光客が急増し有名な観光地での渋滞、レンタカーの事故などオーバーツーリズムによる問題が指摘されています。宿泊施設ではインバウンドに関連した問題やトラブルは見られませんか。
友杉
案外知られていませんが、我々の業界では「荷物預り」が問題になっています。チェックアウト後に大きな荷物を宿泊した施設に預け、必要な分だけを持って次の宿泊地に移動され、帰国する前日に荷物を預けていた施設に再度宿泊する。前泊と後泊をされるため施設側も荷物預りを断れない。5日間も荷物を預かることがあり、我々は荷物の保管場所を確保しなければいけません。これが今、多くの宿泊施設、特にビジネスホテルで頭を痛めている問題の1つです。
当館の場合は、博多駅に近いため博多駅のロッカーを利用してもらえればすむのですが、駅のロッカーが空いていない、空いていても荷物が大きくて入らないといったことが頻発しています。

ロビーに置かれた荷物。インバウンドの急増で、本来のロビーとして使えない状態が続き
施設側は頭を抱えている。

―福岡市は、2020年4月から国内だけでなく海外からの宿泊客からも宿泊税を徴収しているわけですから、こうした問題対策に活用すべきだと思います。
友杉
宿泊税は観光目的税ですから、博多駅構内に有料のコインロッカーを設置するなどの対策に使ってもらえれば、荷物を預かる施設側の負担は減ると思います。インバウンドが増えている地域は、同じような悩みを抱えています。

―最近は、外国人がレンタカーで起こす事故が多いことも問題になっています。宿泊料の決済でも問題が起きていると聞きます。
友杉
確かに、予約を受けたのに当日お見えにならず、連絡先が分からないためにキャンセル料を請求できない。結局ホテル側が泣き寝入りするというケースが幾つもありました。その対策として当社では、海外からのお客様についてはクレジットカードでの事前決済方式でしか予約を受けないシステムを導入したことで、キャンセルが発生してもその分のキャンセル料を頂くことができるようになりました。
決済トラブルは減ったのですが、実は前出の宿泊税が我々施設にとって大きな負担になるのです。このことは業界関係者以外ほとんど知られていません。

フロントスタッフの大きな負担

―具体的に聞かせてください。
友杉
福岡市内の宿泊施設は、福岡市の条例に従ってチェックインの際にフロントで宿泊税をお預かりしなければなりません。お客様にとっては、追加料金を請求されるわけです。しかも、多くの施設が現金で徴収していますから、お客様からは「これは何?」と疑問を持たれる。気分を害される方もいらっしゃいます。
福岡市は、「福岡市宿泊税条例」を制定し2020年4月から宿泊税の徴収を始めました。1人1泊2万円までは200円。2人であれば1泊400円、5泊すれば宿泊税だけで2000円の出費になるわけです。2万円を超える宿泊の場合は、1人1泊500円を徴収されますから、お客様の負担はさらに大きくなります。

国内で宿泊税を導入しているのは、東京都や大阪府、京都市など9つの自治体だけですから、宿泊税を徴収しない都道府県の方が多いわけです。こうした事情をフロントスタッフがお客様1人ひとりに丁寧に説明することになります。海外からのお客様への説明ではスムーズにいかないこともありますから、その分チェックインに要する時間が長くなりフロントが混み合います。当然、他のお客様のチェックインも遅くなり、多くのお客様にご迷惑をおかけしているのが現状です。福岡市は外国人観光客向けにパンフレットを作成していますが、理解されていない方も多いようです。この説明に要する労力と時間は相当なもので、スタッフにはかなり大きな精神的ストレスがかかっています。

―日本人の宿泊税に対する反応は?
友杉
導入当初は、疑問に思われる方もいらっしゃいましたが、最近はかなり理解してもらえるようにはなったと感じています。ただ、ビジネスで利用されるお客さまの多くは、領収書を求められますので、200円の領収書を発行することになります。

―それだけでも手間ですね。宿泊代に含めて決済するわけにはいかないのですか。
友杉
宿泊代には消費税がかかりますが、宿泊税にはかかりません。そのため、宿泊代と宿泊税を合算して消費税を計算できない。内訳を表示するか領収書を分けて発行するにはシステムの変更が必要になります。宿泊税の領収書を発行するだけのために施設がシステム変更の費用を負担しなければならなくなります。

年間29億円もの増収

―特定の業界だけに負担を押し付けるという考え方は、そもそもおかしいと感じます。
友杉
宿泊税を徴収することで、福岡市は年間約29億円もの税収が見込めます。ちなみに北九州市は約4億円、福岡市と北九州市を除いた福岡県では約20億円です。これから先もインバウンド需要は高まりますから、さらに大きな税収を見込むことができるわけです。

条例では、我々が納めた分から一定割合を手数料として事業者に戻す報奨金制度があります。法務省が一律2.5%に定めていますが、福岡市は導入から3年間は0.5%を上乗せし電子申請するとさらに0.5%を加算していますから、現状は最大3.5%が報奨金として施設に戻されます。
ところが、この上乗せ分は3年間だけで来年度から加算分をなくして2.5%に戻すと言っています。我々にこれだけの負担を強いておきながら、手数料を減らすということに対して宿泊業界は「納得できない」と感じています。

―フロント業務の負担増やシステム変更などにかかるコスト増など施設側への負担がより大きくなっているなかで、手数料を減らすという考え方は確かに納得できません。
友杉
福岡市は税収が足りないわけではありません。毎年、1億~2億円が繰り越しされており、昨年までで9億円が余っています。単年度制ということで、次年度に持ち越せないという理由からでしょうか、予算を税収以上に組むことで繰り越しているお金を消化しようとしているようです。そうやって少しずつ減らしているのですが、それでも現在、約7億円が残っています。これだけ繰り越している資金がありながら、我々の手数料をさらに下げるというのです。

徴収代行の施設側が手数料を負担?

―現実的な解決策はありませんか。
友杉
宿泊税を宿泊料金に含めることだと考えます。宿泊料が1万円であれば、最初から宿泊料を上乗せして1万200円にできるようにして欲しい。お客様は、同じ金額を一度に支払い、そこから200円を自動的に宿泊税に回すやり方が一番スムーズです。

しかし、宿泊料金に宿泊税を加えた1万200円をクレジットカードで決済すると、クレジット会社に支払う手数料3~4%を施設側が負担することになります。楽天やじゃらんなど集客サイトで申し込まれた場合、送客手数料としてさらに7~8%を引かれます。そうなると、福岡市の代わりに宿泊税を預かったのに、10~12%の手数料を我々事業者が支払わなければならないことになります。
例えば、当グループでは年間約5,000万円の宿泊税を福岡市に納めています。これをすべてクレジット決済にすると、500万円以上もの手数料を当社が負担するというおかしな現象が起きます。ですから、宿泊税だけを現金で預かることになるわけです。

それで、2.5%に7.5%を乗せて10%を戻していただけるよう要望しています。ただでさえ人手不足で苦しんでいるなか、ストレス過多で働く人が減ってしまうのではないかと不安に感じています。そうなれば、お客様へのサービス低下を招く恐れがあります。

―毎年繰り越すだけの税収があるわけですから、無理な話ではないはずです。福岡市が公表している「令和5年度 宿泊税充当事業のご報告」を読むと、様々な事業に宿泊税が割り当てられています。観光産業の振興のための予算が多いようですが、首を傾げたくなるような項目もあります。なかでもMICE関連施設に7億円近い予算を拠出しているのは行き過ぎのように感じます。一方、「宿泊事業者受入環境充実の支援」という項目があります。この項目について報告書では「宿泊事業者による受け入れ環境の充実や、生産性向上などに向けた取組みを支援」と説明しています。その金額は4,200万円弱です。29億円のわずか、0.1%余りです。最も大変な思いをしている宿泊業に携わる方々への配慮がなさすぎるのではないでしょうか。
友杉
特定の施設に毎年7億円も使う必要があるとは思えません。そのことについて、担当課に尋ねると事業費という回答でした。宿泊税は観光関連に使うことは認められていますが、事業費には使えないはずです。
昨年、舞鶴公園に福岡城の天守閣をライトアップするイベントが開催されました。これには約9,000万円の事業費全額を宿泊税から拠出しています。

―このイベントについては印象が薄いですし、それほどの予算が投じられたとも想像しませんでした。
友杉
ほとんどの人がご存じありませんし、我々の業界ですら知る人はほんのわずかです。現地でも宿泊税で賄われているという案内もない。さらに、福岡市からの報告もありません。
福岡市では午後2時から5時の間に訪れる観光スポットが少ないという「2時・5時問題」が指摘されています。この対策のためにも新たな観光資源の開発は必要です。

宿泊税の徴収方法と集めた資金を何にあてるのかについてもっと開かれた議論が活発に行われる環境を作る必要があると考えています。そうした議論を促すためには、我々の業界としても現場の声を届ける必要がありますし、観光産業に携わる者としてアイディアや意見を出して福岡をより魅力的な町にしていきたいと考え、2023年3月に福岡県旅館ホテル生活衛生同業組合の下に「福岡市ホテル旅館組合」を設しました。組合では、宿泊税を徴収する現場の負担や宿泊施設の苦しみを理解していただきたいと、11月27日、福岡市や関係部署に対して要望書を提出しました。我々が要望しているのは、とにかく現場のストレスを解消して欲しいということです。また、組合では自民党福岡市議団の協力を得て「福岡市観光産業振興議員連盟(観議連)」を伊藤嘉人会長に依頼し設立していただきまし。そして、宿泊税の在り方や活用方法などについて実りある提言が行えるよう、勉強会も開催しています。

―観光資源開発についての研究は進んでいますか。
友杉
博多人形師の中村信喬会長に依頼して「観光開発倶楽部」を設立しました。ここでは、新しい観光資源や観光ルートの開発について意見を出し合っています。例えば、西公園の光雲(てるも)神社は由緒ある場所ですが、神社に登るアプローチを石段にした歴史を感じられる灯篭づくりなども考えています。能古島や志賀島、志賀海神社といったところとルートができると1つの観光ルートなど新しい構想を練っています。
観議連での意見と観光開発倶楽部でのアイディアをまとめ、福岡市の他の組合との連盟で要望書と提案書を提出する予定です。

―皆さんの声が届き現場の人たちの環境が改善されることを願っています。

『福岡市観光産業振興議員連盟観議連(観議連)』設立時の集合写真。(2023年11月24日)
観議連と観光開発倶楽部は、宿泊税と観光資源開発を目的とした合同勉強会を開催している。

組織概要

名  称 株式会社プレジデントハカタ
住  所 福岡市博多区博多駅前1-14-7
設  立 1968(昭和43)年7月
資本金  2,400万円
事業内容 ホテル・飲食店経営、駐車場経営
URⅬ  https://president-hotel.jp/

名  称 福岡市ホテル旅館組合
住  所 (事務局)福岡市博多区博多駅前1-14-7
設  立 2023(令和5)年3月
組合長  友杉隆志
事業内容 組合員の運営支援

Trend&News  Bis・Navi(ビス・ナビ) Vol.163(2025年1月号)

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